第46話 和平の式典1
晴天に恵まれた五月晴れの5月16日。
マイハルド王国、ノースルナーク王宮。
色とりどりの花が咲き乱れ、空には小鳥たちの歌声が響く――
そして包むかつてない緊張感。
今日この場所には多くの諸外国の重鎮、それから女神教の新たに任命された教皇を含めた高位の司教たちが参集していた。
式典の開始は午後1時。
今は午前、すでに世界会議が開催されていた。
もちろん議題は女神ティアリーナの降臨と魔王との和平の理由。
そしてその後訪れるであろう“未曽有の危機”についてだ。
因みに僕とティアは控室での待機。
ホストとしてこの後王宮を訪れる魔王と代表団の到着を待っているところだ。
当然だけど王宮全体を覆う結界は既に構築済みだよ?
以前使用した『ヒューマンに対して悪意を持つものは入れない』結界だ。
変なこと起きて、もっとややこしくなったら面倒だからね。
「ライト様…緊張されているのですか?」
「うん?まあね。さすがに今日の参集者はいまだない規模だしね。ほとんど他国と交流のない東の帝国までもが来ている。やっぱり魔物たちの隆盛、僕の予想を超えていたみたいだね」
世界はここ数年急激に強くなっている魔物に対して、多くの被害がもたらされていた。
「ライト、すまないな。…お前のことを全世界にさらしてしまう。…だが…」
僕たちの控室に一緒に居るロキラス殿下が暗い表情で僕に声をかけてきた。
真面目な殿下の事だ。
きっと今回の式典にも思うところはあるのだろう。
「顔をお上げください。そもそも僕が迂闊だったことも原因の一つです。今回の陛下のお考え、僕も了承しています。…それに」
「…それに?」
「殿下のお嬢さん、シャルル様との事も…僕は受け入れるつもりです。殿下は僕の御父上になられる方です。そんな方に頭を下げられるのは…心苦しくあります」
僕は今まで結論を避けていた。
正直最初から“こうなること”は分かっていたのに。
この世界における僕の力。
――野放しになど出来る範囲をとうに超えているのだから。
「5歳の時、でしたね。殿下が僕に“婚約者”を、と」
「…そうだな。あれから4年…早いものだ。そしてこの世界、驚くほど変わったのだな」
確かにこの世界は大きく変わったし、これからますます変わっていく。
何しろついに本当の脅威、違う星の生物たちが、まさに今日認識されるのだから。
そして何より既にこの世界に侵入されている事実。
魔物の隆盛も、実は彼らが原因のほとんどを占めているんだ。
「ところで殿下。いま開かれている世界会議、ティアは出席しなくても問題ないのですか?彼女がいた方が話が早いと思うのですけど」
いま開催されている世界会議。
今までの常識を覆すほどの事実、そのすり合わせが行われている。
まさに“荒唐無稽”ともいえる内容。
信じろという方が無理があるだろう。
「…実はな、今回の会議、魔王殿が出席されている」
「っ!?えっ?ルイ、いや魔王ギルイルドが、ですか?」
「しかも別の世界からの侵入者、『リョダ』殿も一緒に参加されておる。…その、本当の姿で、な」
えっと。
僕聞いていないのだけれど?
思わず吹き出す僕の戸惑う感情にロキラス殿下はいち早く言葉をかけてきた。
「すまぬな。…実はすでに根回しはしてあるのだ。だからこそ東の帝国も今回参集に応じている。それにな。…魔王殿に口止めされていたのだ。何でも『サプ…ライズ?』とおっしゃられていたが…」
あー、うん。
サプライズね。
まったく。
まあ、そう言う事ならきっと話は早いはずだ。
何しろ『本来の姿』のリョダまで出席している。
認めざるを得ない事だろう。
「なるほど。理解しました。…魔王軍の代表者たちはこれから来るのですよね?」
「ああ。じきに到着されるだろう。…ライト」
「はい?」
僕に優しい表情を向け、おもむろに跪く殿下。
「最大の感謝を。我が国、いや我らヒューマン族についてくれたこと…感謝しかありません」
心の底からの感謝の意。
僕はそっと跪いているロキラス殿下の腕をとった。
「…すみません。今この瞬間だけ、僕は転生者『蘇我頼人』として対応させてください」
真摯な想いに感動した僕は。
その姿を青年へと変えていく。
「…コホン。…ロキラス殿、謝辞は不要だ。これは俺も望んで行っている事。世界の為と言った高尚な考えは申し訳ないが持ち合わせていない。だから顔を上げてくれまいか?…これからもできることは協力しよう」
「っ!?」
「…俺は自分の好きな者たちの悲しむ顔は見たくない。それだけだ」
青年の姿の僕。
幾つかあるスキルの一つ、擬態だ。
目を見開くロキラス殿下。
そしてにっこりとほほ笑んだ。
「…世界のため、ではない。自身が望む事…ですか。ははっ。あなた様は本当に正直な方だ。…そして安心しました。…ライト、と呼んでも?」
僕は擬態を解き、いつもの9歳の姿に戻る。
そして差し出された殿下の手をそっと握った。
「もちろんです。これからもよろしくお願いします」
「ああ」
※※※※※
ロキラス殿下と話されているとき。
突然光に包まれとてもたくましい姿になられたライト様。
ああ。
なんてたくましく…かっこいいの?
