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第58話 ダンジョン攻略1

レイダニースさんの依頼を受けた4日後の土曜日。


どんよりとした雲の下、僕たち5人はウェレッタ先生に連れられ学園の講堂、その裏へと向かっていた。


近づくにつれ、心がざわつく。

空気もなんだか淀んでいるような、何か不安をあおるような気配。


そんな中おもむろに先生が立ち止まった。


「ここだ。ここに迷宮の入口がある」

「っ!?…えっ?ここですか?」


思わず声を上げるキャルン。


元気のない低潅木。

申し訳なさそうにひっそりと生えていた。


「…まさかここが入り口とは…まあ誰も気付くまい?…だからこそ『脅威』でもあるのだ。――すでに結界の崩壊、始まっている」


先生の言葉。

僕は小さく頷いていた。


これははっきり言ってもう時間がないに等しい。

少しの衝撃で、いきなり“顕現”しそうなほどには結界の魔力が尽きかけていた。


「先生、鍵のようなモノはあるんですか?」

「ああ。これだ」


そう言いポケットから小さな首飾りを取り出すウェレッタ先生。

古代文字?


細かい装飾のされたそれ。

ありていに言って失われた技術だ。


「…『汝…魔力の欠片…天に通す』?…うーん。細かい所、読めませんね」


「っ!?なあっ?!ラ、ライト…お前、読めるのか?」

「ええ。これ古代文字です。…僕よりもティアの方が詳しいかな」


幼少のころに読み漁った書物。

その中にあった1冊の本。


それはまさに古代文字で書かれた物語の本だった。


おもむろに手に取るティア。

何故かルイも興味津々だ。


「ふう。…これ、壊れていますね。すでにカギの用途としてあと1回くらいしか使えませんわね」


「っ!?1回?!…ハハ、ハ。まさに最後のチャンスだったわけだ…ライト、頼めるか?」

「ええ。問題ありません。…先生は入れないのですよね?」


「ああ。スマンが学園長の部屋で話した通りだ…ライト」


「うん?」

「友を――イスルダムを頼む」


真剣な表情を浮かべるウェレッタ先生。

どうしても僕にはこの人が悪い人には見えないんだけど…


「ねえ先生?もしかして“他の罪状”とかもあったりします?」

「…まあ、な。…だがスマン。それは言いたくない」


「…ふう。分かりました。お任せください」

「ああ。気を付けてな」


そして魔力を込めるウェレッタ先生。


空間が悲鳴を上げ、感じたことの無い魔力が迸る。


「…うん。これ一応転移系の魔術だ。みんな僕につかまって」

「はい」

「「うん」」

「ええ」


接点の輪郭がぼやけ始め――

僕を中心に、侵食してくる異次元の結界。


包み込み一瞬で視界が切り替わった。



ダンジョン攻略の始まりだ!



※※※※※



「ふう。どうやら着いたようだね。みんな大丈夫?」


「うん」

「問題ないよ」

「うちも大丈夫」


「っ!?…ライト様!」


ティアの声掛けと同時に僕の危機感知が仕事をする。

さすが彼女は優秀だ。


着いた場所。

広いドーム状の部屋。

薄っすらとほのかに壁が発光していて、視界はどうにか確保されていた。


そしてこちらに突き刺さる視線。

見たことの無い魔物が4体、こちらを視認し近づいてくる。


「…レベルは…雑魚だね。キャルン姉さま」

「っ!?は、はい」


「鍛錬の成果、僕に見せてくれる?」

「…うん」


すらりと腰から剣を抜き放つ姉さま。

構えると同時に濃密な闘気が吹き上がる。


「っ!?凄い…マジで70超えたんだ…見直した」

「うん。本当にすごいね。…うちも負けてられないや」


感嘆の言葉を漏らすルイとルザーラナ。

そりゃあね。


僕の自慢の姉上だよ?


