第85話 10人目の婚約者
擬似ダンジョン最下層。
ここにいるモンスターはとんでもなく強い。
平均の要求レベルは800。
おそらく誰一人たどり着くことのできない魔境だ。
「グルフシャアアアアア――――っ!?グギャ?」
「煩い」
僕とヴィエレッタの二人。
まさにモンスターにとってはあり得ないご馳走だ。
襲い来るモンスター。
僕の周りにはすでに数十体のモンスターがその姿を光に変え始めていた。
実は気が動転していた僕。
秘密基地に行く事、失念していたんだよね。
「…ヴィエレッタ…ごめん…僕は…僕は…」
「…ライト?…え?なんで…ライトの瞳…凄く優しい?」
僕は思わずヴィエレッタを抱きしめた。
甦る数十万年前の光景。
初めて彼女に会った時の感動…
僕はそれを脳内で思い描いていた。
※※※※※
恐らく体感では数百万年前。
でも鮮やかによみがえる光景――
――揺れる馬車の中。
まるで七五三のように飾り立てられた俺は柄にもなく緊張していた。
「…ライト様…もうじき到着いたします」
「うん。ありがとう、フェデス」
今夜俺は10歳にして。
婚約者であるルギイッド王国の第2王女、ヴィエレッタ嬢との面通しを行うため馬車に揺られていた。
ついにヒューマンへと転生した俺。
既にここまで来るのに俺は…数万回は死んでヒューマンをやり直していたんだ。
でも新たなイベント。
何より婚約者との面通し。
散々擦れてしまっていた俺だけど、やはり新たなイベントには心が弾む。
(…襲撃とかされないよな?…ルイミナスの阿呆には偽情報を流してある。今頃奴は東の王国にいるはず…)
そうはいっても俺のスキルは厄介だ。
ありえないような些細なことで俺は死に続けていた。
「まもなく…いえ。到着いたしました。王宮の離宮『モルーツムーン宮殿』です」
無事に着いた。
俺は安堵の息を吐き出していた。
「ありがとう。フェデス。…父上たちはもう来ているんだよね」
「さようでございます…ライト様」
「うん?」
「…是非良い出会いを」
「ありがとう。…行ってくる」
馬車を降りた僕の目に飛び込んでくる美しい宮殿。
従者が整列し、まだ10歳の僕に最大の礼を現している。
まあ。
今回の相手はこの国、ルギイッド王国の第二王女。
この対応は当然だった。
※※※※※
華やかな宮殿の内部。
まるで舞踏会のような豪華な料理の数々。
流石は国王の娘、ヴィエレッタの婚約者選定の儀だ。
「ライト。待っていたぞ…フム。良い顔をしておる。流石は我が息子だ」
「ありがとうございます父上」
「…ふん。流石のお前も緊張しておるな…久方ぶりに見たぞ?お前の感情の揺れる表情」
そうだ。
俺はあまりにも繰り返しすぎたせいで…
もうこの時点で家族との会話も必要最低限になっていたんだ。
「あらあら。ライトちゃん…あなたでも緊張するのね?お母様は嬉しいです。久しぶりにあなたらしい顔を見れて」
「…からかわないでくださいお母様。僕だって緊張くらいしますよ?」
ああ。
このセリフ。
あと何百回と繰り返すのだろう…
俺の脳裏はどんどん冷え切っていったんだ。
※※※※※
今回の婚約者選定の儀。
建前上多くの貴族令息が集められていた。
まあ貴族社会は談合社会だ。
すでに俺とヴィエレッタの婚約は決まっているのだが。
対外的にはヴィエレッタが気に入ったものを選ぶ運びとなっていた。
『第2王女、ヴィエレッタ様のご登場』
厳かな演奏とともに会場に姿を現すヴィエレッタ第2王女。
初めて目にした着飾ったその姿に、俺は迂闊にも見蕩れてしまっていた。
(……美しい…彼女が…ヴィエレッタが…俺の妻に?…マジか…)
当然だがまだ子供。
彼女は俺より1歳上の11歳だ。
11歳にしては整ったスタイルに魅惑的な可愛らしい顔。
美しいドレスに包まれた彼女はまさに妖精のようだった。
気付けば俺は彼女に求愛の姿勢をとっていた。
跪き手を差し出す。
「ヴィエレッタ第2王女…今宵はどうか、僕の手を…」
「…まあ。…ライト様…喜んで」
どよめきが湧く。
ついに出会った俺の嫁。
そして。
その後のお茶会で俺は毒殺されたんだ。
そして始まる地獄のような繰り返しの日々。
俺の瞳は徐々に光を無くしていったんだ。
※※※※※
脳によぎった過去の事。
僕はもう感極まってしまう。
「ヴィエレッタ…君は美しい」
「うえっ?!ラ、ライト?…お腹でも痛いの?」
ああ。
目の前に僕が焦がれたヴィエレッタがいる。
少し幼い彼女。
きっと今の僕とほとんど変わらない年齢なのだろう。
「ねえ。僕はさ。…君に謝りたい。そして…出来るなら…結婚してほしい」
「えっ?!…うそ……ライトが…ぐすっ…あ、あたしを?…ヒック…ぐす…うあ、うあああああ…」
そっと僕はヴィエレッタを抱きしめた。
…いかん。
つい求婚しちゃったけど…
10人目?
「うあ、え、えっと…ヴィエレッタは『セイ』だったから知ってると思うけど…そ、その」
「ぐす。…知ってる。…私10人目よね?…ヒック…グス…でも…嬉しい」
「ヴィエレッタ…」
うるんだ瞳で目を見つめる。
鼓動が跳ねる。
「ねえ?どうしてあなたは…あんなに冷たかったの?今のあなたと大違い」
「うん。話せば長くなっちゃうから…寮に戻ろうか」
「うん」
手をつなぐ僕ら。
可愛い小さな手。
今度こそ幸せにする。
そう誓いながら僕は寮へと転移したんだ。
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