第7話 猛る女神様とキャルン姉さま
ほぼ同時刻――
自室で魔術の授業を受けているキャルンは暗鬱な気持ちに包まれていた。
※※※※※
私はキャルン・ガルデス。
ガルデス辺境伯家の長女。
今私は魔術のお勉強の最中なのだけれど……
今日我が家には王宮からの客人が、ライトを訪ねてきているの。
いったい何のお話なの?
すっごく不安。
「キャルン?気が散っているな。…そんなんじゃ魔術を使うには“ほど遠い”ぞ?」
「……はい。ごめんなさいヒャルマ先生。……ふうっ」
魔術を教えてくれるヒャルマ先生。
確か19歳なのだけれど、先生は魔力が強すぎて成長が遅いらしいの。
見た目は15歳くらいなのよね。
しかもかなり可愛い。
元々ライトの家庭教師。
…ちょっと心配。
実は私もライトが洗礼を受けた次の日から教わることになったの。
そしてもう一つ私が集中できない理由があるのよね。
……いきなり押しかけて来た守護精霊のティア。
あの女はライトに近すぎるっ!
あの女が来てからというもの、可愛いライトは私との時間が減ってしまっている。
「キャルン姉さま」と言いながら私の後に付いてくるライト。
あうう、本当に可愛い♡
私大きくなったらライトと結婚するんだもの。
あの女は邪魔。
…むう、いい方法ないのかしら?
「はあ」
思わずため息が出てしまう。
それにライト…お父様にそっくりなのよね。
絶対にかっこよくなるわ♡
5歳のくせにやけに落ち着いているし。
たまにすっごく大人なのよね……カッコいい♡
それなのにいきなり来たティア様はライトとの距離感がおかしい。
いつでもベタベタとくっついている。
あまつさえこの前など勝手にライトのベッドに潜り込み一緒に寝ていたのっ!!
(…う、羨ましい)
嫌な焦燥感に包まれる私。
そしてその気持ちと今回の訪問客。
つい言葉が漏れてしまう。
「はあ。……ライト、大丈夫かな」
「なんだ?ライトの事が心配なのか。ふむ。……休憩がてら覗いてきたらどうだ。なーに、たまたま通りかかったふりでもすればよい。まだお前は7歳の子供だ。不審には思われまい」
「……そう、かな?」
「何より今のままでは勉強も進まないだろう。キャルンが『どこに行くか』など私は知らんのだ。しばし休憩にしよう」
「は、はい」
私は立ち上がり、恐る恐る応接室へと歩いて行った。
そして目撃する。
扉の前で中の様子を見ていたティアが、突然大声を出しながら部屋に突入する瞬間を。
「えっ!?……な、何なの?!」
私はそっと中の様子を覗った。
そして聞いてしまう。
ライトの婚約の話を。
目の前が真っ白になっていく…
※※※※※
「ダメえええええ―――――――――――――!!!!!!!!」
突然応接室のドアが開かれ、女神ティアリーナ、もとい“守護精霊ティア”が大声を上げながら飛び込んできた。
「ええっ?!ティア…ぶはあ?!」
そして僕に抱き着き、キッとロキラス殿下を睨み付ける。
なんかやばい魔力纏っている?
そ、それよりも、は、離れて……ぼ、僕の顔……い、息が…?!!!
おもむろに僕は両手で押し返す。
僕の手は“うっかり”ティアを……鷲づかんでいた。
ちょうどよい大きさの、形の良いそれ。
めっちゃ柔らかい?!!
「あんっ。もう。…そんなように触られたら――わたくし、壊れてしまいます♡」
突然のことに固まる応接室の面々。
さっきまでの落差?!
僕は何とか咳ばらいをし、ティアを隣の席に座らせた。
「コホン。えっと……」
「……女神…様?!」
っ?!…えっ?…ロキラス殿下?!
「…違います。私はライト様の“守護精霊”――ティアです」
「う、うむ。…そうであったか……」
なんかメチャクチャ場の雰囲気が……
はあ。
なんかサルツさん、目が飛び出るほど見開いて固まっちゃってるし?
ハハハ、ハ。
※※※※※
「コホン…取り敢えず、良いだろうか」
「は、はい」
混乱したものの、どうにかティアが同席することを条件に会話は再開された。
まずは父上が口火を切る。
「……ロキラス、先ほどの婚約の話……本気か?」
そうだよね。
僕はまだ5歳。
婚約なんてまだ早すぎる。
父上、ここはしっかり言っちゃってください。
「…我が娘シャルルは今4歳だ。いずれ王族からは抜けるが“公爵位”を得る。辺境伯家長男とならつり合いは取れよう」
あー、確かに。
前の世界でも、そういう事はあったよね……
ある程度の地位にある以上、婚約とかは避けられないのは分かるけど…
確か同じ女の子と1000回以上は結婚したっけ。
僕、あの時は“侯爵家当主”だったし。
「ダメです」
即拒絶するティア。
そしてやっぱり僕の腕を取り密着してくる。
うう、顔が赤くなっちゃうよ?
