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第5話 洗礼の儀式

洗礼の儀式。

それはミラリルスで5歳を迎えた全ての者が、女神を奉る教会で受ける通過儀礼だ。


ぶっちゃければ、その個人にどんな“スキルや才能”があるか――『鑑定』の様なものだね。


洗礼の儀式の結果は人生に多大な影響を与える。

たいしたことの無い能力やクズスキル――

冗談ではなく仕事や結婚、幾つかの制限までをも決められてしまう。


まさに洗礼。

多くの人は、祈りをもってその儀式に臨むんだ。


因みに姉のキャルンは“剣聖の才能”と“水の加護”のダブルホルダー。

かなり恵まれた結果だ。


これには両親も大喜び。

僕の洗礼にも実は大きな期待をしていた。


(……どんな結果なのかな。…いや、むしろクズスキルの方がありがたい。…目立ちたくないんだよね、ほんとうに!)


実は僕。

すでに魔術だけでなく剣や武術も、それなりのレベルにはなっていた。


もちろん内緒ではあるのだけれど。


それに思い出したんだ。

僕が目指すもの。


――スローライフだ。


その為には“強すぎる力”をばらすわけにはいかない。

絶対に面倒ごとに巻き込まれちゃうからね。


何より今の生活、絶対に守りたいんだ。


「さあ、ライト。緊張しなくていい。仮にどんなスキルでもお前の努力は皆知っている。胸を張れ」


考えていた僕を、緊張していると思ったのだろう。

父上の大きな手が優しく僕の背中を押してくれた。


「はい父上。――それでは行ってまいります」


僕はわだかまりを抱えつつも胸を張り、洗礼の間へと進んでいった。



※※※※※



洗礼の儀式の結果は人生を左右してしまう。

だから他人に漏れないように、教会の司教様と二人きりで行うのがしきたりだ。


洗礼の間。

そこでは我が領の女神教の司教様が、優しい表情で僕を待ち構えていた。


「ほう、ライト様。落ち着かれた良い顔をしていらっしゃる。さすがは辺境伯様のご子息。(きも)が据わっておいでだ」


「……司教様、今日はよろしくお願いいたします」


洗礼の間の中央。

女神さまの彫像に、光を放つ水晶。


「ええ。……『我ここで見知った真実、女神ティアリーナ様の名の元、秘匿することお誓いいたします』……さあ、ライト様、この水晶に手を」


司教様の体に誓いの契約が発動し、優しい光が包み込む。


誓いの儀式。


これによりむやみに他人に漏れる事はない。


漏らした場合。

一説には“女神の怒り”により、魂まで焼き尽くされるとか――


(…何それ怖い)


つまり対価は“命”だ。



洗礼の結果はこの世界の記憶として刻まれる。

――相変わらず異世界のとんでも理論は謎だよね。


そんなわけで隠蔽に正直意味はない。

ここで隠したとしても“真実は変わらない”からだ。


(まあ確認できるのは教皇様くらいなんだけどね。…とりあえず司教様は(あざむ)く事が出来る)


誓いをする司教様を見た僕は少し“いたずら心”が疼いてしまう。


司教様が他人に漏らす事は絶対にない。

ならば『隠匿しなくてもいいのではないか?』と。



そしてこれがとんでもない事態を引き起こす事となるとは知らずに。



(ゴクリ……どんな結果なんだろう……ええっ?!)


僕が水晶に触れた瞬間。

立ち昇る激しい魔力の奔流。


空気が震える。

あふれ出す慈愛と友愛の光が世界を染め上げる。


目をつぶる司教様。

思わず身構える僕。


そして……女神像が鳴動し――

白く輝く神聖な衣をまとった美しい女性がその姿を現した。


「ライト様っ♡」

「うえっ?!ティ、ティア……むぐう?!」


おもむろに僕の口をその可愛らしい手でふさぐ。

何故か満足げにウインクをする女神様?!


「お、おう!?……こ、これは?!……せ、精霊様っ!?し、しかも実体を伴う最上位?!!」


腰を抜かしへたり込む司教様。


「…はっ?!!第10位階……全属性?!!……け、剣聖に武神?!!」


わなわな震えだす司教様。


「……さ、さらには伝説のインベントリに鑑定、錬成までっ?!」


あー、うん。

なんか…すみません?


「……な、なんと。女神さまの加護―――神よっっ!!」


さらにはひれ伏し涙を流す司教様。



カオスだ。



結果僕は――神童を飛び越え…『神の御子』と認定された。


父上の仰られたこと。

証明されてしまった。


さらにはなぜか女神様。

僕の“守護精霊”となりました。


えっと……



どうしよう。



※※※※※



「まさかこんな事になるとは……やはりライトは『神の御子』だったのだな」


帰り道。


吹き抜ける風がティアリーナの美しい髪をなびかせる。

石畳を刻む3人の足音。

夕焼けで赤く染まる中、一緒に歩きながら父上が遠い目をしてそう零していた。


「コホン。ノイド辺境伯様」

「う、うむ。なんであろうか“守護精霊”ティア殿」


うん。


何故か彼女、守護精霊という事にしていた。

意外とバレないのね?!


さすが異世界!?


「わたくしも今日から家族の一員です。お認めいただけますか?」

「も、もちろんだ。何より神の啓示、従わない道理はない」


「ありがとうございます。はあ、ライト様、これでいつでも一緒です♪」

「ハハ、ハ……」


うん?…ティア――震えて?

うあ!?


「んもう。ライト様?顔を赤らめて……か・わ・い・い♡」


いきなり抱き着くティア。


なんかあなたキャラおかしくないですか!?

そんな人じゃなかったよね?!

もっと清楚(せいそ)だと思っていたけど?!


ていうか―――無理をしている?



そんなこんなで屋敷に帰った僕たち。

待ち受けていたキャルン姉さまからの、激しい追及を受けたことは言うまでもない。



僕の知らない “呪いに似た祝福”


それが静かに動き出した瞬間だったんだ。


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