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第143話 再度の婚約者無双?

ライトが休憩施設でジョコビッチに三郎ラーメンを振舞っている同時刻。


本会場である王宮の特設会場では、突然いちゃもんをつけたゲニッシュリードの国王代行ガジス・ビシュテが一人いきり立っていた。


「まったくなっとらん。これが世界最高峰の料理だと? 笑わせる。粗末すぎて食欲すら失せるわ」


腰の低い料理人に罵声を浴びせ、慌てて止めようとする付き人を振り払い――

ガジスは、山と積まれた料理を載せたテーブルへゆっくりと歩み寄る。


そしてためらいもなく、足で思いきり蹴り飛ばした。


ガシャア――ン


飛び散る料理の数々。

凍り付く会場。


その様子に、今までおとなしくしていた魔王ルイが怒りの魔力を纏わせゆらりと立ち上がった。


隠匿しているにもかかわらず、全てを圧倒する凄まじい魔力。

それは周囲の空気すら薄くさせていく。


特別貴賓席の面々は、思わず蹲ってしまう。


「…ルイ、ダメよ」

「っ!?ニニャ?」


そんな彼女を、ニニャが絶対零度の怒りの冷気を纏いながら止めた。

余りの怒りに指先が震える。


「…ここで私たちが暴れたら…この会場は間違いなく地獄になる。…分かっているでしょう?」

「っ!?…で、でも…」


彼女たちは知っている。


今回の宴、色々愚痴は言っていたものの。

ライトは久しぶりに心の底から楽しんでいたことを。


何よりライトは参加者が楽しんでもらえるように今朝方まで料理の調整を行っていたのだ。


『レシピを渡すだけだよ』


そう言っていたのに。

改めて沸き上がる怒り。


でも。

確かにここで暴れるわけにはいかない。

何しろここには。

この世界の権力の中枢、その多くが集まっている。


「…だから(こら)えて。…それに女神様、あの表情。…下手に手を出したら、私たちまでお仕置きされちゃいそうでしょ?」

「っ!?…確かにね。…ふう……うわあ。ティア、めっちゃ怒ってない?」


改めて会場を見渡すルイとニニャ。

怒りを霧散させ、ルイはティアリーナとそこへにじり寄る男を冷めた瞳で見つめた。


(…まったく。ライトちょうどいないし。…あーあ。あの男…馬鹿だね)



※※※※※



開宴し小一時間。

皆が一様に女神へとあいさつを交わすこの時間。


事もあろうにそのタイミングでこの男は仕掛けてきた。


激昂している振り。

そう。

国王代行であるこの男、ガジスはクズだが只の阿呆ではなかった。


元々流浪の民。

幾つもの苦難を超えた彼らは、それなりの実力は備えていた。


実にレベルは63。

王族の中ではかなりの実力者ではあったのだ。


今回の催しはいわゆる祝勝会だ。

だからこそ超絶者たるライトをはじめ、女神ティアリーナも魔王ルイも実は隠匿の魔術を展開させていた。


ライト渾身の隠匿。

すなわちそれは、女神であろうともガジスから見れば格下に見えていた。


だからこそ――


(ふん。世界中を覆うビジョンだと?どうせ何かのトリックよ。…女神とはいえこの程度の力……くくく。胸はまあ…小ぶりだが。…いい女じゃないか)


よこしまな想い。

それを抑えることなく下卑た視線を向けていた。


(わしがたっぷりと可愛がってやろう。くくく。昨晩女をあてがわなかったこの国の失態――せいぜいヒイヒイ言わせてやるわ)


「ふむ。しかし祝いの席。ワシとて騒ぎを起こしたくはない。…今回の戦勝の宴、それのホストとして女神ティアリーナ様も主催とか。…この後少しばかり…くくく。これ以上は言わずとも…」


そしてティアリーナににじり寄り、おもむろに手を取った。


(ほっほーう。なんというすべらかな肌…それにこの香り…たまらん)


