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第10話 チートの申し子、ライトの戦力増強大作戦1

あれから2年の歳月が流れていた。


遠くで揺れる黄金色の麦畑。

晩夏のガルデス領は実りに包まれる。


7歳になりますます力を増した僕は、兵士の皆さんへの秘密特訓にいそしんでいた。


あと2年で僕は王都へ行く。

大切な場所、ガルデス辺境伯領。


万が一のことがあればきっと後悔するだろう。


備えあれば憂いなし。

王国最強くらいにはなってもらわないとね。



※※※※※



「ふうっ。こんなもんかな」


額の汗をぬぐう僕は、目の前でのびているうちの兵士たちの前でほっと息を吐きだした。


暑い夏。

今は昼下がりの午後3時。


最低限の体の使い方、それのレクチャーを終えたところだ。


「あー、休んでもいいんだけどさ、熱中症になったら困るから…みんな口開けてくれる?えっと、僕特性の栄養剤、今錬成するから…いきなり飲み込むと(むせ)ちゃうから、口は開けて喉は閉じてね?」


ライトの言葉。

そしてコポリとライトの手のひらからあふれ出すおどろしい色の液体――


消えかけている意識の中、小隊長であるマザルドは思わず嫌な予感に包まれた。


(…熱中症?なんだそれ?…それにあの液体?!…口を開けて…喉を閉じる?…そんなことできるのか…っ!?)


「げほっ、がはっ?!!」


言うが早く錬成するライト。

のびている兵士が一斉にむせて転げまわる。


「うん?だから言ったじゃん。…まあ、死にはしない?よね」


完全に気を失っていた兵士まで今の栄養剤で目を覚ます。

まあ皆、涙目ではあるが…


コホン。


何はともあれ皆さっきの鍛錬のダメージは抜けたようだったことに、僕はにっこり微笑んだ。


(…ヤバイ…ライト様…マジで鬼畜…しかも自覚ないとか?)


つい目配せをし頷く俺達。

ライト様の表情にますます嫌な予感に包まれる兵士の皆だった。



※※※※※



僕たち辺境伯一家が治めるガルデス領。

隣国と国境を接し、さらには広大な面積を誇る『ルアマナの森』と隣接している場所だ。


森には多くの魔物が生息しており、散発的な戦闘、それは常に発生している事だった。


当然そういう領地の兵士たち。

他の地域の者に比べ熟練度は高いのだけれど。


(うーん。でも僕から言わせると…全然力足りないんだよね。…装備とかも…)


この星には多くの魔物が生息している。

そして最近、魔物たちは強さを増していた。


(…何かが起こっている?…鎮圧は簡単だけど…僕の仕事、ではないんだよね…何より目立ちたくないし…何気にサルツさん、僕の動向、“監視している”しね)



「ライト様、お、終わりました」

「うん?どれどれ…」


そんなことを考えていた僕に、真っ先に小隊長であるマザルドさんが答案用紙を持ってきた。


今は夕刻の6時。

夕飯前に行っている一日の『振り返りのテスト』だ。


「…ねえマザルドさん?」

「っ!?は、はい」

「…どうしてここでこんな魔力構成するのさ。これじゃ自爆しちゃうでしょ?」


「え?…ああっ、本当だ…」

「まったく。…うん?…ああ、でも…他は満点だね…凄いや。この前まで全然理解してなかったのに」


実はこの世界の兵士の皆さん。

メチャクチャ“体育会系”だった。


理論や理屈、そういうものは取り敢えず棚に上げ、ひたすら肉体に覚え込ます。


まさに“努力と根性”。

思わず『昭和かっ?!!』と突っ込んだものだ。


だいたいからさ。

魔術を使うのに『気合いだ。気合いで炎を出せっ!!』とか言われても。


理論と魔力がなくちゃできるわけないじゃんね。


そういう訳で僕は今、父上の目を盗みながら昼間は訓練、夜は座学と。

少しずつではあるものの、兵士の皆さんの能力向上に努めていた。


何で秘密かって?

だって。


その方がカッコいいじゃんね。



※※※※※



俺は辺境伯領兵、近衛隊長マザルドだ。


ライト様からの指導。

既に1年くらい続くそれは、まさに俺たちにとって“青天の霹靂”だった。


恐ろしく効率化された訓練。

なによりストレッチ?

それにより俺たちの体の柔軟性?…驚くほど向上していた。


さらには体幹を鍛える?

無駄を省く足さばき?

効率の良い魔力の練り方?


未だかつて経験したことのない訓練方法。


最初俺たちは馬鹿にしていたんだ。


だってそうだろ?

普通訓練と言えば実戦形式の模擬戦が殆どだったんだ。


なのによくわからない体操や理論、さらには基礎訓練の数々。

そして夜には振り返り、と言う座学。


何人かは正直だらだらと行っていた。


『いくら領主の息子とはいえまだまだ子供。しょうがないから付き合ってやるか』

ってな。


でも。


そんな思いは最初の3日間で覆されたんだ。


俺達は正直エリートだ。

他の領と違い、常に危険にさらされている我がガルデス領。


弱ければ命なんて幾つあっても足りない。

だけどどうしたって能力の劣る者はいる。


つい1年前入隊したマルナと言う女の子。

彼女は非力なうえに、正直頭もよくなかった。


だから常に雑用をやらせていたのだが。

ライト様にものすごく怒られたんだ。


『ねえ。あなた達馬鹿なの?こんなに才能あふれる人に雑用とか。…これは鍛え直すしかないね』


そしてわずか3日後。

なんとそのマルナ、小隊の副長であるギラルダを俺達の目の前でぶちのめしていた。


マルナは小柄な少女。

まだたしか16歳だったはずだ。


「ふえー…えっと。大丈夫ですか?ギラルダ副長」

「ぐうう…」


まったく疲れた様子なく、魔力をたぎらせ掴みかかったギラルダを無力化して見せたマルナ。


非力なはずの少女が筋骨隆々、しかも第2位階までをも習得している大男をまさに瞬殺。


流れるような体裁きに、無駄のない魔力の構築。

余りの高いマルナのそのセンス。


戦慄。

それしか俺たちに表現できる言葉はなかった。


それからだ。

俺達は真剣に取り組みだしたんだ。


ライト様の訓練は、常に達成できるぎりぎりを目指すものだった。


何よりわかりやすく、そして安全第一。

あれから俺達、ほとんど怪我とかしなくなっていた。


まあ。

今日みたいに悶絶することは数えきれないけどな…

ハハ、ハ。


何はともあれ俺たちは、1年前とは比べ物にならないくらい強くなっていた。

何より恐ろしいのは…


『レベル自体は全く上がっていないにもかかわらず』、だ。


体裁きに魔力構築の速さ。

目に見えて向上したそれに、戦慄したものだ。


そしてライト様の指導、それは遂に次のステージへと進んでいく。


沸き上がる高揚感。

成長の証。



それは俺たちの誇り、そのものだった。

我が領地には、“神”がいる。


それは俺たちに、とんでもない安心感をもたらしていたんだ。


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