第66話 遠い記憶の約束の女の子
そんなこんながあったものの。
一応の区切りを見せた僕の擬似ダンジョン。
この後は入場料やダンジョン内のお宝の取り扱いなど。
宰相はじめサルツさんとロキラス殿下、さらにはオブザーバーとしてなぜか第4皇子であるミャルナまでもが加わり検討を重ねていくことになった。
発案者である僕なのだけれど。
なぜかその会議の参加を拒否されてしまっていた。
『お前はやり過ぎなのだ。もう少し常識を覚えろ。参加はそれからだ』
とか言われてしまう始末。
確かに。
僕はちょっとハッチャけ過ぎていたと思う。
うん。
反省します。
コホン。
※※※※※
そんなこんなで戻った日常。
いつも通り授業を受けていた僕に、突然ダンジョンコアの『セイ』が脳内で話しかけてきた。
『マスター、一つ報告があります』
(…うん?どうしたのセイ?…珍しいね君から報告なんて)
当然ながら今は授業中だ。
僕は頭の中で会話を試みた。
『失われし龍姫『ニニャーレグス』…覚えておいでですか?』
「っ!?なあっ?!」
思わず立ち上がり素っ頓狂な声を上げてしまう僕。
クラス全員の視線が突き刺さる。
「…ライト?どうした?」
「うあ、そ、その…す、すみません」
「まあ。確かにこの内容じゃお前は退屈なのだろうが…一応はカリキュラムだ…具合悪いのなら保健室へ行ってもいいぞ?」
なぜか優しげな表情のウェレッタ先生。
実は彼に『精神調整』は行っていない。
僕はこの先生を信じることにしたんだ。
「あっ、いや。すみません。大丈夫です」
「そうか。まあ、なんだ。無理はするなよ?」
ざわつくクラスの皆。
なぜかルイとルザーラナはジト目だけど?
僕は大きくため息をついて席に座り、改めて脳内での会話を再開した。
(…ねえセイ?…なんで君がそれを知ってるのさ?…僕の前世の話だよ?)
『マスターの魔力が限界を超えた結果、私は“すべてのダンジョン”と交信可能になりました』
(…うん、それで?)
『その中で――ひときわ強くあなたを呼ぶ存在がいました。――龍姫ニニャーレグス。彼女は……まだ終わっていません』
「っ!?」
危ない。
思わず大声で叫びそうになってしまう。
僕はそっと手をあげた。
「ウェレッタ先生」
「うん?」
「すみません。早退、よろしいでしょうか?」
「…分かった。ゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます…ティア、準備お願い」
「…はい」
テキパキと準備をしてくれるティア。
不安げな表情を浮かべるココナにウインクをし、僕は教室を後にした。
悪いけど授業なんて受けている場合じゃない。
僕の唯一の心残りだったあの事件。
何度繰り返しても結果の変わらなかった事。
まさか。
この世界でまた『彼女』に会える可能性があるなんて…
僕は想いを馳せた。
苦い思い出が、僕の心を重くしていったんだ。
※※※※※
そして――僕の記憶が、遠い遠い“あの世界”へと沈んでいく。
『惑星ルードイーズ』
…何回目になるかなんて、おそらく数万回前に数えるのやめていた“俺”。
俺は飽き飽きしながらも、この世界最大で最狂のダンジョン『ルンズベルグ氷結洞』の前で一人立ち尽くしていた。
きっと今回俺は試練をクリアするだろう。
すでに100歳オーバーを100回は繰り返した俺。
限りない病死・事故死・突然死をすべてクリアし、あと残すはおそらく老衰のみ。
ならば若き日にさんざんクリアしたものの、どうしても解けなかったダンジョン最奥の結界。
問題なく動ける限界、60歳の俺が。
今までのすべての経験、そしてスキルを駆使して必ずクリアしてやる。
