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第4話 チートの兆し

あれから2年。


僕が植えた幾つかの果樹の苗木。

すっかり成長し、色とりどりの花が目に美しい。


あっという間の時の流れ――

僕は家族の愛情に包まれ、すくすく育ち5歳になっていた。


相変わらず辺境伯家は5人、仲睦まじく暮らしている。


“前世”の記憶のせいなのかどうなのかは分からないけど。

どうやら僕は“天才”らしい。


この世界の魔術の理論をほぼ習得した僕。

上限とされる“第6位階”まで使えるようになっていた。


もちろん隠している。


第4位階で覚えた『隠匿』の魔術。

そのおかげで僕は今『神童』扱い程度の認識でとどまっていた。


以前父上が零した言葉がよぎる。

『お前が生まれた時――金色の魔力に包まれていた』と。


金色の魔力。

――神の使徒の証。


漠然とした底知れぬ不安。

僕は頭を振り、心の奥に閉じ込めた。


何より明日、大事な儀式が控えている。


“洗礼の儀式”。

実力がばれないように、細心の注意が必要だと僕は思っていたんだ。


すでに僕の実力は常識を凌駕している。

もし洗礼で、その“事実”までをも認識されたら――


思わず身震いする。


「絶対に目立たない」


そう(かたく)なに僕は誓っていた。

もう僕は――この温もり…失いたくないんだ。



※※※※※



今夜はいつもとは違う、豪華な食事がテーブルに並ぶ。

明日洗礼を受ける僕を祝う日だからだ。


ご馳走に目を輝かせるルードリッヒ。

可愛い弟の反応に、自然に笑みがこぼれる。


辺境伯という重責を負う我が家。


経済的に問題のない我が家だが、父上の意向で普段は質素な食事を心がけているんだ。

領民たちのためにと、父上は可能な限り資金を備蓄に回していた。


何より領民に寄り添う気持ち。

それは何気ない普段の生活からだと父上はいつも(おっしゃ)っていた。


本当に尊敬する。

僕もいつか、父上のような立派な大人になりたいと心に刻んでいた。



※※※※※



「早いものだ。ライトが明日洗礼を受ける。……お前が生まれてもう5年もたつのだな」


僕を優しい瞳で見つめ、しみじみ口にする父上。


「はい。これも僕を育ててくれた父上やお母様のおかげです。僕は幸せです」

「ハハッ、ライトは本当に賢いな。礼儀も完璧だ。ふむ、お前すでに第2位階までの魔術を習得したそうだな」


「はい。ヒャルマ先生のおかげです。でも僕もっと頑張って、いつか伝説の第10位階まで使えるようになりたいのです」


ヒャルマ先生は僕の魔術の家庭教師だ。


実年齢は19歳。

辺境伯軍の魔術部隊の副隊長を勤めている才女。

何故か彼女、魔力が強すぎて成長が遅いようで、見た目は14~15歳くらいに見える。


銀色の髪をなびかせるとっても美人なお姉さんだ。


和やかな会話が続くダイニングルーム。

心がポカポカと温かくなっていく。


「むう、ズルいライト。お姉ちゃん、まだ魔術使えないのに」

「ふふっ、キャルンは代わりに剣の才能があるじゃないの。それにあなたは水の加護がある。ちゃんと勉強すればすぐに覚えるわ」


「はい。お母様。私も頑張ります」

「ねえ、母様、僕は?僕は?」


その会話に入ってくる4歳になるルードリッヒ。


お母様にそっくりの可愛い顔立ち。

きっと将来沢山の女の子を泣かすんだろうな。


もちろん姉のキャルンもメチャクチャ可愛いよ?


