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第13話 僕、殺したくないんだよね

ルアマナの森――

ヒューマンが未踏の地、大きな岩で形成された深い洞窟。


魔力をたぎらせた中年の男性。

多くの魔物の中、何故か自嘲気味な笑みを浮かべていた。


「ふん、愚かなヒューマンどもめ。…今頃大騒ぎをしている頃であろうな」

「ンギー」


反射的に返される声。

男はそちらへ視線を向ける。


「むう、いまだ言葉が分かるのは貴様しかおらぬか。せめて喋れれば良いものを。おい、戦況はどうだ」

「ンギー、ンギー、ンギイイイ―――」


興奮したように意味不明な言葉を発するホブゴブリンのボス。

周りの取り巻きも興奮気味に足で地面を鳴らす。


「……さっぱりわからぬ。……仕方がない。消耗するが我が自ら覗いてみるか」


そう言い左目の眼帯を外す魔族らしき男。

彼の左目に魔力の残滓があふれ出す。


「……ふん、城壁を壊せていたか。あそこの担当はオーガの連中か。……しかしさすがは辺境伯。対応が早い」


なぜか懐かしそうな郷愁に似た表情を浮かべ独り言ちる男性。

その瞳にはただの殺戮者、そう見えない理知的な色が灯っていた。


やがて魔力を霧散させ、大きくため息をつく。


「さすがは耳に聞こえし歴戦の猛将。そして鍛え抜かれた兵士たち。…一筋縄ではいかぬか」




「へー、父上、あなたたち魔族にまで名を轟かせているんですね」


「うむ。彼はヒューマンにしておくには惜しい存在だ。できれば仲間に……誰だ?!」


いきなり会話が成立し、驚く魔族の男。

気が付けば先ほどまで居たホブゴブリンの一団の気配が消えていた。


代わりに包み込む、まるで隔絶されたような気配。

異質な静寂。


魔族の男性の額から、冷や汗が滲みだす。


「初めまして。僕は辺境伯の長男、ライト・ガルデス9歳です。よろしくお願いします」


場違いな礼儀正しい礼をする目の前の少年。

だが体を包む悪寒はますます増していく。


「……ホブゴブリン達をどうした」

「へー。…人は簡単に殺そうとするのに、魔物なら心配するんだね。邪魔だったから遠くへ飛ばしておいたよ?――多分生きてる」


そしてにやりと顔を歪め魔力を揺蕩らせる。

そのあまりの魔力圧に魔族の男は絶望に包まれた。


「……ていうかここ暗いな…『フラッシュキープ』…よし」


あっという間に明るくなる洞窟。

余りにも自然な魔術の行使。


その余裕が、男の恐怖をさらに煽る。


「どうでも良いんだけど。あんまり殺したくはないんだよね。帰ってくれないかな?」


「フ、フハハ、これは異なことを……我らは敵ぞ。何をためらう」

「んー?ためらっているわけじゃないんだけどな」


小声でつぶやく少年。

その魔力が膨れ上がる。


「……あなたの魔力……うん、こうかな?」


そして突然目の前の少年からあまりにもなじみの深い魔力、自分と同じ魔力が噴き出した。


「なっ?!」

「ふーん。“傀儡の魔術”じゃないんだね……興奮させるだけ、か。しかも命大事に?…道理で攻撃のパターンが単調だったわけだ」


実はライト、すでに数百体に届こうかという魔物をお仕置きしていた。

彼のあまりの魔力圧で無理やり契約を解除された魔物たちは既に森へと逃走を開始していた。


「ん?……凄いね、あなたまだ若いのに。…テイマーレベル…“位階7”?!……解除っと」


そしてやけに冷めた瞳が私に突き刺さる。


「……あなた本当は戦いたくないでしょ」

「っ!?」


「仕方ない。ちょっと覗くよ。――鑑定」

「うぐ、ぐうあああああああっっっ??!!!」



※※※※※



ビジョンが脳裏に流れ込む。


深い森の奥――未だ全容の解明がされていないまさに魔境。


その奥、国境にほど近い場所にひっそりと魔族の集落があった。

今回の司令塔を務める彼、“バルイルド”の故郷だ。



僕はさらに鑑定の精度を上げる。

それに伴い頭を抱え、体を震わすバルイルド。


彼は必死にレジストしようと体内の魔力を限界まで練り上げていた。


「……無駄だよ?……疲れるだけだと思うから魔力抑えてくれないかな?……“バルイルドさん”、あなた相当強いみたいだけど……脳の血管きれちゃうよ?」


「ぐうっ?!す、すでに私の名前まで……ククッ、確かにな……分かった。降伏しよう」


――正直助かった。


信じられん鑑定の精度…すでに私の情報は丸裸だ。

目の前の少年…測るのも烏滸がましいレベル。

まるで…


「……ありがとう。…でもね、僕は貴方の事が気に入ったんだ。だからやめない。真実を知るまで」


さらに高まっていく魔力。

(っ!?まだ上がるだと?……これは神、なのか?)