「ハアアアアッッッ!!!」


一閃。


眼にもとまらぬ踏み込みと、発する剣気。

一瞬でバラバラになる魔物4体。


とても初めてとは思えぬキャルンの初戦闘は一瞬で決着を見た。


「っ!?うあ、ラ、ライト…あ、頭の中に声が…?!!」

「うん?ああ。経験値だね。…レベル…うわっ、凄い。今の戦闘だけで3も上がったんだね」

「う、うん。…ふわあ、力が…」


薄っすらと発光するキャルン姉さま。

今までの地道な努力、そして僕特製の短期集中の鍛錬。


それにより開花した姉さまはまさに最強への道を歩き始めたんだ。

僕は満足げにその様子に頷いていた。


「うん。問題ないね。どんどん行こうか!」



※※※※※



便宜上『始まりのフロア』と名付けた最初に訪れたドーム状の部屋。

僕たちはいくつかの能力を使い、マッピングしながら探索を続けたのだけれど。


「むう。また行き止まり…ライト、こっちはダメだよ」

「ふう。こちらもダメですわね。…ライト様、把握は出来まして?」


途中襲い掛かる魔物を倒しながらも僕たちは順調に探索をし、このフロアを含めた第1層、把握が完了していた。


「…うーん。あの部屋の隣にあった階段、あれが正解か。…ここの作成者、センスないよね」


普通ダンジョンであるのなら、入り口近くの階段は殆どがダミーだ。

なのにこのダンジョン、地下に行く階段、どうやらあそこだけのようだ。


もちろん僕は魔力で把握済み。

少し怪しい場所もあったのだけれど。


既に先に来た人が壊していて使えない状況になっていた。


「お宝もないし…しょうがない。少し休憩したらさっきの階段から降りようか」

「そうですわね。…じゃあ準備しましょう。ルイ、ルザーラナ、手伝ってくださる?」


「はーい」

「うん」


うん?

どうして準備3人かって?


そりゃあ…


「アハハ、アハハハハハハハハハッッ!!!!」


とても淑女とは思えぬ笑い声をあげ、魔物を蹴散らす姉さま。

そして転がる多くの死骸。


まあ、ね。


強くなれるこの空間。

魔物の返り血でべとべとになった髪が顔を隠しているし?

そしてぎらつく眼光――


まさにホラー。


彼女はぶっ飛んでいた。



※※※※※



「それでキャルン?少しは落ち着いたかしら?」

「あう、ご、ごめんなさい」


ティアの魔術と温かいお茶でどうにか落ち着いたようで。

彼女は肩をすくめ、視線を床に落とす。


気付いた時姉さまは。

まさにトランス状態。


全身を魔物の返り血でとんでもない状態になりながら、既に数本目の剣を壊し、魔物を殺しまくっていた。


余りの急激なレベルアップ。

それはある意味過剰な興奮状態を引き起こす。


彼女はまさに“修羅”となっていた。


最初は笑って見ていたのだけれど。

明らかな格上にも挑み始める姉さま。


さすがに命の危険を危惧したティアが精神安定の魔術をかける事態になっていた。


「まったく。…まあ気持ちは分かりますけど。…あなたはライト様の大切な姉です。少しは自覚しなさい」


「っ!?…は、はい」


ダンジョンに入って2時間。

すでにキャルン姉さまはそのレベルを86まで伸ばしていた。


当然僕のインベントリから新しい服を出してあげたよ?


せっかく恰好可愛い姉さま。

魔物の体液まみれはちょっと嫌だもんね。


「…きっと地下はもっと強い魔物がいる。次から姉さまは補助と見学。いいね?」

「あうっ。…はい」


強くなること。

それは楽しい事だ。


でもこれはまさに『パワーレベリング』に近い“異常”な経験だ。


姉さま以外はまさに隔絶した格上。

だから何も気にせず全力が使える状況。


――これは普通ではない事。


僕は姉さまに教えなくてはならない。


「そんな顔しないで?もうすでに姉さま、父上やロキラス殿下とほぼ同じレベルだよ?でも経験が全く足りていないんだ。だからさ、無理すればすぐに死ぬ。――ここはそういう場所だよ」


「っ!?…し、死ぬ?……うあ」


落ち着き僕の話に耳を傾ける姉さま。

途端に恐ろしさがよぎったようで、自らを抱きしめ顔を青ざめさせた。


「うん。分かればいいよ。ここからは見るのも勉強。大丈夫だよ。また僕が鍛える」

「う、うん」



※※※※※



その後順調に探索を進め。

夕方ごろには僕の認識できている最下層、地下12階に到達していた。


殆ど踏破されていないのだろう。

うっすらと形成された埃の層が僕たちの足元で沸き上がる。


そんな中感知に引っかかる幾つかの気配――


「…人の気配?…やばいね」

「ええ。…ぎりぎりですわね。…襲われている?!」


すかさず戦闘態勢に入るティアを視線で止め、僕は目を閉じ感知を最大にした。


(どうやらこのダンジョン、アドバンス型だね、しかも“成長途中”だ)


