第36話 教皇の暴走
「みいつけた…」
「?!…きょ、教皇…様?!」
ライトに助けられ、国に保護された少女ココナ。
その恩返しのため――
心優しい彼女は孤児院の手伝いを積極的に行っていた。
孤児院の裏庭の掃除、その最中。
突然身の毛もよだつ、いまだ経験のない恐ろしい魔力が彼女を捉える。
やがて現れた男性。
つい先日、ココナに『酷い事』をしようとした教皇だった。
あのときの光景がフラッシュバックし、思わず立ちすくんでしまう。
「くくく…いい顔だ…そそるなああ」
ニタリと下卑た表情を張り付け、おもむろにココナの手首をつかむ教皇。
「逃がさぬ。……最後の務め、しっかりと果たさねばな」
手から伝わる暗鬱とした感情。
余りの恐怖に、ココナの顔が引きつる。
教皇の纏う魔力、すでに人知を超えていた。
心の底から湧き上がる嗜虐的な欲望――ルベストイはにやりと顔を歪ませる。
「くくくっ、その怯えた表情――たまらぬ。もっとだ…もっと見せろおお」
「い、いや…放して…だ、誰か…」
振りほどこうと藻掻くココナ。
その様子に教皇はさらに顔を歪める。
――すでに人ではない何か。
ココナの恐怖は天元を超える。
「くはは…いいぞ?もっと叫べ…すでに邪魔者は排除した。――前のような助けは来ぬ」
教皇の言葉と呼応するように空いている窓から幾人もの悲鳴が響き渡る。
孤児院への襲撃。
ありえない暴虐。
「なっ?!あ、あなた…な、なにを…あうっ?!」
「黙れ!今からキサマは『神の祝福』を受けるのだ…くくく、神の祝福に全てを捧げられるのだ…歓喜しろおおっ!!」
「ひいっ、いや…いやああああっっ??!」
教皇から膨れ上がる圧倒的な暗鬱とした魔力。
そして歪に、耳障りな音とともに変態していくその姿。
咄嗟に顔をかばうも、ココナの体は魔力圧で切り裂かれる。
「くはあ。この暖かい血の感触……くふ、くひ…きひゃはははは……」
教皇の高笑い。
その音が遠くなっていく――
目の前が暗く…
(…わたし………あ、ああ…あの時の…男の子…お礼…ま…だ……)
魔力耐性のない彼女の意識――
深い闇へと落ちていった。
※※※※※
一方孤児院を結界で包み込み、仕事をこなした二人。
教皇直属の騎士『テンプルナイツ』の隊長と副長が言葉を交わしていた。
「まったく。さっさと逃げればいいものを…やれやれ」
「ふん。キサマだって人の事は言えまい?無抵抗の人を…しかも子供まで…」
「あん?…それが“隊長様”に使う言葉か?ったく。…ガキは殺しちゃいねえよ」
隊長であるコニーダは吸っていたタバコを足で踏みつける。
この二人。
既に教皇の発する魔力により、正常な判断が出来なくなっていた。
余りの“あり得ない非道な”勅命。
普段なら、正常なら――
当然拒否する内容だった。
立ち昇る彼らを包む異質な魔力。
副長のアッサードの瞳がひどく濁っていく。
「…まあ、確かに潮時…だな」
そう呟き他の隊員3名を伴い、5名全員で訪れた裏庭。
まさに地獄の様相が顕現していた。
血に濡れ倒れる少女。
覆いかぶさる異形。
大きくため息をつきコニーダは静かに口を開く。
「――教皇様、そろそろ…」
「ふひゃはははは…なんだ?まだだ…ろウガ…マダ…神に…捧げて…イナイ」
倒れ伏すピクリとも動かぬ少女。
それを愉悦の表情で見下ろす教皇。
いびつな音を立て変貌していくその姿。
口からは鋭い牙から大量のよだれが零れ落ちる。
まさに今、少女を捕食しようと――
刹那
「っ!?」
「ぐぬうっ?!」
その場を埋め尽くす、息すらできぬ圧倒的な魔力圧。
大気が悲鳴を上げ、物理的な圧を伴うそれは彼らの行動を束縛する。
怒りのオーラを纏う少年。
女神を伴いゆらりと空間を引き裂き現れた。
「っ!?………お前ら…絶対に許さない!!」
瞬間展開するライトの感知――
孤児院の中に残された夥しい血の匂いと衰弱しているであろう多くの孤児たちの鼓動。
そして血に濡れ倒れ伏す、あの時の少女――
察知したライトから大気を振るわす激しい怒りが吹き上がる。
「お前ら…僕は“神”になる気なんてない…でも、今だけは」
――同行したティアの背に、感じたことの無い恐怖が駆け抜ける。
時間の摂理さえ失うほどの身を引き裂かれる激しい怒りの波動。
そして――同時に溢れる悲しみ――
「神罰を執行する…人の身に過ぎた大いなる怒り…永遠に苦しめ!!」
弾けるくらい感情にまみれた圧倒的なライトの魔力。
包まれた教皇たちは絶望とかつてない痛みにもだえ苦しむ。
「っ!?かひゅ?!」
「うあ!?っっっ!!???」
声すら出せずにのたうち回る男たち。
ついにライトの本気の怒り。
その一端がこの世界に――刻まれた。
※※※※※
ゴトゴトと馬車の走る音と伝わる振動に、ココナの意識が浮上する――
…揺れている?