「………ふうん。“人質”、か」

「っ!?」


マヤイダと呼ばれる彼の集落。

そこに10日前に訪れていた悪魔の貴族。


魔王ギルイルド・レゾナルーダの側近の一人。

――魔将イスペリア。


「……魔王の事は知らないけど……イスペリア、ね。……コイツ『クズ』だな」

「っ!?……そ、そこまで?……君は、いや、あなた様は……いったい?」


バルイルドは既に抵抗する気はなくなっていた。


目の前の少年。

彼の言う事はすべて真実だった。


しかも誰一人知らないはずの魔王の名前まで……


そしてにやりと顔を歪めるライト。

まるで心臓を掴まれているかのような原初の恐怖を感じてしまう。


「ねえ、バルイルドさん。奥様と娘さん、それから集落の御婦人がたと子供たち。僕が助けるからさ、父上と同盟協定を結んでくれないかな」


「……ど、同盟協定?」


「うん。僕はさ、まあ隠してもアレなんで……転生者なんだよね。だから今僕は9歳だけど、恐ろしいほどの経験を積んでいるんだ」


驚愕してしまう。

転生者?


「だから色々な方法を知っているし、あなたが頷いてくれるのなら僕は今すぐにでもこの問題を解決してみせるよ?」


そう言い、ライトは朗らかな表情を浮かべていた。

(ひざまず)き目の前の絶対者を見上げる彼バルイルドは、すでに彼に惹かれ始めていた。



※※※※※



魔族は元々ヒューマンたちと暮らしていたんだよね。

彼らはヒューマン族の中では能力の高い種族なんだ。


温厚で、争いごとを好まない優しい彼等。

でも、やっぱり強すぎる力というのは軋轢を生じさせる。


まあ主に、彼らに劣るヒューマンの嫉妬心が原因なんだけど。


そんなこんなで今から数百年前。

彼らはヒューマンとの共存をあきらめてしまう。


『魔族狩り』というあまりにも愚かで、痛ましい事件が起きてしまった。


狙われたのは弱い子供と女性ばかり。


もし僕が居たらぶんなぐってやるんだけど。

はあ。


それと魔族の皆は多少の誤差はあるけど皆長生きする。

それもまた『怖かったんだろう』とは思う。


あと彼らは明らかに魔物寄りの姿をしている種族もいるからね。

魔物の血を引く一族もいるくらいだ。


だから弱いヒューマンが、暴走する事にも少しは理解できるけどさ。


でも…


実は今でもヒューマン社会で暮らしている魔族はいるんだ。

もっとも常に隠ぺいしているけど。


まったく。

本当にあほらしい話だと思うよ?


同じヒューマン族なんだからさ。

仲良く暮らせばいいじゃんね。


僕は世界を支配するつもりなんてこれっぽっちもない。


でももし僕の力の届く範囲でそういう理不尽な事が起こるのなら……


僕はそれを見て見ぬふりはしない。



※※※※※



僕は跪いているバルイルドさんの手を取り、彼を立たせ洞窟の外に出た。

そして年相応のあどけない表情で彼の瞳を見つめる。


「決まった?……うん。じゃあさ、一つだけ教えてくれる?」

「……ああ、何でも聞いてください」


「…魔王も“転生者”だよね」


「っ!?…………そう、聞きました」

「やっぱり」


あのクソジジイめ。

僕に何をさせたいんだ?


まあ、とりあえず今日のこれは解決させるけどね。


僕はおもむろにバルイルドさんの手を放し、魔力を練り上げる。

そしてすさまじい閃光が森一帯に広がった。



※※※※※



「ぐうっ?!……な、何を……はあっ?!!!!!」


全てを塗りつぶす濃厚な魔力。

まるで世界を包むように爆発的に広がるそれ。


閃光が消え、暗闇が戻ったとき………

目の前に愛する妻と娘が、目をぱちくりさせて佇んでいた。


「!?あ、あなたっ!!!」

「パパッ!!!」


「ああっ!?ミーナ、ノルム、ああっ、なんという奇跡!!」


抱擁する親子。

そしてその周りにはいまだ信じられないような表情で佇む多くの女性と子供たちがその様子に涙ぐんでいた。


「よしっ、じゃあ後は……」


その様子を満足げに見ていたライトさまは突然顔を歪ませ、ニヤリとしつつ魔力を噴き出した。


「イスペリアの話を聞きに行くか」


そして忽然と消える。


私はいつまでも、ライト様の消えた場所に向かい最敬礼をしていた。

目に涙を浮かべながら。


キラキラと輝く魔力の残滓――

それが今のこの幸運、夢でないことを証明していた。


闇夜に吹く冷たい風。

今はなぜか心地よく感じていたんだ。


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