第105話 旋風を巻き起こす『ソガルティ化粧品』
学園が夏季の長期休みに入ってすぐ。
僕はもう一度ティアリーナを含めた大切な婚約者たちとしっかり話し合いを行っていた。
まずは“この世界の今の状況”の確認。
一か月後に闇の女神を凋落する事。
そして全員を連れて行く事。
皆が緊張した様子で頷き、僕はほっと息を吐く。
ココナとシャルル、そしてキャルン姉さまとリュイネが紅茶の準備をしてくれて、改めて本題に入ったのだけれど…
僕の“普通”――“異常”であることが確認されたんだ。
※※※※※
化粧品は既にこの世界では当たり前のように流通していた。
そして当然女性たちにとって欠かせないものになっている。
しかし。
非常に品質が悪く、さらには高額だ。
種類も驚くほど少なく。
何より“肌を守る”という概念が欠如。
多くの女性が肌の痛みに悩んでいる状況だった。
そしてお風呂と言うか“湯あみ”の状況。
王侯貴族くらいしかその設備自体がないのが現実だった。
通常の場合はタライなどにお湯を貯め、タオルで拭くのが関の山。
今の時期のような夏場などは、川などでの水浴びをするが。
そうでない季節については“その程度のケア”しかできないのが当たり前だった。
当然そうなれば体臭と言うか匂いが気になってしまう。
なのでこの世界では『香料』なるもので誤魔化しているものが多い。
正直僕には考えられないが。
そういう訳で実は結構前に簡単にシャワーが使える魔道具を僕は開発済み。
今ではそこそこ裕福な平民まで使える状況だ。
すれ違う人が臭いとか。
ちょっと嫌だったからね。
とはいえ元々『毎日湯あみを行う習慣』のない世界だ。
改善はされたものの、多くは以前より回数が増えた――そういう認識だった。
という訳で。
当たり前のように流通している『灰と油で作られた少し匂う石鹸もどき』が主流の世界。
その分野に着目する者がいないというのが現実だったんだ。
そんな中、ほぼ毎日湯船につかりしっかりとした僕開発の石鹸類やシャンプーなどを使用している僕の婚約者たち。
明らかに見た目も香りも群を抜いて魅力的になっていた。
※※※※※
「やっと現実を直視されたのですね…ティアは嬉しいです」
僕の説明に涙を流すティア。
そして頷く僕の婚約者たち。
えっと。
うん。
そんな中今回の開発と言うか作成した商品。
とことん追求し、まさに『アーティーファクト』と呼ばれるほどの高品質の化粧品については僕の婚約者と母上、そして献上した王族のみと言う縛りが発生した。
――きっと世界がひっくり返る。
そう言われ僕は約束されてしまっていたんだ。
という訳で一般に流通させるのは。
どうにか彼女たちの使う化粧品の『約30%の効果』を発揮する製品と言う事に落ち着いていた。
ブランド名『ソガルティ』
僕の家名をもじった名前だ。
ラインナップは。
・シャンプー(香りは3種類)
・コンディショナー(同じく3種類)
・ボディーソープ(香り自体は2種類だが、乾燥肌などの対策済み)
・基礎化粧水(日焼け止め成分入りもあります)
・乳液
の5種類。
当然グレードについてはいくつか用意しました。
お金のある貴族たちが“平民と同じ”では納得しないからね。
くだらないとは思うけど、これは必要な施策だったりする。
そう言う人向けには『ソガルティ・プレミアム』として“50%効果”の物を用意いたしました。もちろん価格については3倍でございます。
なにより最近僕の作った化粧品を使い始めた大切な婚約者たち。
元々すっごく可愛いのに、最近肌の透明感が半端ない。
さらには香る心ひく香り。
僕はすれ違うだけでドキドキしてしまうくらいだった。
そして。
当然だがその化粧品をした僕の婚約者たち。
様々な機会であちらこちらに出向くのだが…
騒動が巻き起こっていた。
※※※※※
「ふんふふーん♡…ライトの作った化粧水…もうお肌プルプルで最高♡」
いつものように魔術研究のため、魔術院を訪れたニニャ。
彼女の研究室は実は魔術院の最奥だ。
彼女が歩き、すれ違う男性たち。
全員が顔を赤らめ、数人は蹲っていた。
(…ヤバイ…ニニャさま…なんという心惹くいい香り…はあはあはあ♡)
当然ニニャは絶世の美少女。
皆が憧れの視線を向けていたのだが…
ライト大公爵の婚約者であることを知っている皆。
当然不埒なことなど考えてはいなかった。
しかし。
男性の本能を刺激してしまう魅惑的なニニャの発する匂い。
さらにはマシマシになっている美貌。
『死んでもいいから…ニニャ様に触れたい』
そう言う想いが吹き上がり始めていた。
(…あれ?…男の人達の視線…なんかやばい?)
さすがに気づいたニニャは、自身の胸を隠すように自らをそっと抱きしめた。
「おはようございます。ニニャ様」
「う、うん。おはよう…サーシャ」
そんなタイミング。
ニニャの専属助手のスワネイド伯爵家の長女サーシャが小走りに近づき、挨拶をする。
目がギラギラしている?
