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第32話 黒幕の正体

どうにか話し合いが始まった国王の執務室。

僕はまず、今回の原因である教皇について情報の共有を図っていた。



※※※※※



「なんと?そ、それではライト、教皇の身柄、確保できるのだな?」

「ええ。もし望むのなら、今すぐにでも」


思わず冷や汗を流す国王。


非常識な事を当然のように語るライト。

女神ティアリーナ様までもがうなずいていた。


「えっと。じゃあ早速連れてきますね?」

「うむ?…なあっ?!!」


一瞬ライトの姿がぶれる。


そして瞬間――

今まで感じたことの無いような暗鬱とした魔力が溢れ…


教皇ルベストイが茫然と魔力のロープに縛られ執務室の床に転がっていた。


「な、何だと?!くっ、き、貴様…ライト?ぐぬうっ、国王まで…」

「あー。なんか変なものに包まれていたから縛ったけど…『解呪』…これでいいかな?お久しぶりですね教皇様?」


教皇の体に纏わりついていた魔力。

まるで何もなかったかのように、それは霧散していた。


「…凄まじいな」

「…ああ。我が息子ながら…大したものだ」


殿下の問いかけに、なぜか遠い目をしている父上。

さらにはフリーズして意識を失いそうになっている陛下?


大丈夫かな。



ハハ、ハ。



※※※※※



一方国境を守る壁。


激しい爆発にさらされ、凄まじい衝撃とともに大量の土煙に覆われていた。


「フハハ。これでもう守りは存在せぬ。誇り高き我が国の兵士たちよ。邪教徒を一人残らず殉教させるのだ!!……なあっ?!!」


意気揚々と軍馬で突撃を試みたムッハバラード。

予想だにしない状況に、思わずその動きを止めてしまう。


「な、な、何だと?!…壁が…無傷?ぐうっ?!!」


そして浴びせられる大量の弓矢。

かろうじて直撃を避け、どうにか軍馬の体制を整えた。


しかし下された号令。

軍は急には止まることが出来ない。


後方の自軍の圧力。

前方の大量の弓矢。


みるみる間に聖協国リーディルドの軍勢2万は消耗していく。



阿鼻叫喚の地獄が広がっていった。



※※※※※



「ぐうっ?!なんだ?何が起こっている?!!」


秘蔵の魔道具『緊急脱出』――

いち早く混乱している場所から逃げおおせたムッハバラードは苦虫をかみつぶしたような表情でつぶやいた。


既に自軍はほぼ壊滅状態。

何より功を焦った魔術部隊による追撃、それが被害を拡大していた。


国境の門に放った魔術。

秘宝級の『アーティーファクト』により、その威力は数十倍にもなっていた。


抵抗など出来ずに跡形もなく吹き飛ぶはずだった。


何より、まったく仕掛けや結界の魔力など感知できていなかった事実。

彼等にとってそれは成功を信じるに十分すぎる理由となっていた。



しかし現実は。


国境の門は健在。

浴びせられる大量の弓。

精鋭である2万の軍勢はほぼ壊滅状態。


まさに想定できない地獄と化していた。



「…あーあ。…ねえ、早く撤退を告げてあげなよ。そうすればまだ助かる人、多くいるよ?」


意味が分からず困惑していたムッハバラードは肩を跳ねさせる。

慌てて声の方に視線を投げた。


そこにはまだ10歳にも満たないような少年が、なぜか冷めた瞳で佇んでいた。


「…誰だ…貴様」


「うん?ああ。初めまして、かな。…僕はライト・ガルデス。マイハルド王国ガルデス辺境伯の息子。…あなたは王子様、かな?」


値踏みをするような瞳。

ムッハバラードは背中に嫌な汗を流していた。


「ガルデス辺境伯の息子だと?…何が言いたい」

「うん?撤退してほしいんだよね。――僕はこれ以上人が死ぬのを見たくない」


圧を伴う、やけに冷めた言葉。

