第137話 マイハルド王国に来た移民たちの想い1
惑星ミラリルス。
この星には多くの住民が暮らしている。
特にマイハルド王国は僕の作った『擬似ダンジョン』の影響で移民が相当数増えていたんだ。
国民が増えるという事はすなわち国力の増加にもつながる。
でも、やはり問題もあるわけで。
何はともあれ。
その一人であるモニカはお店の制服を着こみ、目には希望の光をともし。
今日も大きな声であいさつをしていた。
「おはようございます…はい喜んで!」
「はい喜んで!」
※※※※※
擬似ダンジョン近くの食堂。
ライト渾身の『悪ふざけ』が浸透していた。
『どこかで聞いたような挨拶』を交わし、生き生きと働く従業員たち。
その様子はまさに希望にあふれていた。
※※※※※
この世界において確固たる働き口。
それを確保するのは至難の業だった。
基本は先人の伝手、ぶっちゃければ『紹介制』
新たに職を求める者にとってはかなり難しい状況だ。
何しろ様々な面で未熟な社会。
身元の分からないものを働かせれば、不要の懸念材料を持ち込む事と同意だからだ。
だからそれは仕方ないのだけれど。
当然だが労働は必須だ。
そうじゃないとすぐに犯罪に走っちゃうからね。
そんな中で、極端に人口が増えていく学園都市。
僕はそれらを“有効活用”することにしたんだ。
擬似ダンジョンを訪れる多くの冒険者や各国の実力者たち。
当然宿泊や食事の需要は爆上がり。
すでに学園都市周辺には200に届こうかと言う、新たな宿泊施設や食堂、酒場が新たにオープンしていたんだ。
もちろん監修は僕だよ?
なので少し『この世界の常識』からは逸脱していた。
…ティアにはまた“ヤレヤレ”みたいな顔されたけどね。
ハハハ。
そんなわけで。
僕は色々『面倒くさいしがらみ』を全部無視して従業員を募集したんだ。
もちろんだけどセーフティー面には万全を期している。
そう。
働くことを希望する人にはすべからく“擬似ダンジョン”に潜ってもらったんだよね。
アバターを作成するときに全てが分かる仕組みを構築してあることが、ここで物凄く有用に働いたんだ。
という訳で。
今新たに職に就いた、新規の住民およそ5,000名。
すでにそのすべての情報、陛下をはじめ宰相などこの国の重鎮、把握済み。
これほどの効率的な運用は他にはないだろう。
まさにグッジョブ。
僕は思わず自分をほめていたよ?
※※※※※
ところ変わり先ほどの食堂。
今日も冒険を終えた者達が、食事を求めお店を訪れていた。
「はあー。腹減った。…おーい、お姉ちゃん」
「はい喜んで!」
「っ!?……独特な返事だな…まずは酒と…この『Aセット』大盛りで頼む」
「はい!…すぐにご用意いたしますね!」
思わずいぶかしげな瞳を向ける、冒険者の男。
でも満面の笑みで働く女性を見て、なんだかほっこりとしてしまっていた。
「…『はい喜んで』??…でもなんだか嬉しくなっちまうね…旨い!」
取り敢えず先に出てきたエールみたいなメチャクチャうまい酒と、小魚?それを調理したつまみに舌鼓を打つ。
「なあ、リナード」
「あん?」
一緒に訪れていたカゾートが口を開く。
「…メチャクチャうまくないか?ここの酒とか料理」
「ああ。やべえな。マジで住みたくなっちまう」
「それにこの価格…マジで天国か?」
通常この世界の料理事情はお酒一杯銅貨5枚(日本円で500円)
さらに料理は大体銀貨1枚(同じく1,000円)程度だ。
でもこの食堂。
お酒3杯と料理5品(メインの定食とおつまみ4品)。
セットで銀貨3枚という、破格の値段設定で提供していた。
そして大盛りはサービスだ。
当然だがおつまみは店が決める。
すなわちロスのない設計、そして大量に仕込むことによる効率化。
