第6話 王宮からの使者
大変な結果となってしまった洗礼の儀式。
さすがに秘匿はできないと父上が判断し、王宮へと伝達していた。
「まさか本当に全属性と剣聖、そして武神までをも授かるとはな」
誇らしげに…
でも寂しさを湛えた瞳が僕を包み込む。
「あまつさえ“女神の加護”に伝説級の数々のスキル……ああ、まさにお前はこの世界の希望なのだな」
辺境伯家リビングルーム。
まるでささやくようにつぶやく父上の顔に、嫌な予感が沸き上がる。
「あなた……黙っている訳にはいかないのですか。このままではライトが…」
「さすがにそういう訳にはいくまい。教会は秘匿してくれる。だが今回ライトは女神さまの加護までをも授かっている。――教皇様には伝える義務があるのだ」
大きく息を吐く父上。
その様子にお母様は不安げな表情を浮かべた。
「ならば我々が率先して王にはお伝えしなくては……最悪、謀反を企んでいると邪推されかねん」
「……そんな」
僕を包み込む後悔の念。
どうして隠匿しなかったんだろう。
そうすればきっと……
自分の迂闊さに思わずうつむいてしまう。
ふわりと包む優しい香り。
お母様が僕を抱きしめていた。
「ああ、ライト。ごめんなさい不安にさせて。どんなにすごい才能があってもあなたはまだ5歳なのに……お母様はいつでもあなたの味方です。忘れないで」
「ぐすっ……お母様…ヒック…うあ…ああああっ……」
自然と零れる涙。
朧気ではあるが僕は既に自分が“蘇我頼人”だったことを思い出していたのにもかかわらず。
精神的には幾千もの日々を越えてきたはずの僕。
でもこのぬくもりに抗う事が出来なかった。
お母様の優しい匂いと柔らかいぬくもり。
ずっとこうしていたかったんだ……
僕の幸せ。
家族とともにあるそれを、僕はさらに魂に刻み込んでいたんだ。
※※※※※
泣き止み少し落ち着いたころ。
僕は自室に戻り、改めて今回の事態について思いをはせていた。
僕の洗礼で明らかになった魔術の才能。
それはまさにこの世界の常識を覆すものなんだ。
この世界には多くの魔術が認識されているんだけど。
「…まずは『火』や『水』といったありがちな“属性魔術”…」
何度も見て擦り切れてしまっている魔術書をめくる。
拙いイラストに説明文。
思わず笑みがこぼれる。
「そして物を探したり、飲み水を出したりする生活魔術、さらには転移魔術や時空魔術と言われる“伝説級”なもの」
まあ伝説級は実際に使える人はいないらしいのだけれど。
何しろ記してあるイメージ。
まるでギャグ漫画レベルだ。
この書物書いた人も想像すらできなかったんだろうね。
そしてそれぞれの魔術はその難易度によって“位階”という区別がしてあるんだ。
ちなみに僕が常時使用している『隠匿』は第4位階だよ。
冷めてしまった紅茶を口に含み、窓の外を眺める。
見慣れた景色。
愛おしい景色。
僕は大きくため息をつく。
確か…この王国の大魔術師のグラム老師。
“魔術省”と呼ばれる機関のトップ。
“第6位階”まで習得している人が一番の実力者らしいんだよね。
それだけに――
今は使えなくても“洗礼の儀式”で第10位階までの才能、さらには女神の加護を授かったとバレている僕。
国にとっても…
(…まあ放置できないのは仕方がない…よね)
はあ。
憂鬱だ。
そして数日後、王宮から『王の使い』として数人が我が家を訪れた。
※※※※※
良く晴れた穏やかな6月。
僕の運命が決まる日。
今この辺境伯応接室には父上と僕の二人、そして王宮からの使者4名と紅茶を前にテーブルを囲んでいた。
「ほう、君が“神の御子”ライト殿か」
「は、初めまして」
使者の一人、王宮騎士団副団長で第2王子であるロキラス殿下が興味深めに目を細める。
優しげな瞳とは裏腹に、威圧を自然に纏う鍛え抜かれた武威。
初めて出会う王族。
纏うオーラがやはり段違いだ。
(この人……相当強い…父上と同じくらいかな)
「ふむ。確かにすさまじい魔力圧を感じる。……君は今どの位階まで習得しているのだ?」
「は、はい。一応第2位階ですけれど……」
「ほう。5歳にして既に……ノイド殿、これは将来が楽しみであるな」
「もったいないお言葉」
珍しく恭しい父上の姿に、改めてこの重大さを感じてしまう。
「おっと、今日の私は副団長の立場だ。むしろノイド殿の方が格上。楽にして欲しい。…忌憚のない意見を聞きたいのでな」
「はっ」
その様子にロキラス殿下は諦めたような表情をし、紅茶を口にし息をついた。
「ふう。まあしょうがないか。……ライト、呼び捨てで構わないだろうか」
「は、はい。問題ありません」
「ふむ。君は5歳には見えぬな。よほどノイド殿の教育が優れていると見える。我が息子にも見習ってほしいものだ」
ロキラス殿下は現在26歳。
第一王子である彼の兄、オブレイド殿下が現在皇太子としてその職務についていた。
実はロキラス殿下、父上とは学園の同級生で仲は良好らしい。
ロキラス殿下はいずれ爵位を授かり、王族から抜ける算段のようだ。
“スペア”となるほかの王子も彼の下に二人存在している。
元々そのつもりなのだろう。
彼は既に王族とは本来婚姻を結べない格下であるオーウェン伯爵家の長女と婚姻を結び、2人の子供を儲けていた。
「…副団長、そろそろ本題を」
「おっと、そうだったな」
一緒に来ていた髪の毛がワカメみたいな男性が声をあげる。
薄い茶色の髪に、浅黒い肌。
小柄な男性だ。
(――あまり見かけない顔立ち…少数民族かな?)
