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第106話 帰郷と引き抜き

セミの鳴き声がうるさい今日この頃。

南方、闇の女神攻略まであと数日に迫った今。


遂に発売を果たした僕の作成した化粧品ブランド『ソガルティ』


空前絶後の人気を博し、当初作ってあった在庫はあっという間に売り切れてしまっていた。

現在すでに予約は2か月待ち。


女性の美容への執念、恐るべし!


そんなわけで。


僕は他に影響しない範囲、つまり世界を包む魔力結界や、外敵への警戒など。


かなりの魔力を使いゴーレム軍団を召還。

不眠不休の24時間体制での製造に追われていた。


当然だが既に仕組みを構築済み。

今はこの星の魔力を巡回させ、ほぼ自動で製造できるようにはしておいたけどね。


僕は別に化粧品を作ることに対してそこまでの情熱はない。

あくまで目指す『スローライフ』のための足掛かり。


まあ。

僕の化粧品で笑顔が増えるのは…悪くないのだけれどね。




どうにか永続的に収入を得る算段が付いたことに、僕は顔を緩ませていたんだ。



※※※※※



「ライト様、よろしいでしょうか」


一段落し、リビングで寛いでいた僕。

突然ゲネスさんが声をかけてきた。


「はい。どうしましたゲネスさん」

「お寛ぎのところ申し訳ありません。実は…もうこの宮殿内部の工房と言うか製造ライン?限界ぎりぎりでございます」


あー。

確かにね。


余りの売れ行きで嬉しい悲鳴を上げている僕の化粧品ブランドだけど。

すでに製造ラインはパンク状態だ。


いくら広いビザイド宮だとしても、元々宮殿。

当たり前だがそう言う形状での利用、想定などしているわけがない。


すでに通常は夜会などを開くホールにまで、ゴーレムがうろついている状況だった。


「…以前お話しされていた、ライト様の領地であるハイネルド地方への移転、めどは立ったのでしょうか」


僕が割譲された広大な領地、ハイネルド地方。

今では正義の男『カイザルドさん』に丸投げしてある状況だった。


「うん。確かにそうだよね…一度暇を出した元々の従業員たちも現在フル稼働…これは新たに従業員の募集もしたいし。…何より場所がもうないもんね」


大公爵と言う立場。

今まで夜会など行ってはいないけど。


一応貴族社会の頂点。

そう言う事にだって意識を向けなくてはならない。


「ありがとうゲネスさん。少し考えるよ」

「…申し訳ありません。よろしくお願いいたします」


恭しく礼をとり部屋を後にするゲネスさんを見やり、僕は頭の中でプランを練り始めた。

まあすでに計画の原案は出来ているのだけれどね。


(…管理する人材が欲しい。…あとは指導者も…一度ガルデス領に行って父上に打診する必要があるね)