因みに僕は父上に似てきりっとした顔をしている。

結構気に入っているんだ。


「ルードはまだ早いかな?慌てなくてもあなたも来年には洗礼を受けるのよ?ライトがちょっと特別なだけなの」

「ライト兄さま、凄いんだね」


キラキラとした目で僕を見つめるルードリッヒ。

ちょっと照れくさい。


「さあ、せっかくのご馳走だ。いただこう」

「ええ、そうですわねあなた。さあ皆、女神様にお祈りしてからいただきましょうね」


手を組み皆で祈りを捧げる。


今日は特別な日。


普段は給仕を必要としない我が家だが、今日だけは執事やメイドたちがかいがいしく料理を並べていく。


楽しい食事。

基本我が家は食事中でも会話が途切れることがない。


「おいしー♡」

「ふふっ、キャルン?今日はいいけれど、もう少しおしとやかにね?」


「あうっ。は、はい、お母様」


「お肉美味しー」

「ハハッ、ルード、ほっぺたに付いてるよ?兄ちゃんがとってあげるね」

「うん」


和やかな時間。

僕はそれがとても嬉しかったんだ。



※※※※※



食事を済ませ湯あみをし、僕は自室のベッドで横になる。


“女神ティアリーナ”


この世界を司ると云われている女神様。

すでに伝説の存在――


この世界に住む皆の信仰の対象だ。


(……女神ティアリーナ様……絶対に実在する。だって……)



僕は昨日の夜、夢で彼女に会っていた。


細かい事は忘れてしまったけど。

確かに僕は“以前の自分”を思い出し始めていた。



そんなことを思いながら僕は意識を手放した。



※※※※※



前日の夜――夢の世界――



「………イト様……ライト様………」

「……っ!?……えっ?」


なぜか懐かしさを感じる神々しい世界。

気が付けば可愛らしい美しい女性が目の前に立っていた。


目を引くピンクブロンドの、煌めく腰まで届く長く美しい髪。

すっと引いたような細くも長い形の良い眉。


神秘的な長く美しいまつ毛に覆われている大きな目には、見る者を魅了するエメラルドグリーンの瞳がキラキラと(またた)いている。


完璧に配置されている可愛らしくも美しい鼻筋、艶々ピンクの笑うような形の魅惑的な唇。

神職者が好んで着るような少しひらひらした衣装も彼女の美しさを際立てていた。


やや控えめな胸にすっきりとした華奢なスタイル。

まさに僕の理想を体現したような存在……



自然に漏れる溜息。

思わず見蕩れてしまう。



「……あなたは?」

「やっと会えました。ライト様…いえ、蘇我頼人(そがらいと)様」

「っ!?……蘇我頼人?……もしかして……」


ドクン――脳が焼けるように痛む。

見る世界が一瞬にして“過去”へと繋がっていく。


「っ!?うあ――うあああっ!???」


脳に流れ込んでくる(おびたた)しい大量の記憶の波。


頭を抱え蹲る僕を、彼女は慈愛の表情で見つめていた。



※※※※※



やがて落ち着く記憶の流入。


……思い出した。

僕は、いや、“俺”は……


「……あんのクソジジイッ!!」

「まあっ!うふふ」


花がほころぶような、魅力的な笑顔を見せる女神ティアリーナ。

不覚にもその可愛らしさに俺は怒りを霧散させ、思わず顔を赤らめてしまう。


「もうお分かりですね?あなたはこの世界、“ミラリルス最後の希望”です。どうかその力、わたくしにお貸しいただけないでしょうか?」


「……なあ、女神様、一ついいか?」


「むう。ティア、とお呼びくださいませ♡……はい。何なりと」

「……もし望むのなら……わ、わたくしの純潔でも構いませんよ?」



「っ!?い、いや、そういう事ではないんだが……」



(いきなり純潔とか?……何言いだすんだこの女神)

(……さすがは爺さんの娘だ。――考え方が“ぶっ飛んで”いやがる)


思考にふける俺。

ティアリーナはなぜか拗ねたような視線を向ける。


「……こんな貧相な胸では嫌なのでしょうか……」


そして自らの控えめな胸をそっと持ち上げ顔を赤らめる。


なんか…

めっちゃエロい!?