――わたくしはつい
強いあこがれと、情熱。
それを心に抱いてしまっていた。
※※※※※
「…ラ、ライト様?」
僕とロキラス殿下が話を終え二人が席に着いたタイミングでティアが口を開く。
…なんで顔赤いの?
「ん?どうしたのティア」
「え、えっと。…さ、先ほどのお姿…あれは…」
「うん?擬態のスキルだね。…殿下は僕に対して最大級に礼をとってくれたんだ。だから僕も子供のライト・ガルデスではなく、成人の“蘇我頼人”で対応したかったんだよね。…まあ自己満足なんだけれど」
そういえばあの姿はこの世界に来てから初めて擬態した姿だった。
初めて見た僕の姿、彼女の目にはどう映ったんだろう?
「そ、その…」
「うん?」
何故かロキラス殿下に視線を投げ、同時に僕の耳元に顔を近づけるティア。
そしてとんでもない事をささやいた。
「…あのお姿なら…そ、その…わたくしを…」
「っ!?」
ふわっ?!
と、突然何を?
僕はどぎまぎしながらも、赤く顔を染め、目を潤ませているティアを見つめる。
うう、な、なんか…
とんでもなくいじらしい?!
「きょ、今日正式に私とライト様の婚約も発表されます。…記念、ではありませんか」
「う、うん」
「な、ならば…そ、その…誓いを」
「ひうっ?!」
いきなりゼロ距離で密着するティア。
察したロキラス殿下は横を向いているし?!
「うあ、ちょ、ちょっと待って?!…ぎ、擬態だよ?本来の機能は…まだ9歳のままなんだ」
「っ!?………そ、そうなのです…ね…」
見る見る落ち込むティア。
見ているこっちが泣きそうになるくらいの落ち込み様に、僕は思考を巡らし最適解にたどり着いた。
まあ。
邪道なのだけれどね。
「コホン。ロキラス殿下」
「う、うむ」
「ちょっとだけ、僕とティアだけにしていただけませんか?…その、5分くらいでいいです」
「…ふう。分かった。…もしその間に悪魔の皆さまが訪れたとしても私が時間を稼ごう」
「ありがとうございます」
そう言い立ち去る殿下。
これで今この部屋には僕とティアだけだ。
僕はおもむろに消音の結界を構築し、そっとティアの手を取った。
「…ねえティア?」
「…は、はい」
「ごめんね?変な期待させて。…でもさ、魔力でなら深く理解し合える…どうする?」
「…魔力?」
以前魔王の城で行った僕の魔力の放出。
それにより多くの女性は多幸感に包まれた。
ならば。
ティアのことを本当に愛する気持ちを魔力に乗せ、彼女を包み込んだらどうだろうか。
きっと以前よりは強く感じて貰えるはずだ。
「…は、はい。…魔力だけだとしても…わたくしはライト様を深く知りたい」
僕の大切な人。
今9歳の僕は物理的にも倫理的にも彼女とつながることはできない。
でもすでに僕は一生をかけて彼女を愛する覚悟は決まっていた。
だから。
僕はその想いを目いっぱい魔力に乗せ。
彼女の可愛らしい手を取り、祈りを込める。
そして発動する、圧倒的な思いやりと愛を伴う魔力。
「っ!?んんんっ?!…あっ?!……うああ…ああああ……あああっっっ?!」
「っ!?い、意識が?!ぎゃ、逆流?!!ぐうっ?!くっ、うあああああっっっ?!!!」
突然二人を経験のない感覚が突き抜ける。
混ざり合うお互いを想う感情。
そして満たされる、圧倒的な充足感。
全身を駆け巡る、凄まじい愛の波動。
僕とティアは…
この一瞬で二人。
あり得ないような幸福感と満足感に。
二人手をつないだまま気を失ったんだ。
※※※※※
どのくらい経過したのだろう。
体感では数日?
でも…
どうにか目を覚ました僕は部屋の時計に目を向けた。
(…3分?…マジか……)
(これはもう、封印かな…あまりの幸福感に脳がバグっちゃう…)
僕の横に倒れ伏すティアリーナ。
とてもじゃないが人さまに見せられない状態になっていた。
満足げな表情と零れる可愛らしい寝息。
絶対的な安心感――信頼しきっている無防備な姿。
前世と言うか『過去の世界』で“さんざん体験”をしている僕ですら気を失ったんだ。
きっとティアは…うん。
少し休ませてあげよう。
僕はそっと彼女を抱き上げ、ソファーへと寝かせた。
(…ヤバイ……メチャクチャ幸せだった…でも…)
自身の中で荒れ狂う魔力。
激しく脈を打つ鼓動に破裂寸前の心臓。
僕は大きくため息をついた。
(はあ。…やっぱりこれ…今の僕じゃ扱い切れないね)
※※※※※
5分が経過し入室するロキラス殿下。
ソファーに横たわるティアを見て何故か僕にジト目を向ける。
「なあライト?…何をしたんだ?」
「…何もしていませんよ(ニッコリ)」
「………女神さまは………コホン……何もしてない…だったな…うむ」
思わず圧を向けてしまう僕。
察した殿下は青い顔をし、部屋の隅の方の椅子に座った。
(うう。ごめんなさい殿下。……僕、ちょっと…昂っています…うう…)
解消できない欲を抱えてしまった僕は。
大きく反省し、二度とこの方法はとるまいと心に決めていたんだ。
でも。
もちろん“気持ちよさ”も感じていたけど。
それを上回るティアへの愛。
それに包まれ、心の底から安心したこともまた事実だったんだ。
愛おしさが止まらない。
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