「待ってろよ、ニニャ。今度こそお前を助ける…絶対だ」
おもむろに紡ぐ魔力。
俺の体が硬質化し、さらには若き日の姿へと変貌していく。
「はああっ!!魔力ブースト!!」
「さらには限界解除!!」
「錬成!!緋色の軍団!!いけっ!!蹂躙しろっ!!」
俺は巨大な魔方陣を形成。
数百体に及ぶヒヒイロカネゴーレムの軍勢を錬成、その主導権を悉く掌握した。
既にマップは頭の中。
出てくるモンスターもすべて網羅済み。
さあて。
最期の心残り、クリアしますかね。
俺はゴーレム軍団が侵入して行ったダンジョンへと、ゆっくりと歩いて行ったんだ。
誰一人踏破できていない、氷結の地獄へ。
※※※※※
今思えば。
きっと僕の女性の好み…
彼女、ニニャーレグスを見てからなのだろう。
輝く銀髪にルビーのように輝く紅い瞳。
華奢でいて、それなのに女性らしいラインを描く肢体。
きっと数千回。
僕は彼女を見ていた。
でも。
僕は遂に彼女をこの腕に抱くことができなかったんだ。
結局。
凶悪なダンジョン、そして悪辣な罠。
僕は…
俺は…
遂にそれを破ることが出来ず…
そしてニニャは…
俺の前で『永遠のその存在』を消失したんだ。
『絶対に助ける!だから…約束だ!』
『…う、うん』
俺はその約束、結局果たすことが出来なかった。
何年、いや何千年。
そしておそらく数千回…
俺は悔やみに悔み…
そして諦めたんだ。
そう、これはシナリオ。
運命。
そう諦めたんだ。
でも…
僕は…
※※※※※
今僕は寮のリビングで真剣な表情を浮かべながらティアリーナの瞳を見つめていた。
「うあ、え、えっと…ラ、ライト様?…ど、どうしたのですか…うう♡熱い瞳…テ、ティアは、ティアは…」
顔を赤らめとんでもない色気を噴き上げさせるティア。
うん。
間違いなく僕の大好きなティアだ。
でも僕は今から残酷なことを彼女に言わなくてはならない。
彼女に出会う前に会っていた…
きっと僕の最愛になる女性。
僕はその子を救うために、ダンジョンに籠ることをティアに告げなくてはならない。
僕は静かにティアを抱きしめた。
確かめるように――その温もりを。
「あ、あう…うあ?…ラ、ライト様……っ!?…えっ?…泣いて…」
「好きだ…大好きだよ…ティア…でも…僕は、僕は……」
あふれ出す彼女を思う気持ち。
これは本当の僕の気持ち。
これ以上望むのはまさに傲慢だ。
だけど…
「っ!?」
突然優しく僕の髪の毛を撫でるティアリーナ。
その瞳には慈愛の色が乗っていた。
「…まったく。…あなた様は酷い人です…そして馬鹿が付くほど誠実な人なのですね…可愛いのですか?その方は」
「っ!?な、なんで…」
「伝わります。わたくしは女神ですよ?超常の存在。…お忘れですか?…だから全部話してください…そして」
慈愛の表情が覚悟の表情に変わる。
そして僕の瞳を射抜く勢いで彼女は見つめてくる。
「わたくしもお供いたします。…必要ならルイやルザーラナ、そしてキャルンもです。あなた一人では行かせません」
ああ。
僕は。
僕にはもう大切な、僕を信じてくれる彼女たちがいるんだ。
すでに僕の倫理観、変貌している。
ならばせめて。
彼女たちに対し僕は誠実でいたいと思う。
「…ありがとう…ティア?」
「はい」
「…甘えてもいい?」
「…はい」
彼女の心安らぐ優しい香り。
なぜか心の奥から溢れてくる涙をこらえることができなかったんだ。
きっと会える――でも。
何故か僕が変わる――そんな不安を感じていた。
でも同時に。
包まれるぬくもりに、“大丈夫”と言う自信も湧き上がっていたんだ。
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