強い阻害魔術で守られている最深部。

拡張されている場所、おそらく『ダンジョンコア』もしくは『ダンジョンマスター』がいるであろう部屋。


そこに『ヒューマンの気配』を捉えていた。

さらにはそこに至るまでの魔物たち。


「…二つ…いや三つ…結構強いな…」


「うん。ねえ、ボク突貫しようか?」

「う、うちも!」


正直ルイはまだまだ余裕だけど。

ルザーラナは魔力の消耗が激しい。


僕は腕を組み、思考を巡らす。


「ライト様?何か気になることでもあるのですか?」


「うん?ああ。…そもそもなんでこの迷宮、作られたのかなって。…だって意味ないじゃん。こんな場所に作ってもさ。ここじゃ正直誰も来れないし。…ダンジョンの成長のための経験値、全然確保できないじゃんね」


この異世界、色々とご都合主義がまかり通っている。

それは何もヒューマン側だけではないはずだ。


だから名のあるダンジョン、すべからく人口密集地や、秘境とされる超高レベルの魔物がいる場所に点在していた。


ダンジョンの得る経験値はズバリ“生物の命”だ。

罠やお宝、そういうモノで生き物を引き付け殺し経験を得る。


「僕の感覚だとこのダンジョンはまだ生きている。成長途上だね。でもなんだろ。悪意とかあまり感じないし…その割には最深部にはそれなりの敵がいる。…ちぐはぐなんだよね」


当然僕はこの世界ではダンジョン攻略はしていない。

でも一応あの“性悪創世神”が作った世界、基本は以前僕の居たあの世界と同じ理屈だ。


以前の僕は。

それこそあの世界――全てのダンジョンを攻略済みだった。


「ちぐはぐ、ですか。…でも取り敢えず救助はされるのですよね?」

「うん。先生との約束もあるしね。…うん?…いい事思いついた!」


僕はにっこりとほほ笑んだ。

途端に怪訝な表情を浮かべ、僕に問いかけるティア。


「…あの。…不敬を承知で発言よろしいでしょうか?」

「うん?」


「嫌な予感しかしないのですが…」



※※※※※



僕、実は入学してからいくつか不安と言うか『物足りなさ』を感じていたんだよね。


本来魔物がいて、敵となる悪魔が居たこの世界。

冒険者はそれなりにいるし、魔物は脅威であると同時に生活の糧となる資源だ。


「ねえルイ、ところでさ…今ってもう『魔物の指揮権』放棄したの?」

「放棄はしてないよ?でも影響力はだいぶ落ちたよね。…野生に戻った?――そんな感じかな」


悪魔とヒューマン族との和平。

それと同時に実は魔物へのルイの影響力、ほとんどなくなったんだよね。


元々魔物は臆病だ。

だからきっと彼らは深い森の奥へと姿を隠すだろう。


(経験を得る機会が減る…それはこの先襲い来るあいつらに対して、抵抗する僕たちヒューマン族を鍛えることが難しくなる)


僕はひらめいた。

ならば作ればいい。


修練でき、しかも『死ぬことの無い』そういう舞台。


つまり『経験型修練ダンジョン』を!!


まさに今回の陛下の依頼。

このダンジョンの調査及び伝説の熱血教師の救出。


取り敢えずサクッとこなし、ダンジョンコア、或いはマスターを引き込むとしよう。


ヤバイ。

なんかめっちゃワクワクしてきた。



※※※※※



自分の気づきに顔を緩ませる僕。

なぜか不安げな表情で僕を見るティアとルイ、そしてルザーラナとキャルン姉さま。


興奮冷めやらぬ僕はその視線に気づいていなかったんだ。


一緒に投稿している「可愛くて最強?!知識チートの黒髪黒目の少女はゲームに酷似した異世界へ転移する』

そちらもよろしくお願いします!


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