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第67話 動き出す世界

マイハルド王国のノースルナーク王宮。


今ここでは東の帝国イスタール、第一皇子ヴィラーリヒ殿下よりの『婚約の釣書』が来たことで、てんやわんやの大騒ぎになっていた。


書状の内容は実にシンプル。


『貴国との友好を深めたい。ついては我がイスタール帝国の第一皇子ヴィラーリヒに嫁ぐ女性の選定を依頼する』


との事だった。


基本東の帝国は、皇族において他国との婚姻を結んだ歴史がない。

これは異例中の異例。


まさにマイハルド王国は激震に襲われていた。


「…宰相、どう見る?」

「…どうも何も…完全に婚約の申し込み、それ以外に何があるというのです?」

「むう」


どうしても訝しく思ってしまう。

確かに和平の式典、普段他国に興味のない帝国までもがあの式典には参加していた。


何しろ当の本人、第一皇子であるヴィラーリヒが参加していたのだ。


(もしや…その時に見染めた女性でも居たのか…いや。)

(もしそうなら…当然名指しで来るはず…)


ますます困惑に包まれる国王。

執務室は重苦しい雰囲気に支配されていた。



※※※※※



「…それで僕、いや、『影の騎士ノワール』への依頼ですか?」

「ああ。頼めるか?」


夜。


あの後僕はティアに甘えまくって、いつのまにか寝てしまっていた。

凄く癒され、あの“そこはかとない不安感”――

奇麗に消えていたんだ。


学園から戻ってきたココナが真っ赤な顔で僕を起こしてくれたっけ。


「…あ、あの…つ、次は…わ、私にも…甘えてください♡」


うん。

モジモジしながらも顔を赤く染め上目遣いでそう呟くココナ。

やばいくらい可愛い。


ああ、僕は本当に傲慢だ。

心の底から可愛いココナに惹かれつつ、そう思っていたんだ。



※※※※※



改めて僕の寮のリビングルーム。

百面相をしているロキラス殿下に僕は問いかけた。


「えっと。イスタール帝国へ行っての情報の収集、それからヴィラーリヒ殿下との面会、ですね?」


「ああ。何しろ今回の要請、怪しい事ではないのだが…あまりにも、な。…以前の帝国の動向を見れば今回の事はまさに異常事態なのだ」


東の帝国イスタール。

確かにあそこの皇族は、僕の知る限り他国からの流入をかたくなに拒んでいた。


(うーん。でもきっと…必要性を感じたのだろうけど…何よりこの国マイハルドには女神ティアリーナと絶対者である“影の騎士ノワール”がいる。

…たしかあの国には古い伝承があるはず…)


「影の騎士ノワールは伝説である転移魔術を使えることは先方も承知をしている。できれば早い方がいいのだが…明日は…学園だな」


明らかに頭を悩ませているロキラス殿下。

僕はその様子に助け船を出すことにした。


何よりこういう面倒くさい事は早く片づけたい。

僕はダンジョンに行きたいんだ。


「えっと、殿下?通信の魔道具はお持ちですか?」

「うん?あ、ああ。お前の返事次第で先方に伝えようと思っていたので持参はしているが…それがどうかしたか?」


「貸してください。僕が、いえ『影の騎士ノワール』が直接ヴィラーリヒ第一皇子と話をします…映像も伝わる感じですか?」


「う、うむ。お前の発明品だしな…いいのか?」


「ええ。とりあえず話を聞かないと…実は僕、少しばかりここを離れる予定ですので」

「なっ?…き、聞いてもいいのか?」


取り敢えず僕は詳しい事をぼかしつつも、準備が出来次第ダンジョンへもぐることを伝えた。


もちろん場所や内容は秘匿事項だ。

いくら殿下でもそれは教えることができない。


「そう、か。…分かった。頼めるか?」

「はい。じゃあ…」


僕は魔力を纏い、一瞬で影の騎士ノワールへとその姿を変える。

もちろん横には美しすぎる従者アラタイトを控えさせて。


「…あの…私、必要ですか?」

「こういうのは形が大事なの。僕たち運命共同体でしょ?」


「運命共同体?!…は、はい♡」


チョロい。

コホン。


僕はおもむろに殿下の持ってきていた魔道具に魔力を込める。


映し出される情景。

その中に見覚えのある人物が目を見開いていた。


「コホン。ヴィラーリヒ殿下ですかな?私は影の騎士ノワール。貴殿に会談を申し込みたい。…可能なら今行くが?」


『…影の騎士ノワール…ああ。かまわない。…本当に転移魔術を使えるのだな?』

「造作もない事。我が従者も連れて行くがよいか?」

『ああ』


そういい魔道具を切る僕。


「そういう訳ですので。…殿下も一緒に行きますか?」

「っ!?…そうだな。頼む」


「じゃあ…ティア、僕の手握って。殿下は僕の肩に手を置いてください…じゃあ行きますよ」


魔力の残滓を残し消える僕とティア、それからロキラス殿下。


そして知る。

僕の知らないところで、この星に危機が迫っていることを。



※※※※※



僕たちが転移した後。


訪れてきたルイとルザーラナが、頬を膨らませつつも何故かキャルン姉さまとココナ、それからサルツさんたちとお茶をしていた。


「むう。ライトいないの?…約束したのにっ!!」

「うんうん。うちも約束した!」


紅茶をあおり、一気に飲み干す二人。


「ぷはー。ねえキャルン、ライトどこ行ったの?」

「あー、実は私も知らないんだよね…ココナさん何か知ってます?」


相変わらず敬語で話すキャルン。


思わず苦笑いを浮かべてしまうココナ。

彼女はゆっくりと知っていることを話し始めた。


「キャルン様?どうか呼捨てで。…コホン。ライト様はティアリーナ様とロキラス殿下と供に東の帝国イスタールへと赴いています。…たぶん数時間後には戻られるかと」


「イスタール?なにしに行ったの?」


「すみません。内容までは…でも『影の騎士ノワール』と『美しすぎる従者アラタイト』に変装していましたから…国の要請だと思われます」


思わず顔を見合わせてしまうキャルンとルイ、そしてルザーラナ。

おもむろにサルツさんが口をはさんだ。


「それで?魔王様と魔将様はどのようなご用事でしょうか」


「うん?え、えっと…」

「う、うん…」


なぜか突然モジモジする二人。

キャルンの直感が仕事をする。


「…まさか…礼のアレじゃないでしょうね?」


例のあれ。

魔力抱擁だ。


「え、ええっ?!や、やだなあ、キャルン…そ、そんな訳…」

「う、うん。そ、そ、そんな事、な、無いよ?」


テストプレイの時連れて行ってもらえなかったキャルンは、正直この二人に対し物凄く焼きもちを焼いていた。


何より自分はまだ、ライトの魔力抱擁。

してもらえていないのだ。


「…ズルい…ズルい、ズルいっ!!」


突然とんでもない魔力を纏うキャルン。

その様子に格上であるはずのルイまでもが冷や汗を流してしまう。


(うわあ、やっぱり姉弟よね…キャルンも相当やばい…コホン)


慌てふためいて止めるサルツを見やり、独り言ちる。


(――こりゃあ、暫くはおとなしくするしかないかな?)


ルイはテーブルのお菓子を摘み、口に放り込んでいた。



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