なんかいい匂いするし。
「守護精霊殿、これは必要な事なのです。ライトは絶対に我が国、ひいてはこの世界の希望になるでしょう。このまま放置などあり得ない。だからこその婚約なのです……分かってほしい」
「承服できません…精霊の言葉です。…理解しなさい」
やっぱり即答。
しかも今度は真剣の表情のおまけ付き。
すさまじい魔力を噴き上げ始める。
「ぐうっ、な、なんという魔力圧…」
あー、これは平行線のやつだ。
どうにか改善策はないものかと僕は父上に視線を送る。
?!……横向いている?!!
ち、父上――――――――!!!
そして…混乱は拡大していく。
何とキャルン姉さままで部屋に飛び込んできた。
「うわあ――――ん、やだ、やだあああ――――」
そしてティアを押しのけ僕に抱き着いてくるキャルン姉さま。
何で泣いているの?!!
ていうか右にティア、左に姉さま?
何処のハーレム野郎だよ!?
「キャルン?……ロキ…コホン、殿下、娘がご無礼を」
「い、いや、かまわないが……キャルン嬢?そなたまで…」
「ライトは私と結婚するのっ。とったらダメええ――――」
姉さま?
えっと姉弟じゃ結婚できないよね?!
この世界の常識が分からん!
「むう、負けませんわ♡」
そしてさらに密着してくるティア。
もうメチャクチャだ。
収拾のつかないカオス。
美しいティアと可愛い姉さまが僕を引っ張り合う。
何この板挟み!?
僕の両腕の自由は奪われた。
結局話はうやむやになり、王宮からの使者との会談は終了した。
※※※※※
どうしてこうなった!?
歓待の夕食。
何故か僕の両隣に陣取るティアとキャルン姉さま。
二人の間に挟まれ僕は小さくなって俯かざるを得ない。
「もう。キャルン?お客様の前ですよ。――ちゃんとしなさい」
「むう。だって、だって…」
「だってじゃありません。……ティア様?そ、その、近すぎでは?それではライト、食事をとれませんよ」
「あら、心配ありませんわ。わたくしが食べさせてあげますもの♡」
そう言ってスプーンでスープをよそい僕の口に近づけるティア。
「はい、あーん♡」
「うう、……あ、あーん」
味が全く分からない!?
「うふふ。可愛い♡」
そしてそっと僕の唇についたスープを指で拭い、ぺろりと可愛らしい舌で舐めるティア。
恥ずかしすぎるんですけど?!!
(うぐう、お客さんの前だからっ!…もう…勘弁してえええ!!)
その様子に色めき立つキャルン姉さま。
思わず立ち上がる。
「むうううっ、ずるい、私も…」
「キャルン」
「ひうっ?!」
見かねた父上が口を開く。
聞いた事の無いような低い声に、思わず僕まで背筋が伸びる。
キャルン姉さまは涙目だ。
「いい加減にしなさい。ティア殿も。……お客様の前です。控えていただけないだろうか」
「……はあい」
渋々離れるティア。
なんで顔赤いの?
反省していませんよねっ!?
ふう。
何はともあれ。
どうにか落ち着いたようだ。
「ハハッ、ライトはモテモテだな。うむ。能力のあるものは求められるものだ。…
まあ、少しばかり早いとは思うがな」
何故か嬉しそうな殿下。
サルツさんは相変わらず『ブスッ』としているけど。
殿下たちについて来たあとの二人。
騎士団の部隊長と王宮の文官、彼らは会談終了とともにすでに帰っていた。
「一応形としての意味合いが強くてな。……本当はサルツと二人で来る予定だったのだ」
「はあ、そうなのですね」
「それだけお前に重きを置いているという事。……仕方がないがな。何しろ女神さまの加護に全属性での第10位階の才能。前例がない事態なのだ。だがまあサルツがお前につく。そういう事だ」
僕はため息をつき、サルツさんに視線を向ける。
目が合うと何故か横を向くサルツさん。
うーん。
嫌われているのかな?
するとおもむろに、そのサルツさんが口を開いた。
「殿下、良いですか」
「うん?どうしたサルツ」
「ライト様、すでに最強ですよ?…私が教えることなんて何もないようですけれど」
「……ほう。それほどか」
「ええ」
僕を見つめるサルツさん。
なぜか彼は震えていたんだ。
※※※※※
後で聞いたのだけど。
どうやらサルツさん、“鑑定”が出来る人だったようだ。
僕が常に展開している隠匿の魔術。
鑑定に特化したサルツさんは僕のことが嫌いなわけではなかった。
隠匿を突き破り、僕の“本当の力”を見抜いていた。
恐れ、警戒していたのだ。
余りの僕の力に。
僕の真の力。
神すら凌駕する、人知を超えるすさまじい力。
彼は覗けてしまっていた。
そして。
死を覚悟してしまうほどの根源にある恐怖。
サルツさんはそれに抗っていたんだ。
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