第53話 ライトに愛された女たち、そして愛されたい女たちの心情2
◆キャルンの心情◆
夜が明けた。
窓からは優しい光が差し込み、私の部屋はうっすらと明るくなってくる。
「よし。今日もばっちり睡眠OK。…よいしょっと」
掛け声とともに勢い良くベッドから飛び起きる私。
なんか『オバサン臭い掛け声』に思わず自分でも笑ってしまう。
もう。
ライトのせいだからね?!
私はすぐにライトの用意してくれたトレーニングスーツ(ジャージ)に着替え、壁にかけてある木刀を掴む。
毎朝の素振り。
これは欠かすことのできないものだ。
私は剣聖のスキルを授けていただけていた。
お父様と同じ、この世界ではかなり上位のチートスキルだ。
もちろん色々おかしいライトも所持しているスキルだけど…
残念ながら、いまだに私はライトから1本を取れていない。
(むう。ライト強すぎ。でも…いつか絶対に!!)
気を落ち着かせ、剣先に集中する。
そして正しい姿勢を意識し、ひたすらに私は素振りを繰り返していた。
開けた窓から入ってくる、さわやかな風を感じながら。
※※※※※
「…345…346―――」
そもそもあの子はおかしすぎる。
3歳の時から内緒で鍛錬をしていたライト。
今思えばきっとあの当時のライトにすら私は及んでいない。
「――375…376…」
掛け声とともに汗が差し込む陽の光でキラキラと輝く――
でも今はもう知っている。
ライトが、彼が転生者で、とんでもない使命を持っていることを。
そして実はそれを彼が望んでいない事も。
(まったく。…たまにはお姉ちゃんに甘えなさいよね…399…400っ!――)
ライトの心は驚くほど穏やかだ。
他人との競争とか、何かを得たい欲だとか。
ライトにはそういう心がほとんどない。
もちろん今のライトは、私のことも意識してくれている。
姉弟としてではなく…
一人の女性として…
「…412…あうっ?!」
振る剣が乱れる。
きっと今の私、顔が真っ赤だ。
「ふう。…少し休憩しようかな…」
私は剣を壁に立てかけ、おもむろにベッドへと倒れ込んだ。
淑女としては固い豆だらけの手。
――枕を抱きしめる。
(…魔王ルイ…今ライトはあの女と一緒に寝ている…くうっ?!)
よくわからない激情が、私の心を埋め尽くす。
『姉さま、まだ11歳じゃん』
そうだけどっ!!
でもっ!!
愛されたい。
そう女の本能が私に告げているんだ。
沸き上がるモヤモヤとした感情。
嫌な気持ち…でも…
「…よしっ、もっかい素振り!!」
私は自分の心を振り払うように。
さらに強く、そして早く素振りを繰り返していた。
(いつの日か…私は胸を張って――あなたに並び立つ!)
決意を胸に――
※※※※※
◆ココナの心情◆
「おはようココナ。早いな」
「おはようございます。サルツさんこそ。いつでも一番じゃないですか」
「ははっ。私は授業がありませんからね。…勉強はどうですか?」
朝の食堂。
いつでも私より早く起きて準備をしてくれているサルツさん。
この人は本当に紳士で、そしてライト様の事を信望している。
「ええ。ライト様の事前の予習?おかげさまでこの前の小テスト、ライト様の次に良い点を取れました」
「凄いですね。ココナは頑張り屋さんだ」
そして地位の低い孤児上がりの私にまで気を使ってくれる優しい人。
もしライト様と出会っていなかったら…
きっと私はサルツさんに恋をした事だろう。
「あれっ?!うあ、しまったな」
「??…どうされたのですか?」
「卵がね…ちょっと買ってくるね。スープ見てもらってもいいかな」
「はい」
颯爽と食堂を後にするサルツさん。
彼は本当に優秀だ。
かぐわしい香りに包まれる食堂。
コトコトと音を立てる鍋。
幸せの音。
信じられないほどの幸せに、私は自然に笑顔になっていた。
※※※※※
暖かい部屋。
リズミカルな幸せの音――
微睡んだ私の脳裏に突然悪夢がよぎる。
『…教義を叩き込む必要があるな……』
『…くはあ…この暖かい血の感触…』
「っ!?」
鮮明なそれに、恐怖に塗りつぶされる私の心。
教皇の部屋に連れていかれ体を求められ――
恐ろしい魔力に包まれ殺されかけ――
でも。
私は2度も――助けられたんだ。
恐怖を凌駕する安心感。
ライト様の笑顔――
私の心はたとえようのない喜びと充足感に満ちていく――
気付けば悪夢は。
私の心から消えてなくなっていた。
そして――
「…ライト様………はうっ」
脳裏によぎる優しい手の感触。
もちろん治療行為だと、私は教えてもらった。
でも。
(…もっと触れてほしい…)
そう思っていたことは内緒。
私は『私の全部』をライト様に捧げたい。
こんなつまらない私だけど…
ライト様は…
彼は…
『ココナは本当に可愛いね』
そう言って笑ってくれる。
『僕は覚悟を決めたよ?本当に僕のお嫁さんになってくれるの?』
――求めてくれる。
ああっ。
私は今――
幸せの“最中”にいる。
※※※※※
◆ヒャルマの心情◆
「フレイムシュートオオオオッッッ!!!!」
ドゴ――――――ンンンン!!!!