なぜかその様子にニニャの危機感知が仕事を始めた。
「…スンスン…はあ♡とっても良い香りですわ…ニニャ様?」
そして怪しく光るサーシャの瞳。
ますます近づき、そっとニニャの髪の毛に触れる。
「ふわー♡はあはあはあ♡…なんて柔らかく…さらさら♡…ニニャ様…どうされたのですか?…もしかして…新しい魔術とか?」
「うあ、えっ、えっと…」
一応化粧品『ソガルティ』の正式発表はまだだ。
でも『試供品』なる物を、ニニャを始め婚約者たちは預かっていた。
それを思い出したニニャ。
おもむろに小さい小瓶をサーシャに差し出した。
「あ、あの。ライト様が新たに開発された試供品?です。…良かったら…」
「ありがとうございますっ!!」
そんでもない圧を伴い、まるでひったくる勢いで小瓶を確保するサーシャ。
「コホン。…髪を洗うときに普段使用している石鹸と比較してみてね?…使ったら教えてくださる?」
一応言われていたテンプレのセリフ。
どうにか伝えたニニャは、ほっと息を吐きだした。
「……あれ?」
「…な、なにかしら」
そして今度は至近距離でニニャの肌をガン見するサーシャ。
「なんか…ニニャ様?…いつもよりお肌がとってもプルプル…もしかして…」
「ハハハ、ハ…」
そしてその様子を見ていた他の女性たち。
全員が集まり、まるでハイエナのように目をぎらつかせ…
質問の嵐が吹き荒れた。
結果として。
この日研究は全く進むことは無かった。
※※※※※
「良いな。今言った通りじゃ。近いうちに南方へ攻め込む事となる。部隊を編成し移動を始めよ」
「はっ。御意に」
魔王城謁見の間。
魔王ギルイルド、ルイは魔将の前で指示をとばしていた。
ライトから聞いた南にいるであろう闇の女神。
その凋落の為、周辺にいるはずの異星の生物の制圧――
それをルイはライトに任されていた。
最終的に主力部隊はライトの転移魔術で行く。
しかしいくらライトとはいえ、数百人規模の“レギオン転移魔術”については消耗が激しい。
ヒューマンよりも頑丈で継戦能力の高い悪魔たちの出番だ。
おおむね指示を出し、ほっと息をつくルイ。
多くの魔将が指示を受け慌しく動き出す中、何故か魔将の一人であるリャンニーナがジト目を魔王に向けていた。
「…ん?どうしたリャンニーナ。…何か不備か?」
「はっ…い、いえ…その」
そしてなぜかジト目はルイの隣にいるルザーラナにまで向けられる。
不思議に思ったルザーラナがリャンニーナに問いかけた。
「ニーナちゃんどうしたの?うちの顔に何かついてる?」
「コホン。あのルザーラナ…何か魔術でも展開しているのか?その割に魔力を感じぬが…」
「魔術?…うん?なんの事?」
ピカピカお肌につやつやな髪の毛をこれでもかと主張している今のルイとルザーラナ。
ますます同じ女性であるリャンニーナのジト目が圧を増す。
「…魔王様」
「なんだ」
「不敬を承知で…なぜそのように…お美しい髪と肌なのでしょうか」
まさに不敬。
絶対者に対する見た目への指摘。
周囲に残る多くの悪魔の背中に嫌な汗が流れた。
「ふむ」
突然変わる魔王の纏う魔力。
リャンニーナは死を覚悟した。
いきなり玉座を立ち、リャンニーナに近づく魔王ルイ。
リャンニーナの美しい髪をさらりと掬う。
「ふむ。傷んでおるな…どれ」
そう言いストレージのスキルを発動するルイ。
幾つかの小瓶を取り出しリャンニーナに手渡した。
「これより極秘事項じゃ。リャンニーナとルザーラナ以外は退去せよ」
「はっ」
「承知」
そして謁見の間に残った3人。
ルイは魔王の雰囲気を霧散させ、リャンニーナに話しかける。
「ふっふー♡やっぱり分かっちゃう?凄いでしょこの髪と肌」
ほっと息を吐き出すリャンニーナ。
これはつまり“いつものルイ”だ。
「はあ。肝が冷えましたよルイ様。…私を恐怖で殺すおつもりですか?」
「んーごめんね?…ねえねえ、これ使ってみて。特別品だよ♡」
「あールイちゃん。だめじゃん。それうち達専用でしょ?」
今ルイが手渡したもの。
それはまさに彼女達専用、つまりはライトのチートの詰まった化粧品だ。
「あっ?!そ、そうだった…えっと…」
すでに自分のストレージに収納したリャンニーナ。
ぜったいに返さないと魔力で自身をガードしている。
さらには涙目。
思わずルイは大きくため息をついていた。
「…ねえ」
「は、はい」
「内緒だよ?ボクが怒られちゃうから」
※※※※※
こうしてリャンニーナの美貌が爆発、メチャクチャ多くの悪魔から求婚を受けることになるのだが。
それは別のお話。
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