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第45話 正式な魔王との会談

あの事件から数日後。


僕の評価はうなぎのぼりで。

目立ちたくない僕の思いとは裏腹に、すでに知らないものはいないくらい注目を集めてしまっていた。


特に以前異性からの性的な虐待と言うか。

付きまとわれたり怖い思いをした女生徒を中心に僕への好意的な対応が爆発的に増えてしまっていた。


(うう。そもそもさ、幼少部の目的違ってない?)


正直3年前新設された幼少部。

幅広い国民への教育が目的だったはずだ。


なのにせっせと行われる世界婚約者探し。

貴族の皆さんの“先物買い”はその時期を早めていた。


それを国が把握したいと考えるのも頷けるが…


(…中等部でも早いと思っていたのだけれど?幼少部なんてまだ子供じゃん!)


ため息しか出ない。

何はともあれそんなわけで。


今僕は少なからず頭を悩ませていたんだ。


一応僕は辺境伯の長男。

爵位的にも上位だ。


何しろ辺境伯は伯爵位とはいえ、実質侯爵家と同等。

さらにはこの前の事件で父上の評判も上々。


まさに侯爵家を超えてしまっていた。


公には『婚約者がいること』は伏せてあることも相まって、まだ1か月しかたっていないにもかかわらず多くの婚約申し込みが殺到していた。



※※※※※



寮のリビングルーム。

今ここでは僕とサルツさん、それからティアリーナの3人で頭を抱えていた。


「ライト様…どうされるおつもりですか?」


多くの申し込みの書類、いわゆる“釣書”を前に大きくため息をつき僕に視線を向けるサルツさん。

さらには僕の領地であるガルデス領の本宅の方にも問い合わせが来ているくらいだ。


「だから言ったのです。わたくしとの婚約、それを前面に押し出せばよいと。…確かに女神との婚約、注目はされるでしょうけど…虫よけにはなりますでしょ?」


――『虫よけ』て。


頬をぷくりと膨らませるティアリーナに、サルツさんが肩をすくめる。


「ハハッ、うん。…ちょっと反省しているし迂闊だったことは認めるよ?でもさ、これはないんじゃないかな?」


僕は多くある釣書の中から、やたら豪華な装飾のあるものを取り出した。


「…僕の婚約、すでに7人も候補がいること…知っているよね?陛下…」


なぜか定期的に送られてくる第3皇女からの熱烈な婚約の申し込み。

確かに王城で数回はすれ違ったけど…


第3皇女、まだ7歳だよね?

何よりロキラス殿下の長女シャルルとの事だってあるのに。


どうやら陛下、どうしても僕を“取り込みたい”ようだった。


「とにかく。これでは学業もままなりません。…一度陛下と面談された方がよろしいのでは?…必要なら段取りいたしますよ?」


うーん。

かなり悩む。


何しろいくつかの事件以来、陛下の僕への信仰?

…上限を突破してしまっている。


既に崇拝する勢いだ。


「…お願いします」

「分かりました。…3日後の休日、良いですね」


「…うん」



※※※※※



面倒くさい。

僕はただそう思っていたんだ。


でもサルツさんが王宮に行ったことにより、この世界に激震が走る事態となる。

忘れていたわけではないのだけれど。


正式にマイハルド王国と魔王との会談、日程が決まったのだった。

そして。


何とホスト役に僕と女神ティアリーナが選ばれていた。

しかも正式な発表。


陛下は物凄く悩んだ挙句、父上を説得し僕の所へ正式に使者をよこした。

僕は渋々承諾せざるをえなかった。


何しろこの世界を憂う陛下の真摯な願い。

僕は以前『協力する』と宣言したんだ。


陛下の覚悟。

僕はないがしろにはできない。



※※※※※



そんなこんなで色々とあるものの。

僕は自分のしたい事、つまり学業の傍ら幾つかの“魔道具の開発”に取り掛かっていた。


僕には伝説級の転移魔術がある。


でもこの魔術、公にすることはいらぬ騒動を巻き起こすので、なかなか使用することができない状況だ。


実は転移魔術、かなりの魔力を消耗するんだよね。

そしてどうしても発動するとその残滓が残る。


魔力感知に優れている人なら分かっちゃうレベルで。

実を言うとこの学園はおろか、寮全体に至るまでそういう魔術構築してあるんだよね。


…まあ構築したの僕なのだけれど。


という訳で僕はお母様と顔を見て話が出来る魔道具を開発していた。

ぶっちゃけ『テレビ電話』だ。


そして今日、試作品が完成した。

早速試験運用をしているところだ。


「…ライト?出来たの?」


そんな僕の部屋にキャルン姉さまが顔を出し、ちゃっかり僕のすぐ隣に腰を掛けた。


「うん。今から試験通信を行うところだよ…お母様、聞こえますか…っ!?…繋がった?」


『ライト……キャルン……本当に……本当に顔を見られるなんて……っ!』


その瞬間、画面の向こうでお母様が両手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。


「うあ、お、お母さま?…お、落ち着いてください」

「お母様、ああ、お母様…会いたかった」


どうやら試験は成功だ。

これでいつでも顔を見ながら話が出来る。


『…凄まじいな…ライト…元気か?』


「父上…はい。…その…いろいろとご心配おかけしました」

『まあ、な。…でも礼を言わせてくれ…キャルンの事、ありがとう』


優しい父上の瞳と涙ぐむお母様。


やばい。

僕も既に涙目だ。


コホン。


「…それで魔王との会談、父上は来られないのですか?」

『うむ。今回は国王に説得されてしまった。…それからな、これはまだ秘密にしてほしいのだが…』


何故か言いよどむ父上。

嫌な予感しかしないけど?!


『正式にお前に爵位が与えられることになった。伯爵位だそうだ』

「…は?」


うえっ?!

伯爵位?


ぼ、僕まだ9歳だけど?!


「じょ、冗談ですよね?」

『…こんなこと冗談で言えるわけがないだろう。それから正式にお前と女神ティアリーナ様との婚約も発表する事となった。もちろん女神さまの降臨もな。…ロキラス殿下の娘シャルル、キャルンやヒャルマ、もちろん魔王殿と魔将殿、それからココナ、それについては以後だ。いいな』


「っ!?」


陛下が認めた?

取り敢えずティアだけ…


正直嬉しいけど…


これではますます僕の願い『スローライフ』からはかけ離れてしまう。


でも。


これは迂闊だった僕のけじめだ。

覚悟を決める時が来たのかもしれない。


「分かりました。僕も覚悟を決めます」

『…ライト…あなたは立派です。…お母様は嬉しいです』

「お母様…」


(ああ。お母様の言葉…僕の心は温かくなっていく)


『でも…』


赤くはらした目を、今度はなぜかジト目にし僕を睨み付けるお母さま。


突然変わる雰囲気。

嫌な予感が駆け抜ける。


『節度は守ってくださいね?…せめて…10人くらいには押さえて欲しいのだけれど?』

「うぐっ?!」


にぶいダメージが僕の心を直撃した。



ていうか10人?

それでも多すぎなのですけど?


ううう。


不安しかない?!


そんな様子を、キャルン姉さまはジト目で僕に圧をかけていた。



※※※※※



そして迎えた5月16日。

遂にその時が来た。


歴史的な1日。


今までヒューマン族の脅威だった悪魔たち。

その頂点、魔王との和平の調停の日が訪れたんだ。


なぜかざわつく心。

幾つもの想定外。


それが待つことを僕はまだ気づいていなかったんだ。


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