それに…温かい?
優しい鼓動の音。
安心する温もり…
あれ?
わたし……
※※※※※
「あっ?!良かった…目が覚めたんだね」
「っ!?あ、あなた…は…ひうっ?!」
死ぬ直前――脳裏によぎった美しい少年。
まさに今、彼の腕に抱かれ優しい瞳に見つめられていた。
(うあっ?!な、な、なに?…わ、わたし、確か…あの男に…)
どうにか深呼吸をし、逃げるように改めて対面に座るココナ。
そして気付く。
「あ、あれ?傷が…」
「うん?ああ、治したよ?…ごめんね。僕がもっとちゃんと考えていたら…許してほしい」
頭を下げる目の前の美しい少年。
余りの急展開にココナの混乱はまさに上限を超えてしまう。
そして。
あふれ出す涙。
(……また――助けてもらったんだ)
「うあっ!?ご、ごめんね?…まだ痛いかな?」
「い、いえ…違うんです…っ!?」
どうにか絞り出す言葉。
でもライトの行動は早かった。
「傷はない…はっ?!まさか内臓に?…『サーチ』」
自身の手のひらに魔力を這わせココナのお腹に触れるライト。
万が一傷が残っていたら――
その想いが、ライトの魔力とともにココナを包み込む。
※※※※※
ライトの行動。
彼に“疚しい感情”は1ミリも存在しない。
しかし回復魔術のあるこの世界は医術が恐ろしく遅れていた。
『触診』など例がないのだ。
そういう認識のココナ。
ライトにいきなり触れられたことで――とんでもない勘違いをしていた。
《女性の『肌に触れる』それは――『愛する人』にしか許されない行為》
つまりは今の状態。
ライトから『愛の告白』を受けている事と同意だった。
※※※※※
「っ!?…なんで顔赤いの?えっと…『触診』だよ?」
「触診?…は、はい。…そ、その…お、お好きに…なさってください」
気付けば。
熱のこもった瞳でライトを見つめるココナ。
そして沸き上がる、恋慕の情。
「ひうっ?!え、えっと…」
(ヤバイ、ヤバイ…絶対この子、勘違いしてる?…ど、どうすれば…)
「コホン。ライト様?とりあえずはその少女、お寝かせになったらいかがでしょう?」
一部始終を隣で“冷めた瞳”で見ていたティア。
未だ感じたことの無い、絶対零度の魔力をほとばらせていた。
「う、うん」
「…『治療行為』………なのですよね?」
「も、もちろんだよ?!ぼ、僕、以前ティアには説明したよね?」
「………………………ええ」
ぼ、僕、悪いことしていないのにっ!
どうしてこんなに肩身の狭い思いしなきゃいけないのさっ!!
うろたえるライト。
絶対零度のティア。
そして真っ赤に染まるココナ。
やっぱり包まれるカオス(笑)
3人を乗せた馬車はゆっくりと王宮へと入っていくのであった。
※※※※※
一方孤児院。
今ここではライトに有無を言わさずに連れて来られた近衛騎士10名が驚愕の事態に息を飲んでいた。
既に原形をとどめていない教皇だったモノ。
さらには剣をへし折られ、なぜかぶつぶつと『うわ言』をつぶやくテンプルナイツ5名。
その異様な光景に、思わず言葉が漏れる。
「…凄まじいな…これが…神の御子…その実力」
「お、おい。これ…」
「っ!?…血が出ていない?…いったいどういう…」
「ひいいっ?!!も、もうしません…もうしません…だ、だから…ひいいっ?!ひぎいいいっっっ??!!!」
突然弾かれるように錯乱する一人の男性。
その顔には恐怖が張り付いていた。
「お、おい、キサマ、何があった?!…お前らは…何を見たんだ?!!」
「ひいいっっ?!!!ひいいっっ??!!」
完全な恐慌状態。
やがて意識を失い倒れ伏す男性。
さらに弾かれるように喚きだす別の男性たち。
まさに地獄、いや神罰。
「…いったい…何をしたんだ?……大の大人が…ここまで…」
そのつぶやきに、皆は戦々恐々としてしまっていた。
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