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第138話 マイハルド王国に来た移民たちの想い2

降り注ぐ柔らかい日差しと吹き抜けるさわやかな風―――

初秋を迎えたマイハルド王国。


ハイネルド地方北方では積み重なっている巨石が陽の光を反射しキラキラと輝いていた。


額の汗をぬぐいながら、つい最近『従業員募集』に応募し仕事を得たドラゴニュートであるギニンスは大きく息を吐く。


「…さすがはドラゴニュートだな。すげえ力だ。…俺達の数倍は働いてくれる…給料上げるように監督に言っておくよ」

「ハハハ。嬉しいね。…オランデさんこそ…その技術、凄いじゃないか」


今、彼らはこの領の領主であるライト・ソガ・ガルデス大公爵の『水道工事事業団』の水資源確保のための土木工事に従事していた。


正直どの国でも水の確保は最重要案件だ。


でもこの国、と言うかこのハイネルド地方。

明らかに彼らの常識を凌駕する、徹底的に練られた工事工程となっていた。


見たことの無いゴーレムが休むことなく稼働し。

さらには班編成と言う、未だ聞いたことの無い従業員の編成。


そして最重要視されている『工事中における従業員の安全』


最初彼らは説明を聞いた時に『夢でも見ているのではないか』そう思ったものだ。

通常この世界における土木工事は命懸けだ。


そして重労働の割に安い給金。

そもそも犯罪人に対する罰の意味をも兼ねていた。


過酷な労働と劣悪な環境。

当然忌避すべき仕事だった。


しかし―――



※※※※※



「…それにしても。俺もいくつかの国に行ったことはあるが――ここまで従業員の事を考えてくれる場所は無かったよ」


「そうだな…何しろ寮?…あんなにすごい家に住んだことなかったしな。そのまま住みたいくらいだよ」


思わず手を止め、思いを躱す二人。

さらには作業時間ですらあり得ないくらいに短く、そして快適だった。


「…残業すらねえとはな…ははっ。しかも工期の進捗は順調と来てる。…まるで魔術に包まれたみたいだよ」


そんな時、二人の耳に声が届く。


『みなさーん!休憩時間です!作業をやめて、近くのラボに集合してください!!』


突然鳴り響く、抑揚のない音声。

『現場監督兼従業員の安全を守る武力』でもあるゴーレムが、愛嬌のある顔で一斉に声を上げていた。


「ふう。もうそんな時間か?」


首にかけていたタオルで汗をぬぐい、ギニンスは独り言ちる。


彼は以前いた自国で、冤罪を吹っ掛けられ国を捨てていた。

もともと亜人である彼等。

どうしてもそういう色眼鏡で見られ、迫害まがいに遭ってしまうことは良くあった。


そんな中、藁をもすがる気持ちで訪れたマイハルド王国。

最悪アウトローたちの用心棒でも致し方ないと考えていたのだが…


「おい、ギニンス。行こうぜ。…おっ?いい匂いだ。ヘヘッ。ここはおやつまで振舞ってくれるからな」


先ほど話していたオランデがにこりと笑い、ギニンスの肩に手を置く。


通常はあり得ない事だが。


この職場と言うか工事現場、一日の労働時間は7時間。

そして午前と午後には30分の休憩、お昼には1時間30分の昼休みまで設定されていた。


何より2日働けば1日休みを指定される。

ライトの通常の感覚、それはこの世界において明らかに異常だった。



※※※※※



「お疲れ様です。はい、おやつですよ。ギニンスさん体大きいですから、サービスです」


ラボに戻ると給仕係でやはり他国から移民で来ていた、魔族のセイレーナがにこやかに山もりのパンとちょっとした甘味をトレイに乗せて渡してくれる。


「ありがとう。…旨そうだ」

「はい。凄いですよね、ここで振舞われる料理。あっ、もし体に痛い所とかあったら言ってくださいね?ポーション類もたくさん用意してありますので」


にっこり笑うセイレーナ。

思わず顔を赤らめてしまう。


「うん?…ギニンスさん、顔赤いですよ?具合とか…」

「うあ、な、何でもない」


思わず揺れるしっぽ。

ドラゴニュートは純情のようだった(笑)。



※※※※※



ライトの指示。

それは従業員の安全とモチベーションの維持。


つまりは『働いていてよかった』と思ってもらう事だった。


なので至れり尽くせり。


正直ここで働いている者は皆労働に感謝をささげている状態だった。

なので効率はめちゃくちゃ良く。


既に工期については30%ほど前倒しで進んでいる状況だ。


ラボは清潔で、過剰なまでに整えられていた。

ゆっくりと休むことのできるリクライニングチェア。

そして魔石が付与されているのだろう、内部の温度は一定に保たれ非常に居心地がいい。


