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第144話 戦勝の宴の段取り?…あー、うん。

本会場で騒動を引き起こしていた国王代行のガジス。


僕は有無を言わせず。

この瞬間にも彼を殺しそうなティアリーナを含め。


彼の本国であるゲニッシュリードの首都、デザートノワールにあるアラティート宮殿の謁見の間へと転移していた。


「かひゅ?!……うぐう、き、貴様?!!!」

「あー。うるさいな」


状況が分かっていないであろう男性。

僕は束縛の魔術で縛り上げ、床に転がした。


多くの重鎮がいる謁見の間が凍り付く。


「なっ?!…お、おお…女神様!」

「…あれは…ガジス?」


突然ありえない魔力があふれ出し。

転移し現れる3名の人物。


国王であるビシャーザドは即座に正解にたどり着く。



すなわち――



「…この度の狼藉、私の落ち度でございます。…その魔力、“影の騎士ノワール殿”とお見受けいたします…どうか、我が首ひとつで…」


彼らの国、部族連合国ゲニッシュリードは影の騎士ノワールにより救われた国だ。

何より現国王はその事実に、心の底から感謝していた。


しかし今回の戦勝の宴。

ガジスの下らない策により、彼の参加を許してしまっていた。


事情はどうあれ国の失策。

トップが責任を取るのは自然の流れだ。



「…ふう。いいよ。ビシャーザドさん。頭をあげてください」


今回は緊急的な判断だ。

だから当然僕は変装などしていない。


でも。


「…それにしても。よく僕が“影の騎士ノワール”だってわかりましたね」


跪く国王の手を取り僕はにっこりとほほ笑む。

恐る恐る立ち上がる国王は優しい瞳で僕を見つめた。


「…なんと。…あなた様が影の騎士ノワール殿…ええ。あなた様の魔力。私が間違える訳がございません」


実は彼。

例のオアシスを作る時に、いくつもの便宜を図ってくれた人物でもあった。


彼とは何度も打ち合わせを行っている。

どうやら何かしらのスキルがあるのだろう。


さらに今度は仏頂面をしているティアにまで首を垂れる。


「…美しすぎる従者アラタイト殿…まさかあなた様が女神だったとは…重ねてこの男の非礼、お詫びさせていただきたい」


「…ふう。…分かりました。あなたに免じてここは下がりましょう」


ようやく霧散するティアリーナを包み込む絶対零度の魔力圧。

おもむろに謁見の間に摘めていた重鎮たちから安堵のため息が漏れた。


「…ガジス」

「?!!!??」


ふいにガジスを睨み付ける国王。

そして呼応するかのように、重鎮全てから非難の色を纏う視線が突き刺さる。


「すでに通信の魔道具によりそなたの下らない振る舞い、承知済みだ…貴様。お前個人の下らない欲望で、この国はおろか、この世界破滅させる気か」


「うぐう」


拘束されしゃべることのできないガジス。

彼は今になり、自分のしでかしたことの重さを実感していた。


なにより。


目の前にいる二人の人物。

“隠匿”を解いた今、彼では測れない高み。


すなわちとんでもない化け物であることを認識してしまっていた。



「…通信の魔道具?…ああ、付き人のマレイダさんか。…彼については後で僕が責任を持ってお届けいたしますね」

「っ!?…お手数おかけいたします」


今回の事態。

欲に目を曇らせた、ガジスの独断。


一応一部族の当主でそこそこの実力者。

彼の陰謀により急遽公務を押し付けられた国王に変わり、無理やり参加を画策していたのだ。


「…ちなみにですが…被害額はいかほどでしょうか?…補償と言うか…弁償させていただきたい」


暴れるガジスを捕らえ。

どうにか落ち着いた謁見の間で国王は静かに口を開いた。


「うん?まあ。…料理を蹴り飛ばしたくらいだからね。頭には来るけど被害額とかで見たら大したことじゃないですよ」


僕は天を見上げ、想いを馳せる。

ガジスは傲慢に振舞っていたけど、実際の被害額は大したことはない。


……でもさ。


爆発的に迸る、ライトの怒りの魔力。

謁見の間の重鎮たちは呼吸すらままならなくなり、全員が蹲ってしまう。


「…あいつ。ティアリーナに

僕の奥さんに触れやがった」


「っ!?」


猛り狂う魔力。

既に数人は悶絶、意識を失い倒れ伏す。


正直ライトは料理に対するいちゃもんや、偉そうに振舞う奴がいることについては想定もしていたし、はっきり言って怒る気もなかった。


何より今回の宴は全世界規模の催し。

文化や習慣の違うものだって多く集まるのは想定内だ。


だけど。

ティアリーナに触れた。


それだけは絶対に許すことができない。


さらに圧を増す圧倒的な魔力。

既に重鎮の多くは命の危機に陥っていた。


「っ!?」


突然僕を包み込む優しくて安心する香り。

ティアリーナが目に涙をため、僕を抱きしめていた。


「…ライト様…ティアは、ティアは大丈夫です」

「ティア」

「犬にかまれただけ…そうですよね?」


僕の大切なティア。

彼女がそういうんだ。


霧散する魔力。


冷や汗を大量に額から滴り落としていた国王が改めて頭を垂れた。



「…誠に申し訳ございません」

「…ふう。……僕もごめんね?…謝罪を受け取る」


「あとは、きっちりと罰の与えます。どうかお怒りをお沈め下さい」


「まあ。…うん。…ティアもそれでいいかな」

「ええ。あとでたっぷりと…消毒してくださいませ♡それで許します」


とんでもない色気を噴き上げ、僕を見つめるティア。

あーうん。


消毒?


えっと。



※※※※※



何はともあれガジスの件については一応の片が付いた。

僕たちは改めて、用意してくれていたこの地方特有の珍しいお茶に舌鼓を打っていたのだけれど。


「あの、ライト様」

「はい。なんでしょう」

「そ、その…戦勝の宴、最中では?」


凍り付く室内。

そして滝のように流れる冷や汗。


やばい。

怒りに囚われすっかり忘れていた。


「あー、う、うん。…失礼しますね」

「コホン。また。…落ち着いたら是非に」

「は、はい。…ティア、帰るよ」

「はい。ライト様」


消えるライトと女神。

改めて国王であるビシャーザドは、その様子に大きくため息をついていた。



「…宰相」

「はっ」

「最高級の我が国の酒、ありったけマイハルド王国へと送るのだ」

「…御意に」



改めて今回の失態。

ガジスの暴走が最悪の事態になる前で終わってよかったと、心の底から安堵する国王。


しかし。


ふいによぎるライトのあの怒り。


(…恐ろしい…まさに伝承は誠であったな……彼に対する過ち…それはまさにこの星の脅威だ)



まるで一瞬で歳を取ってしまったような国王ビシャーザドは天を見上げ、そして静かに目を閉じた。



遠い異国の地。

本来関わり合うことすら難しい常識。



全てを覆す絶対者に、ビシャーザドは改めて誓いを立てていたんだ。


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