「うおっ、ちょ、ちょっと待て。コホン。そういう事じゃねえんだ」


ぐぬ。

マジで直視できねえ。


「……あ、あんたは、そ、その、ティアは――十分魅力的だよ」

「っ!?まあ。嬉しいですわ♪」


そして顔を染めなぜか体をうねらせる。


うーむ。

話が進まん。


「コホン。俺は具体的にはどうすればいい?……俺はこの世界では5歳児だ。まだ自由に動ける状況じゃない」


「はい。承知しております。とりあえず明後日の“洗礼”で、わたくしの加護を授けます」



「…ん?…女神さまの加護?……それはままあることなのか?」

「いいえ?おそらくこの世界ではあなた様だけの特別な加護となるでしょう」


おいおい。

それは不味くないか?


そもそも俺はもうすでに『隠匿』を使って実力を隠している。

それって大丈夫なのか?


「あー、なんだ。俺はさっきも言ったが……この世界に詳しくないんだ。何しろまだ5歳。うちの領内すらよく知らない。そんなとんでもねえ加護、ばらしちまってもいいものなのか?」


さっきの情報流入で俺は殆どの記憶を取り戻していた。


今の暮らし。

この5年の生活は、実は初めてともいえる充実した時間だった。


何しろ以前の人生では、あまりにしつこく繰り返しすぎたためそういう感動なぞとっくに失われていた。


正直、手放したくない。



そんな俺の気持ちに気づいたのか、女神ティアリーナはにっこりとほほ笑み。

俺の手を取る。


暖かい滑らかな感触に俺の鼓動が跳ねてしまう。


……おいおい!?

俺まだ5才だろ?


いくら好みのドストライクだとしても……『マセガキ度合』が過ぎやしねえか?!


「ふふっ、心配ありませんよ?これはいわば夢。目覚めればかなりの事をお忘れになるでしょう」


なぜかさみしげに顔を伏せるティアリーナ。


「それに女神の加護、おそらく明後日行われる教会での洗礼の儀式、感知できません。今と同じで隠匿を使っていてください」


「そ、そうか。……ならいいが。……いつになれば俺は動けばいいんだ?」


「また時が来れば……あなた様を導きます。できれば鍛錬をしていてください。まあ、貴方様は既に最強ですけれど……体がもちませんもの」


そりゃそうだ。

俺のスキル『死身刻命(ししんこくめい)

全ての法則を無視し、経験を凌駕するその権能。


1億年という恐ろしいほど長い時をかけ100%を達成した今。

『できない事』の方が少ない。


まさにチートだ。


俺は3歳くらいから強迫観念のような、沸き上がる想いのままかなり鍛えた。

だが全てを思い出した今――この体で使用するには強すぎる力だ。


「分かった。……“追放”されたことはむかつくが。…まあ、あんたのせいじゃねえ。…ジジイは救ってくれと言っていた。その――時間は大丈夫なのか?」


「ふふっ。頼人さまはお優しいのですね。はあ♡……(ますます惚れてしまいます♡)……しばらくは。……後数十年は問題ありません。ですが早く生身のあなたに……会いたいです♡」


顔を染め上目遣いで俺を見つめるティア。


はあ。

とんでもなく可愛い。


「お、おう。なるべく努力すると誓おう。……待っていてくれ。約束は果たしたいと思う」

「……酷い目に遭ったと聞いております……あなた様は本当にお優しいのですね」


確かに酷い目にはあった。

ほんの1億年くらいだが……

そして最後にはだまし討ちを喰らい追放までされた。


あれっ?

ほんの1億年??

追放処分?


それって普通に考えて……やばくないか?

なんか感覚がバグっている!?



………まあいっか。


どうだろうと俺は俺。


せっかく自由をつかみ取ったんだ。

むしろ追放されてよかったとすら思えてしまう。


あの世界じゃどの道――俺は普通になど生きることはできなかっただろう。


ついよぎる心残り――

俺は軽く頭を振る。


深く考えても今更だ。

好きに生きさせてもらう。


「まあな。……!?…おっと、そろそろお別れか?」

「さすがですね。ええ、ではまた…お会いできるその日まで」


「ああ」


そして消えていく意識。

脳裏に焼き付いた、可愛らしく、愛おしいその姿…


俺の意識は深い眠りに囚われた。


全ての始まり――

そのフラグが静かに立っていたことに――この時の俺は気づいていなかった。


「面白かった」

「続きが気になる」

 と思ってくださったら。


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ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。

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