独り言ち僕は新たに構築した『家族内限定での念話』をとばす。

どうせ行くのなら、キャルン姉様も連れて行こう。



※※※※※



「かまわぬぞ。因みに誰がいいんだ?」


あの後すぐに僕は姉さまとティアリーナを伴い、ガルデス辺境伯である父上と会談を行っているのだけれど。


さすがは父上。

念話での情報をもとに、すでに僕の“思惑”を理解してくれていた。


「ありがとうございます。まずは領主代理としての人材と部隊を指導できる人。後はハイネルド地方の指揮官候補ですかね」


取り敢えず今はカイザルドさんが張り切っているので大きな問題はないのだけれど。

僕の化粧品ブランドである『ソガルティ』の拠点を移すとなるとかなりの準備が必要になってしまう。


この世界、結構治安が悪いと言うか…

他人の功績を横取りしようと考える者は多くいるのが現実だ。

宮殿の警備状況はこの星最高峰だけど、


今のあのハイネルド地方。

そのまま行ってしまえば多くの騒動が起こるのは必然だろう。


そんな話を父上の隣で聞いていた弟のルードリッヒがおそるおそる僕に声をかけてきた。


「兄さま。それ、僕が行ってもいいですかね」

「えっ?ルードが?…それは願ってもないけど…ガルデス領はどうするのさ」


うちの弟であるルードリッヒ。

身内目線を外してもとんでもなく優秀だ。


来てくれれば多くの問題は解決するのだけれど。


「ふむ。それは良いな。ルードにもいい経験になるだろう」

「えっと。父上、よろしいのでしょうか?」


父上はにっこり微笑み、僕とルードに視線を向ける。


「俺とてまだまだ現役だ。何よりルードは賢いし度胸もある。足りないのは経験だけだ。むしろこの機会、生かさない手はないだろ?」


最高だ。

ルードリッヒなら僕のチートのことも知っているし何より今の僕たちは『念話での会話』ができる。


情報の交換や指示など、ほぼタイムラグなしで進めることができる。


「それとな。ヒャルマを連れて行ってやれ」

「え?ヒャルマ先生ですか」

「ああ。お前な。少しは構ってやれ。あいつだってもういい年だ。本来なら子供をもうけてもいい年だぞ?何よりお前にベタ惚れ。あてにしてやれば喜ぶだろう」


確かにヒャルマ先生と顔を合わせる機会は少ない。

彼女だって僕の婚約者。


出来ればなるべく顔を見たいし、一緒に行動するのも楽しそうだ。


「ありがとうございます。それと…小隊長補佐のマルナを連れて行きたいです」

「ふむ。マルナか。確かに彼女は優秀だ…お前、また婚約者増やす気か?」

「ち、違います。…でも彼女は才能の塊です。部隊長として任せたいです」


かつては雑用を任されていたマルナ。

今では才能が開花し、小隊の副隊長を任されるまでになっている可愛らしい女の子だ。


何はともあれ優秀な3名を僕の領地であるハイネルド地方へと連れていくことに父上の承諾を得る事が出来た。


ならば。


僕は父上との会談後、屋敷の一角をもらいそこに転移ゲートを作成することにした。

これなら遠く離れたあの領地との行き来が出来る。

ついでにビザイド宮も繋いでおこう。


何より既に僕とキャルン姉さまがいない状況。

ルードリッヒまで居なくなってしまうとお母様がとんでもなく悲しむ未来しか見えない。


僕にはそれは耐えられそうもなかった。


僕から吹き上がる凄まじい魔力。

空間が軋みを上げ、音を立て次元の扉が開き始める。


(くうっ?!…これを…安定…うぐっ?!…)


さすがに遠く離れている場所との『物質を伴う空間の歪曲と接続』

――さらには条件の設定。


構築が終了したときには僕は既に歩くことすら困難な状況になっていた。

魔力とダンジョンポイント。


かつてない規模での消費に、僕は驚いたものだ。


「はあ、はあはあ…さすがに……きつい」


構築できた転移門。

その前で僕は大の字になり天を見上げていた。


突然僕を包み込む、柔らかく優しい感触。


「ふむ。私の旦那様はやはり規格外だな…ライト、会いたかったぞ」

「…ヒャルマ先生…」


目を潤ませ僕をのぞき込むヒャルマ先生。

相変わらず美しく、そして可愛い。


「ライト…ああ、可愛いなお前は」

「ハハ、ハ。…可愛いのはヒャルマ先生ですよ…」

「なっ?!…まったく。お前は本当に人たらしだな」


抱きしめあう僕とヒャルマ先生。

少し離れたところからとんでもない圧を纏う視線を感じるけど…


(ぐうっ?…この魔力、ティアと姉さま?……でも…)


たまにしか会えない僕の婚約者。

このくらいは認めてほしい。


…それにしても。

ヒャルマ先生…柔らかくていい匂いで…


僕は一部が反応してしまい、しばらく動けなかった。


「ふふ…食べちゃおうかな♡」

「あうっ?!」


えっと。

貴方未経験ですよね?


何でそんなに…あうっ♡


久しぶりの再会と抱擁。

慌てて止めに入ったティアリーナと姉さまによって僕の純潔は守られた(笑)



※※※※※



何はともあれこれで準備は整った。


なぜかカイザルドさん、マルナを見て挙動不審になっていたけど。

マルナもまんざらでもない様子?


コホン。


僕は自由恋愛は止めないよ?

色々と頑張ってほしいものだ。


さて。

いよいよ異星の神でもある闇の女神。


これで懸念は消えた。



首を洗って待っていてね。


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