瞬間ムッハバラードは、敗戦を受け入れていた。



※※※※※



実はライト。


昨日の報告を受けた時点で国境の壁に細工を行っていた。

この世界には無い技術。

感知などできない。


それから女神の名で、今回の行動指針、既に自軍には伝えていたのだった。


完全にはまった計略。

自国の被害をとことん抑える、ライトの思惑。


だが。


ライトは自身の胸に、鈍い痛みを感じていたんだ。



※※※※※



「ふん。くだらぬ。…これは戦争、いや、聖戦だ。どういうカラクリかは分からぬ。だが今回我らは負けた。殺すなり、捕虜にするなり…好きにすればよかろう」


奢っていたとはいえ一国の王族。

当然統治者としての学びは済ましていた。


「ねえ」

「…なんだ」


「今回のことってさ、あなたが決めたの?…行動早すぎない?」


(…腑に落ちないんだよね)


教皇が逃げたのが昨日の事。

それと同時に展開する2万もの軍勢。


明らかにタイミングがおかしい。



「……」

「うん?だんまり?…はあ。面倒くさいな」


おもむろにライトは鑑定の術式を展開する。

心の奥までもが晒されるような悍ましさに、ムッハバラードの表情が歪む。


「…まったく。教皇は何を考えていたんだろうね。…ねえ、あなた達の国だって魔物の侵攻に苦慮しているんでしょ?…ヒューマン同士で争っている時間なんてないと思うんだけど?」


聖協国リーディルドが軍事力を拡大させていた背景。

強さを増した魔物の侵攻が原因だった。


彼等もまた…

存亡の危機に立たされていた。


「…もう間に合わぬのだ。…我らには力が、アーティーファクトがある。だが優れた力とはいえ、全ての民は救えぬ」


統治者としての言葉。

そして突然表情が変わる。


「そんなとき『あのお方』が降臨なされたのだ。あのお方はまさに神。…依然行方の分からぬ女神など…もうすがる余裕、わが国には無い」


教皇ルベストイを唆し、聖協国リーディルドに君臨する男。

目覚めた異星の神の眷属、そのものだった。


(まったく。…やっぱりあいつらか。…はあ)


「ねえ王子様」


「…なんだ」

「とりあえず帰ってくれる?…『解呪』…どう?落ち着いた?」


僕は解呪を王子に施す。

清廉な光が彼を包み込む。


怪しい気配が急激に薄くなっていく。


「っ!?…な、何だと?!…不安が…悍ましさが…消えた?」


「あなたはさ、既に感染させられていたんだ。“異星の神の眷属”、真の侵略者である彼らの呪詛に。はあ。本当に面倒くさい。…国王?…聖王っていうの?…まだ存命だよね?」


解呪され戸惑うムッハバラード。

しかしその瞳――濁った不穏な気配が消え清廉な光が瞬き始める。


彼は軍馬から降りライトに膝を折った。

その瞳にもはや――ライトを侮蔑する色はみじんも存在していなかった。


「ライト、いや、ライト様…ありがとう存じます」


「あー。お礼はいいかな。それよりも、撤退、できる?」

「はっ。直ちに」


大きな笛のような物を掲げ魔力を揺蕩らせるムッハバラード。

途端に動きを止める兵士たち。


慌てて撤退の行動へと移行していくさまが見られた。

どうやら半数くらいは命をつなぐことができそうだ。


その様子に僕はほっと溜息をつき――

同時に怒りを覚える。


(まったく…どうしてくれよう)


どうにか防げた直接的な戦闘。

我が国の被害はゼロだ。


でも。


敵国とはいえ、万に届こうかと言う人命が失われた事実。

それを扇動した異星の神の眷属。


(人の命を何だと思ってるんだ…マジでムカつくね)



僕は静かに決意を固めていたんだ。


(片を付けてやる――僕の手で)



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