第73話 ダンジョン攻略『やっと会えた』
次元の交錯している不安定なダンジョン。
僕は魔力を込め、珍しくも荒い口調で『セイ』に対し命令を下した。
「『セイ』…掌握しろっ!!」
『…承知しました…マスター、全力を行使しても?』
「ああ。許可する」
突然ライトの体から爆発的に迸る、未だ見たことの無いような光を伴う魔力。
不安定に揺らいでいた景色、それが安定していた。
「…相変わらずライトの魔力はとんでもないね…うん?…封印の扉…うえっ?!すでに最下層?!!」
驚愕の表情を浮かべるルイとティア。
ルザーラナとキャルン姉さまは既に理解が追い付かないようだ。
「…ついに…ついにここまで来た…ティア?」
「っ!?は、はい」
「…僕は君を愛している。…それは間違いない。…でも…」
なぜか悲しげな表情を浮かべるライト様。
どうしてか分からない。
儚く見えてしまうライト様に、わたくしは思わず力いっぱい抱き着いていた。
そう。
わたくしは。
もう覚悟を決めたんだ。
もしかしたら『違うライト様』になってしまわれるかもしれない。
一瞬よぎってしまう不安。
今のライト様は見たことがないほど、その存在が揺らいで見えてしまっていた。
でも。
わたくしは愛おしいライト様を抱きしめながら、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。
「もう。いまさら何を言うのです?…わたくしはあなたを信じています」
「…ありがとう。…君に会えて、良かった…じゃあ少し離れてくれる?――全力を使う」
目の前の封印。
きっと数千回は見て『絶望していた』封印だ。
だけど。
今の僕なら…
大切なティアやキャルン姉さま、そしてルイやルザーラナ。
そしてココナにヒャルマ先生。
尊敬する父上に大好きなお母様、そして僕の大切な弟ルードリッヒ。
本当の愛を教えてくれたみんなの想い。
僕はそれをすべて使って絶対にこの封印、解呪してみせる。
気付いたんだ。
以前の僕に足りなかったもの。
凄まじい力を得ていた僕。
でも。
繰り返しすぎて消えていった『愛情』と言う感動。
今の僕にはそれはあまりある程漲っている。
だから…
これは当たり前のことなんだ…
光が全てを飲み込んでいく…
※※※※※
閑静な住宅街の一角に鳴り響く救急車の音。
遊具の並ぶ小さな公園に突っ込んできた大型のトラック。
そしてそこに広がる真っ赤な血の池。
僕は出会っていた。
運命の女の子。
そして。
絶対にこの手に抱くことのできないその女性に。
「入らないでください!そこ、どいてください」
「…大怪我だ…きっともう…」
「は、早く!急いでくれ…呼吸をしていないっ!」
遠い記憶。
小さい頃よく遊んでいた近所の女の子。
もう、名前すら思い出せない…
でも僕は。
僕の魂は。
すでに彼女の虜になっていた。
「っ!?こ、こらっ!ダメだ、近づいちゃ…」
「…うあ、うああああっっっ!!!?」
「こ、このっ!…おいっ!誰かコイツ押さえておけっ!…坊主、気持ちはわかるが…ここは俺たち大人に任せてくれ」
羽交い絞めにし僕を拘束する大人たち。
自分でも信じられないような大声で泣く僕。
全てがまるで大昔のように色を無くしていく…
ああ。
そうだ…
君は…
※※※※※
セピア色に染まるとんでもなく古い情景。
ここは修道院?
「………〇〇〇…ああ…〇〇〇〇…そ…な…〇〇〇……」
「っ!?……うあ……ろっ!…〇〇〇〇―――!!?」
なんだ?
なんだこれは……
蘇我頼人…
俺になる前の記憶…
どうして…俺は……
ああっっ?!!!
あああああああああっっっ!???
※※※※※
ハハハ。
なんだよ?
なんだこの記憶…
…
……
………はっ。
そうかよ。
俺達は。
僕とニニャは…
今回の出会い。
4回目だったんだ。
そして彼女は。
僕の心の半分。
僕の双子だったニニャ。
同じ魂、そしてその片方である僕はきっと。
決定的に足りない心があったんだ。
だから耐えることができた。
全ての者が狂うであろう超絶スキル『死身刻命』
足りないが故、狂わなかった僕。
分かったよ。
全てわかった。
ああ。
君は僕だ。
僕たちは遂に。
幾つもの次元、悠久の時間。
それを超え…
僕は…
※※※※※
凄まじい光。
でもなぜか心溶かす優しい光。
目の前で繰り広げられるあまりにも現実離れした光景。
ルイとルザーラナ、そしてキャルンとティアリーナ。
気付けば流れる涙を止めることが出来なかった。
いまだ魔力を放出し、トランス状態のライト。
その前で美しい少女がライトの頭に優しく手を置いた。
「…やっと会えたね…ライト…」
「……」
「もう。私の顔、忘れちゃった?」
そして跪き、優しくライトを抱きしめるその少女。
突然ライトの肩が震えだす。
「…ありがとう…私を見つけてくれて…」
「グスッ…う、うん…ヒック…うあ…ああああ…うああああああ……」
まるで幼い少年のように嗚咽を上げるライト。
その様子に皆は優しい表情でいつまでも見つめていたんだ。
※※※※※
ダンジョンを出た僕たち6人。
今まで安定していたダンジョン、僕たちが出た途端色を無くし虚空の彼方へと消えていった。
「ふう。ぎりぎりだったんだね」
「うん。…みんなありがとう。みんなのおかげで僕は…」
いきなり僕を抱きしめるティアとルイ、そしてキャルンとルザーラナ。
しゃべっていた僕はその圧で思わず口をつぐんでしまう。
「もう。いりません。お礼なんて。…それに私少し安心しました」
どうにか抱き着く彼女たちから離れ、僕は改めてティアを見つめる。
「安心?」
「ええ。あなた様はきっと大きな使命を帯びていた。でもそれを無理やり引き裂かれていたのですね」
そして一緒に居るニニャに視線を向けるティアたち。
「ニニャさん?…あなたはライト様の半身、でももう融合できない状態――そうなのですね?」
「うん。…ライトはさ…強すぎるんだ。…もう私の入る隙間、無いほどにね。ふふっ。本当にすっごく強くなったよね。私の力も…もう得ていたんだね」
以前の僕。
ルードイーズで出会ったとき。
僕はすでに彼女の力、吸収してしまっていた。
無意識で。
だからこそ解けなかった封印。
原因は僕だったんだ。
「ニニャ…そ、その…ごめん」
「…いいよ?君のせいじゃない。何より君には記憶なかったのでしょ?むしろ良くこのタイミングで思い出せたよね?…私はその方が不思議なのだけれど…」
脳裏によぎる、にやける創世神の顔。
つまりはどうやらそう言う事らしい。
「あー。多分だけど…クソジジイ、創世神のお節介、かな。…でもまあ――会ったら絶対にぶっ飛ばすけどね!」
驚くほどすっきりしている今の僕。
これもきっとあのクソ創世神、ファナンガスの導き…
(今回だけは…感謝してやるとするか…じゃあ、後は…)
僕はティアに視線を向ける。
僕の問題は脈絡もなく解決を見た。
だから後はこの世界、ティアの願い、叶えるだけだ。
そしてそのあとは。
僕は胸いっぱいに空気を吸い込み、大きな声をあげた。
「とことん楽しんでやるっ!!」
いきなり大声を出した僕に驚く皆。
今だけは勘弁してね?
もう僕に懸念はないのだから。
執筆していて――うかつにも泣いてしまいました。
皆さまの感想も是非頂きたいです。