「ふう。…旨いな…ははっ…本当に信じられん…これが『土木工事の現場』か?…」


山と盛られたパンにかぶりつき、今まで飲んだこともないような旨い飲み物で流し込む。

何故か力が湧いてくる。

当然だがライト謹製の『栄養剤』だ。


「ところで…ギニンス、お前さん独り身なのか?」

「ああ。こんな『なり』だからな。以前の国では腫物扱いさ。…なかなか同族は少なくてな」


この世界においてドラゴニュートは希少種だ。

何より強力な種族、以前は戦争の請負人としての歴史があるくらいだ。

そして浮かぶ、かつてぶつけられた言葉。


『お前らみたいなバケモンは、戦うしか能がねえだろうが!!』


心を削られていた。

つい険しい表情を浮かべ、歯を食いしばってしまう。


「…ふーん。お前さんもいろいろあったみてえだな。…でもここじゃ誰もそんな目では見ないぞ?何よりそういう事には厳罰が課せられるからな。…本当にここの領主であるライト様は――神様みたいだよ」


オランデの言葉。

それを聞きギニンスは自分の表情が緩むことを自覚していた。


通常移民にはいくつかの傷があるのが通例だ。

きっと優しい言葉をくれたこの男も、過去があることだろう。


「おっと。そろそろ時間だな。午前中にはあの巨石まで行けそうだな」

「ああ。それにしてもあの作業用ゴーレム、凄くないか?」

「ははっ。ライト様渾身の錬成らしいぞ?…マジであの人は規格外だよ」


しっかりと休憩を取り、体調は万全。

短い時間とはいえそんな状況の労働力の皆。


まさに効率よく、工事は進んでいったんだ。



※※※※※



数日後。

事故もなくやがて工事は完璧に終了する。


「予定の工期はあと10日…もう終わっちまったな」

「ああ。でも…こんなに満足する仕事は初めてだよ…俺、涙が出そうだ」


「…離れたくねえな」

「…そうだな」


やり遂げた従業員たちの目には、満足そうな色が灯っていた。



※※※※※



ハイネルド地方領主館。

久し振りに訪れたライトは領主代行のルードリッヒと打ち合わせを行っていた。


「兄さん、例の工事、予定より早く終わったよ。…それにしてもあのゴーレム、本当にすごいね」

「まあね。この世界ではあまり見かけないかもだね。そもそもさ、あんな過酷な工事、人力だけなんて考えられないじゃん」


ライトの何気ない言葉。

一応この国出身のルードリッヒは思わずジト目を兄に向けていた。


「はあ。ティアリーナ様たちの苦労が分かる気がする…」

「うん?何か言った?」


「いえ…コホン。それでこの後の予定はどうするのですか?従業員の皆、まだまだ働きたいようですが…」


今回の募集、集まった移民の数はおよそ1,000人。

ライトはこの領の領民として迎える気満々だった。


「うん?皆“擬似ダンジョン”には潜ってもらったんだよね。性格も素性だって把握済みでしょ?ならルードの考えでいいよ。適材適所?まあ人は力だからね」


「はい。ではまた幾つかの事業、進めますね」


「そうだね。何より働くってことは生きている証拠だよ。正しい労働は幸福に直結するのさ。…ここはひとつルードのお手並み拝見と行きますかね」


ライトの何気ない一言。

ルードリッヒは心に刻む。


何よりも人を尊重するライトの想い。

ますます兄を尊敬していくルードなのであった。


「は、はい。お任せください」

「ん。任せた」


相変わらずライトはルードリッヒに丸投げだ。

でも。


ライトの凄い所は、必ずその事業に対し最適解を紡ぎだし…


何より従業員の安全と満足度を満たしていることだった。

そしてそれはライト自身が責任をもって行ってくれていた。


いつもの『うん?大したことじゃないよ。僕はチートだからね』


そう、言いながら。


(はあ。やっぱり兄さま凄い。…まだまだ全然敵わないや)


転移し消えていくライトを見やり、ルードリッヒは感嘆の声を漏らしていた。


格段の進化を遂げていくハイネルド地方。

やがてそれはマイハルド王国全土へと広がっていく。


既に救世主で変革者として認識されているライト。


そう思っていないのは彼自身のみだった。




本気でスローライフ、する気あるんですかね?




※※※※※



水資源確保の工事。

この実績は陛下の目に留まる。


そして今回の移民たち。


その功績が認められ、ハイネルド地方の居住権を与えられ―――


さらには『先駆者』として、王国各地での工事。

その監督者として活躍していくのであった。



ライトの“当たり前”。

それはまさに希望の光だったんだ。


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