第28話 ロキラス殿下の来訪
ライトが少女ココナを救う少し前―――。
良く晴れた小春日和の3月。
親衛隊隊長マザルドは馬を走らせながら、遠ざかる領地とライトの姿を思い浮かべていた。
(はあ……ライト様、王都に行っちまうのか。寂しくなるなあ)
まだ朝晩は冷える季節。
遠くの山には雪の残滓が光る。
しかしライトの『結界の魔石』のおかげで、馬車の周囲だけは春の陽気のように暖かかった。
(これ、普通に売ったらいくらだ?……ほんとライト様は規格外だよな)
頬を掠める冷たい風に季節の名残を感じつつ、マザルドはライトとのやり取りを思い返す。
※※※※※
実はライト。
父ノイドの目を盗み、時折兵士たちに稽古をつけていた。
(……あの指導、本当に聞いたことない内容ばかりだった)
体内の魔力を意識して巡らせる。
今では無意識でできるが、以前は感知すらできなかった。
魔力循環――防御力向上、疲労回復、集中力……数々の恩恵をもたらす技術。
(俺ら騎士は魔術なんざ関係ねえ……そんな考え、今では鼻で笑っちまう)
索敵の魔力を広げる。
以前とは比べ物にならないほど滑らかに馴染む魔力に、思わず顔が緩む。
(……あの時の魔物襲来も、ライト様の武具がなければ死んでた。感謝してもしきれん)
雷撃魔術を内包したライト謹製の武具――
生物に必ず存在する電流を乱し、数万ボルトで拘束する。
魔物の動きを一時的に完全に止める、前代未聞の兵装だった。
(ほんと、次代様はとんでもねえ)
※※※※※
その時、マザルドの警戒魔術が強烈な魔力反応を捉えた。
護衛隊が緊張し、剣に手をかける。
「ノイド様、強い魔力反応です!」
「……ああ。問題ない。客人だ」
風のように駆けてくる影。
可視化できるほどの魔力を身にまとう――第2王子ロキラス殿下だ。
纏う魔力を振りほどき、馬を降りる殿下。
馬車が止まり、ライトが顔を出す。
「っ!? 殿下……お久しぶりです」
「うむ。久しいな。……大きくなった。ますます男前になったな」
「う、あ……お戯れを」
※※※※※
殿下の急な訪問に、その場で休憩を取ることになった。
サルツが水を手渡し、お茶を準備する。
「それで、どうされたのです?そんな急いで」
「ああ……教会だ」
ロキラスが息を整え、水を飲み干す。
見れば、馬は疲労で座り込んでいた。
殿下はおそらく休むことなく、全力で走ってきたのだろう。
「ライト、例の魔術……皆にも伝えてあるのか?」
例の魔術――転移魔術のことだ。
ライトが視線を父に向ける。
ノイドは静かに頷き、指示を飛ばす。
「マザルド、これからの会話は他言無用だ。護衛も同じく」
「はっ!」
父ノイドはライトに優しい視線を投げる。
「……分かりました。どこへ向かえばいいのでしょう?」
「さすがライトだ。話が早い。――王都の教会だ。ここが目的地だ」
ロキラスは地図を渡す。
「教皇が真っ黒だ。金が動き、貴族も多数巻き込まれている。逃げる前に捕らえる必要がある」
「教会……嫌な話です」
「うむ。だが権威にはつきものだ。前任の教皇の死も不可解でな……突然死だが、毒の可能性はない。私が立ち会った」
ライトの背に冷たいものが走る。
前教皇ビーンジャ。
確かに高齢だったけど、高潔なまさに殉教者。
何より数年は務めを果たせるほどの覇気を纏っていた姿が目に浮かぶ。
(――あいつらだ)
すでに紛れている。
僕はティアと頷き合う。
「殿下、ティアを連れていってもいいですか?」
「女神さまを? ……光栄の極み。ご協力いただけるならこれ以上の力はない」
「もちろんですわ。ライト様の願いが最優先です」
ティアリーナは頬を染めながら答える。
ロキラスがぼそっと呟く。
「……女神さままで落とすとは。ライト、恐ろしい男だ」
「なっ!? い、今はそういう話じゃ……!」
一瞬和む空気。
僕は咳ばらいをし、術式を展開させた。
※※※※※
ティアがライトを抱きしめ、転移の光が舞う。
春の陽光にキラキラと魔力の残滓が舞い踊り、馬車周辺には静寂が戻った。
「まったく……凄まじいなライトは」
「我が息子ながら、たいしたものだ」
※※※※※
お茶を飲みながら談笑するロキラスとノイド。
その表情は穏やかで、周囲の家族や護衛たちも朗らかな空気に包まれていた。
「キャルン嬢も美しくなったな。ルードリッヒも落ち着いている。……ノイド、誇るべきだが、同時に心配も尽きぬだろう」
キャルンとルードリッヒは照れながら礼を述べる。
可愛い我が子。
ノイドは二人の頭に手をのせる。
しかし次の瞬間、彼の顔が引き締まった。
「それで……ライトと女神さまに“聞かせたくない話”とは?」
空気が一変する。
ロキラスは重く口を開いた。
「……懸念だ。ノイド。ライトは――今後も我らの味方でいてくれると思うか?」
「そう信じている。……ライトの力は、底が見えん。
魔王を凌駕し、全盛期の女神ティアリーナ様すら越える。
……あれが本気なら」
息を呑む音が一斉に走る。
「この世界――いや宇宙のすべての中で、並ぶ者がいない最強の存在だ」
ロキラスはサルツに視線を向ける。
真直ぐに見つめ返す瞳。
そこにはみじんも心配する光は存在しない。
「……お前がそこまで信じ切るとはな」
「はい。ライト様はお優しく、平穏を望まれています。問題ありません」
ロキラスは深く息を吐き、姿勢を正した。
「王都に着いたらすぐに面会する。――その後、魔王殿との会談も段取りを組もう。
ヒューマン同士の争いをしている場合ではない」
「……ああ」
この世界にはいまだ多くの国があり、戦争は続いている。
ロキラスは小さく呟いた。
「人の業とは……果てがないものだな」
春の風が吹き抜けた。
肌を撫でた冷たさは――ただの気温だけではなかった。
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