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第69話 帝国を脅かす脅威

「ほう?貴国ではこんなに旨い酒を飲んでいるのか?」

「いや。これは私も初めてだ…それにこの容器…見たことがないな…ライト、これは?」


「あー、うん。自家製酒?まあ、エールみたいな物かな」


なぜか始まる酒宴。

取り敢えず僕はインベントリから、以前の世界で作成してあった缶ビールとおつまみを取り出し、二人に振舞っていた。


「うん…はあ♡…おいしい♡」


さらには顔を赤らめ、ほろ酔いの女神様。


うう。

僕も飲みたいけど…


さすがに9歳児には…これは毒だよね?


仕方なくミルクを取り出し飲む僕。

その様子になぜか優しげな表情を向けるヴィラーリヒ。


「くくく。いくらライトと言えど、まだ酒は早いようだな。…旨いか?」


むう。

なぜか負けた気分。


コホン。


「…それで?ヴィラさんは本当に結婚するつもりなの?」

「うん?まあな。俺もいい年だし、何より父上、皇帝の指示だ。…それにお前の国と婚姻を結べば…お前とて我が帝国、気にかけてくれるのだろう?」


そう言いニヤリとする皇子。

完全なる政略結婚だね。


「…希望はあるのだろうか?さすがに東の大帝国であるイスタールの皇子の相手、そこら辺の令嬢という訳にもいくまい。…我が妹の一人が今19歳。…その線で進めるか?」


缶ビールをあおり、やや赤く染まったロキラス殿下が口を開く。

えっと。


第一王女の事だよね?

あれ?

たしかあの人って…


「ロキラス殿下?マリナス様のことですか?…あれ?…婚約決まっていませんでしたっけ?」


「うん?ああ、問題ないぞ?取り敢えず結んだ婚約だ。確かまだ面通しも済ませていないはずだ。…何しろあいつも乗り気ではないしな。陛下に進言してみるとしよう」


王族の婚姻は多くの思惑が絡む。

小国の王子に嫁ぐよりはイスタールとの絆を深めた方が良い。


「我が妹は少し癖はあるが…まあいい女だ。…ヴィラ、一度会ってみるか?」

「ほう?そうなれば貴殿を『兄』と呼ぶことになるということか…それもまた一興」


どうやら本当に婚姻を結ぶ気みたいだね。

僕はティアと目を合わせ、こくりと頷いた。


「あの、ヴィラさん?実は別件で聞きたいことがあるのですが…」

「なんだ?俺の分かる範囲なら答えるが…」

「…何を警戒していたのですか?」


「っ!?」


突然雰囲気が変わるヴィラーリヒ。

そして大きくため息を吐く。


「…流石はライト、と言ったところか…なぜそう思う?」

「…警戒の準備が整い過ぎていました。僕が通信して転移してくるまでの時間、恐らく数分。いくら優秀な帝国の皇子だとしてもさっきのこの部屋の様子はあまりにも厳重だった」


僕の言葉を吟味するように頷くヴィラーリヒ。


「…おそらく『転移すらできる強者か或いは脅威』、そういう“もの”、帝国は晒されているのではないかと」


部屋の空気が一変し緊張感が場を支配する。


ロキラス殿下も感じていたのだろう。

静かに口を開いた。


「…別の世界の脅威…すでに帝国はそれを知っている…違うか?」


距離にして数千キロ離れているイスタール帝国。

僕はすべての世界を魔力で包んでいるものの、正直この国の事情には詳しくない。


それに。


確かこの国にも『あの時の僕の魔力』による包囲。

あの時確かに覚醒したヒューマン、数名いたはずだ。


――つまりはそう言う事。


きっとこの帝国の方が“ひっ迫”していたはずだ。


「さすがはライト、と言ったところか。おおむね今お前が言ったとおりだ。…我が帝国の北端に今までなかったダンジョンが現れた。そしてそこはなぜか独立を宣言したよ。…当然だが認めはしないがな」


缶ビールを口に含み、ほっと息を吐き出す。


「…だがそいつらの中に転移できるものがいるのだ。そして狂気じみた魔力…お前に比べれば術式のレベルは低いようでな。…今あいつらには此処の結界は破れぬ」


「ちなみに…どんな姿でしたか?…例えばゴツゴツしているとか…」

「ゴツゴツ?…いや、見た目は我らと同じだが…見たことの無い服を着てはいたがな」


見たことの無い服?

うーん。

これじゃらちが明かないな。


僕はため息をつき真直ぐにヴィラーリヒ殿下の瞳を見つめ問いかけた。


「あの…僕、鑑定できるのですが…ヴィラさん見てもいいかな。えっと、深いところまでは見ません。そのヴィラさんが見たおかしな服を着たものの記憶を見たいのですが…」


「ほう、鑑定までも出来るか…ふむ。実に興味深いな…しかもコントロールまでできる鑑定…おそらくこの世界の技術ではあるまい?…かまわぬ。覗いてみるがいい」


っ!?