使者とは言えきっと身分の高い人たちなのだろう。
自己紹介すらせずに話が進んでいく。
「コホン。すまないな。何しろ今回の事は想定外なのだ。まさか全属性第10位階、さらには女神さまの加護を得るものが現れるとは……教皇も驚いておったぞ?」
「そう、なのですね」
うーん。
何のお話なんだろ。
嫌な予感しかしない。
一瞬の静寂。
それは殿下の言葉で破られた。
「なあライト。君には学園に行ってもらいたいのだ」
「学園…ですか?」
「うむ。本来は12歳からなのだが。来年度より幼少部を新設する事になった。9歳から入学できる。だから4年後、9歳になったら是非おまえにも通ってもらいたい。なに、費用などは問題ない。すべて王宮から出る。何しろお前は特待生なのだからな」
肩の力が抜ける。
張りつめていた僕の魔力が霧散していった。
……良かった。
いきなり連れ去られ、監禁まがいにされると正直思っていた。
4年。
取り敢えず余裕は確保された。
あからさまに父上が大きくため息をついたのが伝わってくる。
「ノイド殿、良いだろうか」
「是非もありません」
「すまぬな。……これが今回の精一杯であった。頭の固い上層部は有無を言わずにつれてこいと息巻いておってな」
遠い目をし、ゆっくりと父上に視線を向ける。
「……俺とて子を持つ父親。ノイド殿の気持ちは分かるつもりだ。……さすがに野放しという訳にもいかなくてな」
「ご配慮、感謝の言葉もございません」
そしてそれと同時にロキラス殿下から圧が消失、にやりといたずらっ子の様な表情を浮かべた。
「よし。話は終わりだ。……なあライト」
「は、はい」
「手合わせをしよう」
「はい?」
そしてその表情は獰猛な猛獣のような覇気をたぎらせ、僕の瞳を貫いた。
「っ!?」
反射的に零れる覇気。
ロキラス殿下はにやりと顔を歪めた。
「やはりな。ノイドは知っていたのか?」
そしてなぜか悲しそうに父上に視線を向ける。
「………はっ。わが愛する息子の事でございます。……ふう、分かったよ。普通に話させてもらう。――そんな目で見るな」
試された?
くっ、5歳児の精神に引っ張られ過ぎだ。
迂闊にもほどがある。
「フハハ。本当に末恐ろしいな。ライトは既に最強かもしれぬな」
「殿下、お戯れを……」
「また“5歳らしからぬ”もの言いを……そういう事にしておこう。サルツ、貴様らもよいな」
「……ご命令とあらば」
なぜか躊躇いがちに言葉を漏らす、ワカメ頭の人。
…サルツさんって言うんだ。
なんかすんごく睨んできますけど?
「すまんなライト。コイツは目つきが悪くて有名なんだ。もともと少数民族の出身でな。……根は悪い奴ではない。何しろ今日から一緒に暮らすのだ。年も近い。仲良くしてくれると嬉しい」
……………は?
なんて言ったこの人?
一緒に暮らす?!
「ノイド、部屋の準備は済んでいるのだろうか」
「ああ。2階の角部屋、ライトの自室の隣を用意してある」
はあ?
僕聞いてないけど?
「まあ監視の様なものだ。スマンがこれも条件の一つだ。それにサルツは東方に伝わる珍しい忍術という物を習得している。ライトの勉強になるだろう」
っ!?忍術?
うわ―なにそれ、めっちゃ興味ある。
つい目を輝かせてしまう。
ロキラス殿下は嬉しそうに声を上げた。
「ハハッ、その表情のほうが良いな。うむ。子供は子供らしくあるべきだ」
はっ?
いかん。
思わず顔を染めてしまう僕の頭にロキラス殿下は大きい手を乗せた。
改めてまじまじと僕の瞳を見つめ――一瞬殿下の瞳が光を纏う。
「ふむ。これは先行投資が必要かもしれぬな……なあライト」
「は、はい?」
紅茶から湯気が立ち上る。
ふと優しい表情に変わるロキラス殿下。
「我が娘と…婚約しないか?」
驚愕の提案に応接室は静寂に包まれた。
想定していない殿下の提案。
僕の心臓は、出鱈目に鼓動を鳴らしていたんだ。
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