撫でまわすように腕を取り、いやらしい視線を向けるガジス。

余りの無法。


会場は凍り付く。


「…お口に会いませんでしたか?」

「…あん?」


絶対零度の魔力。

隠匿したそれに、ガジスは気づかない。


だが――

世界中の軽蔑を集めたような冷めきった瞳。


「ひぎっ?!…うぐあ、く、口が?!!!」


突然凍り付くガジスの口。

呼吸が止まり、その場でもがき苦しみ始める。


「…下衆が…ライト様の料理を…死をもって…」

「すとーっぷ!!」


突然会場を包み込む圧倒的な魔力圧。

時が止まり、音すらその存在を無くす。


そして瞬間広がる認識阻害と強烈な思考誘導魔術。


刹那のタイミングでガジスとティアリーナ、そして瞬間現れたライトが会場から姿を消した。



(――ヴィレ、いいよ。…例のあれ、やっちゃって)

(っ!?ラ、ライト?…う、うん。分かった)


突然響き渡るオーケストラの重厚な音楽。

唖然としていた参加者たちは、何故か呆然とした表情で席に着いた。


(まったく。さすがライトよね。こういうことも想定内とか)


自らもあり得ないような怒りに囚われていたヴィエレッタはそう呟き席に座り込んだ。


実はライト。

きっとこういう馬鹿がいると、最初から対策を講じていた。


ライトには11人の婚約者がいる。

そのすべては実にこの世界においてチートの存在だ。


先のリュガリールとの決戦。

あのときに経験を得たライトの可愛い婚約者たち。


実に一番レベルの低いリュイネですら、170を超えていた。



そう、ライトは。

先ほどルイとニニャが言った通り。


今回の宴、楽しむと決めていたのだ。



そして会場を実はダンジョンポイントで掌握。

実に擬似ダンジョンと同じ状況、つまりはダンジョンマスターであるヴィエレッタにとって、このような策は朝飯前。


つまりこれは想定内だった。


だがライトは一つ見落としていた。

ライトに向ける婚約者たちの気持ち。


正直ライトは地球でさんざん営業の経験がある。

つまりは人の悪意や嫌がらせ、そんなことは織り込み済みだ。


だから実はもっとエグイ事が起こると想定してたのだが。


読み切れなかったライトに対する婚約者たちの信望の想い。



ティアリーナをはじめ、全員が心底怒っていたことに。

この時ライトは気づいていなかった。



※※※※※



穏やかなオーケストラの演奏。

しばしの時を経て、皆が一様に会食を再開していた。


「…ロキラスよ」

「…はっ」


一番の特等席。

その一段下に座していたマイハルド国王ミルナルドは息子であるロキラス公爵に声をかけた。


「…今何があった」

「…ふう。陛下も感じられたのですね」


すでに今の状況は、まさに戦勝の宴。

穏やかな談笑が繰り広げられ、皆の顔には笑顔が浮かぶ。


しかし。

今回の主催であるマイハルド王国の国王。


その覚悟が、ライト渾身の隠匿に対し、ぎりぎりでレジストしていた。


「お父様」

「む」


そんなタイミングで第3王女でもあるリュイネが声をかける。


「――ゲニッシュリード国王代行ガジスの行為、決して見逃すべきではありませんわ。

 あれは“外交問題”としても最悪です」


真剣なまなざし。

リュイネとて怒っていた。


大好きなライト渾身の料理への仕打ち。

女神に無遠慮で触れた許されることのできぬ大罪。


「…うむ。承知した」

「お願いいたしますわ」


にこやかな笑みを浮かべ、淑女の礼をとり背を向けるリュイネ。

その様子につばを飲み込みつつ、指示を飛ばす。


「聞こえたな、宰相」

「はっ」

「万事任せる。頼むぞ」

「御意」



こうして人知れず激詰めされるガジス。

だが。


波乱の戦勝の宴。

まだまだ思いもよらぬイベント。



襲い掛かるのであった。


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