この人…


きっともう気付いている。

僕が見た目通りの9歳児でないことに。


「…じゃあ失礼して…ああ、影響はないと思いますが、特に魔力はそのままで。…では…」



※※※※※



そして僕は膝から崩れ落ちた。


…何なのコイツら?

何処の世紀末覇王だよっ!!


まるで『某アニメ』の敵キャラみたいな姿の男たち。

無駄に棘とかついているし?

額に刺青とか…


…こいつら…ゴーレムか…

実際には3人…


確かに見たことの無い異質な魔力を纏っている…

微妙に周波数が違う?


うん?


しかもおそらく“ボス”であろう男性。


なんで『一番Tシャツ』着ているの?

それって1,990年代に流行った奴だよね?!


そして僕の包み込んだ魔力が仕事をしたのだろう。

彼等の今の情景が僕の脳内に流れ込んできた。



僕は頭を抱え、しばし蹲っていたんだ。



※※※※※



この皇居よりはるか北、半島の先端。


そこにはまるで宮殿のような、しかも何故か崩れそうな建物がまさに『デーン』とそびえたっていた。


「んふふ。やっぱりこういうのは、形が大切だよね♡うんうん。マジで世紀末!!」


やたらと棘のついた金属製の肩当に、派手な色のローブのような物を着た20代くらいの女性が大仰な杖を片手に満足げにニヤついていた。


異様な魔力――

覚悟?

それとも…


「おいっ、節子。準備は出来たのか?」

「っ!?…セツ!!……いつも言ってるでしょ?」


女性はわざとマントを翻し、胸を張り男性を睨み付ける。


「これだからユータはセンスがないのよね。コホン。…私はセツ、大魔導士セツなのっ!!」


――やたらと芝居がかったその様子に僕は違和感と得体の知らないものを感知していた。


「ったく…分かったよ。で?その『大魔導士セツ様』は、準備は出来たのか?」


背の高い、銀色の髪を後ろで縛った筋骨隆々の青年、扇夢太(おうぎゆうた)がため息交じりに問いかけた。


この男も何故か肩までしかないデニム製の青い上着とジーパン、さらには赤いスカーフを首に巻いていた。


まさに昭和後期のような時代錯誤のスタイル。

気にもしていないのか男はじっと女性に視線を向ける。


視線の交わる二人。

途端にジト目を向ける青柳節子(あおやぎせつこ)、いや『セツ』


どうやらこの女性、自分の名前がお気に召さないようだ。


「フ、フン。当たり前でしょ?…いつでも行けるよ。でも実際に乗り込むのは明日なのでしょ?今日はもう夕方だしね。…クフフ。遂に明日は私たち『極星の覇王団』のデビュー戦。…ああ、滾る!!」


とんでもない魔力を纏い、思考をどこかへと飛んで行かせてしまうセツ。

狂信的な瞳…この女ヤバイ。


その様子に夢太は諦めたような表情を浮かべ、後ろから歩いてくる別の男性、等々力竜二郎(とどろきりゅうじろう)に声をかけた。


「…準備は整ったらしいぞ?…おい、竜。…本当に乗り込む気か?」

「ああ。時は来た。…『あの世界』で我らは苦汁をなめつくしたのだ。今度こそ覇をなそう。――まずは原住民を制圧するぞ」


(…こいつもか)


思わず心の中でため息をつく男性。


彼に近づいてきたまるでゴリラのような2メートルを越えそうな筋骨隆々で大柄な男性。


なぜか短パンに真っ赤なTシャツ。

当然だが胸のところには大きく『一番』と金色で張り付けられていた。


(…確かに俺たちは強い…この世界の強者はせいぜいレベル80前後…俺達は200…負けるはずもない…だけど…だからと言って制圧?…それは違うと思うのだが…)


「出立は明朝だ。その時に軍団を用意してくれ…うん?いや、後でいい。…俺の転移魔術の効果範囲はまだ狭いからな。王宮についたら召喚してくれ」


「…ああ」



※※※※※



別の世界からの転生者。

等々力竜二郎、扇夢太、青柳節子。


正直レベルは200前後。

僕の敵ではない。


でも…

なんだろう。


この危うさ…


…どうやらこの3人、良からぬことを考えているようだった。

しかも明日の朝…


はあ。

来なくちゃじゃん!!



※※※※※



(伝わってきたイメージ…たぶん僕の魔力に触れているせい…殿下の記憶と交わって、新たなビジョンになった、か。…ったく。…僕はダンジョンに行きたいのに…もう!)


「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…ゲエープ」


やけ酒ならぬやけミルク。

僕は一気に飲み干し、思わずゲップをしてしまっていた。


何となく嫌な予感を感じながら。




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