まさに現代日本を経験していたライトの方針が、この世界にメチャクチャな衝撃を与えていた。
「お待たせしました~Aセットと追加のお料理です!!」
そんな中にこやかに料理を運んでくるモニカ。
思わず冒険者の顔が緩む。
「うおっ?…凄い量だな。…これって普通なのか?」
「はい。お客様は『大盛り』です。もちろん大盛りはサービスですよ?」
「マジか…ありがとうな」
「はい!喜んで!!…ごゆっくり」
さらにはその味。
ライトは今回、新たに開くお店全てに『経営方針』なる物をレクチャーしていた。
その中の根幹、料理の仕方と仕入れの方法。
まさに効率化、そして経験のない調味料の数々。
すでにダンジョン都市周辺の食事処の情報は、数多の冒険者や各国の有力者によってこの星全てに浸透していっていた。
結果―――
※※※※※
客足が落ち着き、大量の食器を洗い終わったモニカ達。
この食堂はいわゆる『酒場』ではないので、夜の8時には営業を終える。
「ふう。…今日もたくさんお客さん来たね」
額の汗をぬぐい、モニカは同僚のレイゼートへ声をかけた。
「ああ。それにしても…ここってマジで天国だよな…賄い?…メチャクチャうまいし、それに金とらねえとか…あり得ねえよな」
「うん。なんでもこのお店の実質的オーナーである大公爵様のライト様が『福利厚生』?とか言っていたらしいのよね」
「…福利厚生?…まあ、よくわからんが…でも、神様みたいな人だな」
この二人は他国から来た移民だ。
正直親戚などの伝手は無い。
だから来たは良いが…正直最初は途方に暮れていた。
そんな中。
町中に貼られていた『従業員募集』のビラを見て思わず固まってしまう。
彼女たちはすでに成人。
様々な経験を経ていた。
「…しかしあれだよな。今更だけど俺達みたいな保証人すらいない者を、よく雇ってくれるよな」
「うん。それにあの社宅?…しゃわー?私いまだに信じられないもん」
「…何でも『食堂で働くなら清潔感は重要』とか言われたしな。おかげで俺、女の子に声かけられたし?」
「ええー?本当ですか?」
つい弾む会話。
彼等は心の底から今の状況に満足していた。
初めはありえない事実に、騙されているんじゃないかと思ったものだ。
そして何故かいきなりダンジョンに潜らされ―――
あっという間に仕事が決まっていたんだ。
※※※※※
「お疲れさん…おっと…『はい喜んで』」
「…はい喜んで…お疲れ様です、店長」
片づけを終え、ほっと息を吐く二人に、ここの店長であるロイリルドが声をかけてきた。
この店には厨房が5か所ある。
そして従業員は全部で60名。
交代制で休憩まであるこの仕事。
さらにあり得ない事だが、実は2日働くと1日休みをもらえる仕組みになっていた。
「今日のお給料だ。いつもありがとうな」
「っ!?いえ、こちらこそ…あっと…『はい、喜んで!!』」
思わず涙ぐむモニカ。
今渡された一日分の給金。
実に大銀貨2枚。
日本円で2万円。
この世界の常識だとひと月働いてやっと金貨1枚(10万円)。
ありえない高給だった。
※※※※※
笑顔が溢れ、やる気を漲らせる新たに移民してきた人たち。
きっと彼らは後世に語り継ぐ。
『ここは天国だ。何よりちゃんと評価される。…俺達みたいな根無し草でも、成功できるんだ』
ますます評価されるライト。
当然だが彼はそんなこと望んでいないのだが。
ライトの目指すスローライフ。
間違いなくその方向性を間違えていることに、ライトは気づいていなかった。
もうその気、無いよね?
すでにライト大公爵は――多くの人の希望になっていたのだから。
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