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第31話 王との会談

騒然とするノースルナーク王宮。


昨夜の突然の宣戦布告――そして押し寄せた聖協国リーディルド軍。

王宮内は、まるで蜂の巣をつついたような混乱に包まれていた。


「おいっ、部隊長はどうした!」

「城下で点呼中です!」

「魔術部隊の再編は!? 武器庫はまだか!」

「食料庫は――補給が追いついておりません!」


飛び交う怒号。

戦時下そのものの光景に、僕は思わずため息を吐いた。


「ライト様。どうやらあの教皇、“アーティーファクト”で逃げたようですね」

「ん? アーティーファクト? ……この程度の隠蔽で?」


いま彼の魔力反応は僕の“記憶”に刻んである。

捕まえようと思えば今すぐ捕まえられる。

というか――僕が作った魔道具の方が性能が良いのだけれど?


まあいっか。

まずは王様と会談してからだね。

もう“いくつか細工”もしてあるし。


「すまぬなライト。見ての通りでな……せっかく協力してもらったというのに、我らの不手際だ。どうか見捨てないでくれれば嬉しい」


今日のホスト役でもある近衛副長のロキラス殿下。

普段は端正な顔立ちなのに、今日はうっすらとクマが浮いている。


「いえ、気にしていません。……殿下?」

「なんだ?」

「教皇、僕が連れてきましょうか?」


「…………は?」


僕は薄く魔力を広げて、城内の“心の声”を拾っていた。

精度は低いけど、状況を把握するには十分だ。


どうやら今回の騒動の元凶はやっぱり“アイツ”らしい。


「一度会った時、魔力反応を追えるようにしておいたんです」

「……とんでもないな。――ライト、その話、陛下に直に伝えてくれるか?」


殿下の表情は真剣そのもの。

人民の命を心から案じるその目に、僕は素直に頷いた。


「分かりました。僕から陛下に」

「……すまぬ」


殿下の瞳には覚悟が宿っていた。



※※※※※



戦場のような喧騒とは裏腹に、謁見の間は静寂に満ちていた。

名だたる貴族が整列する中、僕とティア、そして父上の三人は玉座へと歩み出る。


「……おお、あれが……」

「なんとお美しい……女神様……」

「少年……あれが“御子”か……」


聞こえてくるささやき声。

正直僕は慣れているけど……隣では父上がガチガチに固まっていた。


王の御前三メートル。

僕と父上が膝をつく。

ティアは女神なのでそのまま。


父上が声を張る。


「王国の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げ――」


しかしその途中、陛下がいきなり立ち上がると逆にひざまずいた。


「女神ティアリーナ様……そして希望の御子ライト、ガルデス卿。よくぞ来てくださった」


謁見の間にざわめきが走る。


父上は完全に固まったまま。

動揺の波が伝わってくる。


(あー……タイミング……国王様、精神的に疲弊しているんだね)


ティアが軽く咳払いして助け船を出す。


「コホン。陛下、まずは辺境伯ノイド様の挨拶を受けるべきでは? ……ロキラス殿下」

「はっ! こ、コホン。陛下、まずは玉座へ!」


「あ、ああ、すまぬ。ノイド卿もすまぬ。まずは忠誠、確かに受け取ったぞ。――宰相、会見の準備を」


やれやれ、と僕は小さく息を吐く。



※※※※※



国王陛下は執務室へ移るなり、突然土下座した。


「この度は……我らの愚行、どうか、お怒りをお鎮め願いたい……!」


ロキラス殿下も慌てて止めようとするが止まらない。

そんな様子にティアリーナは慈愛の籠った瞳で優しく声をかけた。


「頭をお上げください。陛下のせいではございません。……このままではお話もできませんよ?」

「っ!? 女神様……なんという寛大なお言葉……」


感動なのか限界なのか。

陛下の体は小刻みに震えていた。

よく見ると、化粧めいた何かで“深い皺”を隠している。


寝不足で限界なのが一目で分かった。


(……うん。これは、つらい)


僕は目を閉じ、優しく魔力を解き放つ。

緑色の神聖な光が室内を包み込んだ。


「っ……なんと澄みきった……」

「……ああ……心が、軽い……」


陛下、殿下、近衛兵、宰相――

皆が一斉に息をついた。


「少しですが、回復と精神安定の魔術を使わせてもらいました」


分かりやすく僕は印を切って見せる。


「“不敬”と言われるなら謝ります。でも……今は話し合いが必要なので」


僕の言葉と表情。

それを見て頷いた陛下は深く息を整えた。



※※※※※



目に見えて回復した陛下。

指示を出しどうにか会談出来る気配に戻った執務室。

お茶が運ばれ、いよいよ会談が始まる。


「ライト様とお呼びしても?」

「い、いえ! 普通にライトで! 陛下に敬称で呼ばれるとか……無理です!」


いきなり何言ってるのかな?

僕が慌てると、陛下はロキラス殿下と目を合わせ、柔らかく笑った。

そして深く、真っすぐ僕を見つめる。


「……ありがとう、ライト。どうか、この国――いや世界を、頼む」

「……はい。ティアの願いでもあります。できることはします」


ああ、この人は信用できる。

そう確信し、胸をなでおろした。



※※※※※



一方、国境付近。


聖協国リーディルド軍二万。

第3王子ムッハバラードが冷ややかな目でマイハルド王国軍を見下ろしていた。


「ふん。あの程度の武装で抵抗とは……平和ボケも甚だしい。……ラルガ」

「ここに」


闇から現れた影。

“暗部”のような存在だ。


「例の教皇は確保したか」

「はっ」


「ふむ。ではどうする? 貴様の意見を聞こう」


ムッハバラードの体から濁った魔力が噴き上がる。


「……殲滅を。すでに宣戦布告は済んでおります。勝利こそが第3王子軍の摂理」


「ほう……摂理。ククッ、大きく出たな」

「いえ、真理でございます。今の殿下に敵はおりません」


聖協国リーディルドは“軍事国家”。

秘匿ダンジョン『グラルミア渓谷』から大量のアーティーファクトを産出し、力を蓄えていた。


すでに“女神教”を信じる者など、国に一人もいない。


「……女神は滅びた。いまこそ我らが世界を手中に収める時だ」


もちろん彼自身そんなこと信じていない。

だが兵士を操るには都合の良い言葉だった。


「殿下の御心のままに。どうか号令を」

「ふん」


ムッハバラードは剣を抜き、軍全体に響く声で叫んだ。


「全軍傾聴――! 昨日、我らは宣戦布告を済ませた!」


兵士が整列する。


「だが愚かな王国は沈黙のまま! その愚劣、天に代わって正す!」


濁った魔力が天へと噴き上がり、兵たちは歓喜に震える。


「邪教徒どもに、真なる“祝福”を!!

――全軍、突撃いいいいっ!!」


距離数百メートル。

国境防壁へ向けて、アーティーファクトで増幅された破壊魔術が撃ち込まれた。


極光。

轟音。

木々が炭と化し、黒煙が空へと昇る。


――開戦の火蓋が切られた。


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