辺境伯領の奥深い森の中で、桁外れな威力の魔術が野良の魔物を蹂躙していた。
魔王との和平が成立した今。
組織立って襲ってくる魔物はいなくなっていた。
しかしこの世界、いまだ魔物は脅威だ。
そんな中。
辺境伯軍が誇る魔術部隊は、魔物の掃討に力を入れていた。
「…凄まじいな…ヒャルマ副長、魔力は問題ないのですか?」
第4位階であるフレイムシュート。
今この魔術をノータイムで使えるのはヒャルマだけだった。
「ふむ。私にはこれがあるからな」
ニヤリとし胸元からネックレスを取り出すヒャルマ。
ライトからもらった魔道具、いやアーティーファクトだ。
魔術の魔力変換の効率化、さらには自動回復と効果増大が付与されている。
まさに神話級にも引けを取らないお宝だった。
「ライトが愛をささやきながら、顔を赤らめ私にくれたのだ♡…私は無敵だ!」
※※※※※
『ヒャルマ先生…僕と結婚したいとか…う、嬉しいです。…で、でも僕まだ9歳なので…あなたに何もしてあげられないから…せめて…そ、その…こ、これを。…僕だと思って大切にしてください』
ヒャルマは顔を赤らめ、人さまには見せられないようなだらしなく緩んだ表情を浮かべた。
当然ライトそんなこと一言も言っていない。
『ヒャルマ先生?僕のいない間、辺境伯の領地、お願いします。あっこれ、ちょっと先生用に作ったので…どうぞ』
なのだが?
恋する腐女子の脳内、恐るべし。
ヒャルマの『脳内劇場の暴走』は、とどまることを知らなかった。
※※※※※
そして辺境伯あてに届いた国王の勅命書。
そこにはライトの叙爵、そして婚約者7名の名が記載されていた。
自分の名前を確認したヒャルマがまるで洪水のように鼻血を噴き上げたのは言うまでもない。
その日の魔物討伐、臨時休業。
※※※※※
◆ルザーラナの心情◆
学園の女子寮。
その一室でルザーラナは枕を抱きしめながら眠れない夜を過ごしていた。
覚悟を決めたライト。
彼の婚約者の一人となった今、彼女は言い知れぬ不安を抱えていた。
(うち…ライトキュンの事…ほとんど知らないや…)
もちろん彼女も魔王城で、彼のとんでも魔力に包まれ“女の幸せ”を体験していた。
さらには恐怖と、それを凌駕する穏やかな優しさ。
そして無理やりついていき、どうにか婚約者の資格を勝ち取ってはいた。
でも。
『ルザーラナ?君、僕のこと知らないでしょ?…』
よぎるあの時のライトの言葉。
思い返せば確かに彼女はライトの事を全く知らない状況だった。
そうはいっても色々な場面で彼の近くにはいるので。
ライトの性格とかある程度は理解している。
だけどそれは別に特別なことではない。
何しろそんな事、すでにクラスの皆が知っている内容と大差がないのだ。
(ううう。…でも…好きなの…うちは…うちは…)
どさくさにまぎれ、ライトの魔力抱擁の権利を勝ち取ったルザーラナ。
彼女の瞳に覚悟が灯る。
「よしっ」
何より彼女は楽天家だ。
それにあの式典の時、ライトは彼女を褒めてくれた。
『うあ、ルザーラナ?…似合っているよ、可愛い』
(可愛い…可愛い…可愛い…はうっ♡…ライトキュン…うちは…)
抱きしめている枕をさらに強く抱きしめるルザーラナ。
彼女から覚悟と言う魔力、そしてとんでもない色気が吹き上がる。
(一番じゃなくていい…うちはただ…ライトキュンの近くにいたいんだ)
おもむろに目を閉じ愛おしい人を思い浮かべ…
(…知らない事は悪い事じゃない…今から知ることができる…うちはそれでいい)
自分の気持ちに整理が付いたルザーラナ。
彼女はようやく眠りについた。
納得し深い眠りと幸せな夢に溺れた彼女――
寝坊で遅刻。
チーン。
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