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第68話 ヴィラーリヒ殿下との会談

転移して着いた場所。

そこは第一皇子の自室だった。


相変わらず僕は迂闊だ。

既にここには幾重にも策が張り巡らしてあった。

まあ。

今更仕方がない。


なるようになれってことで。


コホン。


相手の出方、まずはそれを見極めますかね。



※※※※※



薄い膜のような物を突き破り、転移し姿を現す3人。

その事実にヴィラーリヒは少なからず驚愕の表情を浮かべていた。


「ほう?流石は女神さまの婚約者になるだけのことはあるな。我が帝国の『転移封じ』の結界、簡単に突き破るとは…」


ニヤリとし、僕に問いかけるヴィラーリヒ第一皇子。

思わず僕は仮面越しにジト目を向けてしまう。


「…もしかして殿下?…あなた性格悪いのですか?」

「慎重だ、と訂正していただきたいところだがな…よくぞ参られた。歓迎しよう」


既にティーセットを準備している様子を見れば、きっとこれはヴィラーリヒの想定内。

僕は思わずしかめっ面をしてしまう。


(…殿下の他には…3人、か。…主導権、取られちゃったな…まあいいけど)


「コホン。突然の来訪失礼する。ヴィラーリヒ第一皇子殿」

「ふむ?…貴殿は…ロキラス第二王子か。…構わんさ。我らは対等、そう言う認識でよいだろうか?」

「…ご厚情感謝する」


正直国力ではイスタール帝国の方が数倍は上だ。

この大陸は僕たちの大陸よりも過酷な地。

そこを実効支配する国力、伊達ではない。


もっとも遠く離れた地。


当然戦争の懸念はないのだけれどね。


「しかし…凄まじいものだな。転移魔術…戦争の概念が根底から崩れるな」

「確かに。だが我らは…」

「ああ。すまない。…もちろんそのような下らぬ考えはない…謝罪は必要か?」

「…いや。…ただの雑談、そう言う事であろう?」

「ふっ」


うーん。

この人達。


頭もいいし度胸も据わっている。

こりゃ一筋縄ではいきそうもないね。


「ところで…そちらは女神様であろうか…なんとも刺激的な姿であるが…」

「っ!?」


見破られた?

っ!?

しまった、アーティーファクト?!


「…ライト殿、とお呼びしても?…ノアール殿?」


僕は天を見上げ大きく息をついた。

そしてティアともども隠蔽と言うか変装を解く。


「ヴィラーリヒ殿下。この部屋の隠匿はどの程度でしょうか?」

「…アーティーファクト級、そう言えば納得いただけるかな?そもそもそなたは見ればわかるだろうに」


不味い。

完全に上手だ。


人間としてのレベル、そして覚悟。

彼は既に命を懸けていた。


僕は全身に魔力を纏わりつかせ、真っ直ぐにヴィラーリヒを見つめる。


「…凄まじいな…ここまで底が見えぬ、か。…ふう。やめだやめ。…土台かなうとかそういう話ではない」


そう言い指をパチンと鳴らすヴィラーリヒ。

同時に3人の人物が彼の後ろに現れた。


「っ!?なっ?!で、殿下?」

「くうっ?!な、なぜ?」

「……」


そしてやれやれというふうに頭を振る殿下。


「…あと数瞬遅かったらお前たち命は無かったぞ?何よりこの皇居とてただではすまぬ。…彼はそういうレベルをさらに超えている」


まあ。

普通に考えればこういう準備はするよね。


ただあまりにも早すぎる。

通信をしたのはおよそ数分前。


恐らく…

彼は常に何かに警戒していた。


そう、『転移までをも出来る何か』を。


「お前たち、部屋を出ろ。…誰も入ることは許さん」

「っ!?し、しかし…」

「言ったであろう?彼が本気なら我らなどまさに路傍の小石だ。どこにいようとそれは変わらぬ。それに私は個人的に興味が出たのだ…まさか皇子の願い、聞かぬわけにはいくまい?」


「……御意」


そう言い姿を消す3人。

かなりの上位者、思わず僕は口笛を吹いてしまう。


「さて。これで本音で話が出来るかな?…ライト殿と呼べば不敬にならないのだろうか」

「いえ。僕はまだ9歳です。ライト、と呼捨てで構いません」

「…9歳、な。…ふふっ、世界には恐ろしい9歳がいたものだ。まあ良い。ではライトも俺のことはヴィラと呼べ。敬称もいらん」


うん?

この人。


随分感じが変わった。

…これが素か?


「ロキラス殿もそう呼んでほしい。まあ信じられんと思うがな、俺には友と呼べるものがいないのだ。できれば貴殿ともゆっくり酒でもかわしたいものだ」

「承知した。ならば俺のこともロキラスと。…それでいいか?ヴィラ」

「ああ。…礼を言う」


この人。

器が大きい。


流石は大国の第一皇子。

僕も彼に対し興味が出てきたよ。



※※※※※



一方皇帝の執務室。

今ヴィラーリヒの部屋から追い出された、帝国の諜報部隊長であるガリュニアは膝をつく。


「来たか」

「はっ」


一言延べ、書類に目を落とす皇帝ジスディルド・ウイル・イスタール。

その様子にガリュニアは思わず問いかけ…


そして後悔に包まれた。


「へ、陛下、良いのですか?」

「…貴様はあれが信じられぬ、と?」


噴き出す冷や汗。

皇帝のまさに冷気のような魔力。


すでに心の奥までもが凍り付くような恐怖に縛られた。


「…ふん。良い。…あの力、どうにもならん。いらぬ警戒は大怪我の元だ。お前たちはもう下がってよい」

「…はっ」


どうにか言葉を絞り出し、御前を退くガリュニア。


人の気配が消えたことを確認したジスディルドはほっと息を吐きだした。


「…世界が動く、か。…我らは生き残れるのだろうか…」


皇帝のつぶやき。


それはまさに、今この時にもヒューマン族は存亡の危機に直面しているという事実、彼だけは知っていたんだ。


そしてちらと視線をさまよわせる皇帝。


その先には美しい女性の肖像画が飾られていた。


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