第102話 ライトに愛され、そして愛されたい女の心情3
あとわずかにせまったミラリルスの命運を分ける決戦。
女神城を感知し、覚悟の決まったヴィエレッタ。
一人過去と現在を想い、そっと目を閉じていた。
それは悲しくつらい過去。
でもだからこそ、今の彼女は強くなった。
「…愛してる…あたし……ライトが好き…」
甦る夫婦だった以前の世界の情景が、彼女を包み込む――
◆ヴィエレッタの心情◆
「子を産め…それがおまえの唯一の価値だ」
「…はい」
本来なら心ときめかせ、愛する夫の体温を感じられる喜びの時間。
事後の夫婦の寝室。
つい今さっき、まるで『義務のような性交』を終えたライト様は私に振り向くことなく部屋を後にされた。
ライト様はお美しく強大な力を所持する絶対者だ。
この国の王女であるわたくしなど、まさにちり芥。
比べることすら烏滸がましい。
それでも抱かれ、子を得ることを許された。
本来ありえない幸福。
でも。
わたくしの瞳からはとめどない涙が流れてしまう。
脳裏によぎる知らない記憶。
――彼が温かい笑顔でわたくしを包み込む情景。
お優しい手が私の頬を包み込み、慈愛の瞳を向けてくれる…
絶対に体験できないはずのそんな心を溶かす情景。
そして“あたし”は。
ライト様のお子様を二人身籠る幸せを得た。
※※※※※
「…ヴィエレッタ…辛いか」
「…いえ…わたくしは…幸せでした」
「…すまん」
あれから50年。
わたくしはすでに67歳。
病に倒れ最期の時を迎えようとしていた。
ついに一度も仰ってくださらなかった『愛している』と言う言葉。
でも。
所どころに見え隠れする気遣い。
何故か躊躇する気持ちを含むその行為。
わたくしは。
あたしは。
もう一度この方に会いたい。
死んでも。
存在が無くなっても。
心の底から願う。
「…愛しています…ライト様………」
「……すまん…ヴィエレッタ…ヴィレ」
あたしの命は潰えた………
※※※※※
白く輝く不思議な場所。
あたしは一人、見たことの無いローブのような物を纏い佇んでいた。
「……ヴィエレッタよ」
「……あなたは…どうして私の名前を…」
目の前にいきなり出現する存在。
魂が震える。
分かる。
この方は…
「…すまぬ…原因はわしなのじゃ…ライトを…奴を…恨まないでほしい」
ああ。
どうして…
きっとこの方は超常の存在。
それがあたしごときに頭を下げる…
何故か怒りが心から吹き上がる。
「……っかった…」
「……」
「愛されたかった…ライト様に…うう、うああ…ヒック…グスッ……」
涙があふれ出し止まらない。
悔しい…悔しい…
悔しい…
大好きなライト様…
思えば初めてお会いした時から彼には感情がなかった。
「…ふむ。…強い願いじゃ…じゃが…っ!?うん?…(あやつのアシスト…そして楔)……」
泣き崩れる私の前の絶対者から戸惑う魔力があふれ出す。
そして…
「…もう一度会いたいか…ライトに」
「っ!?会いたい…愛されたい!」
「ふむ。……ならばその機会、“謝罪代わり”にお前に与えよう」
光に包まれるあたし。
そして膨大な知識が流入を始める。
「…すまぬ。運命をいじることは禁忌なのじゃ。じゃからワシは手伝いしかできぬ…運が良ければ数千年後、再びまみえようぞ――それでよいな?」
「はい。可能性があるのなら…あたしはいつまでも…ライト様を待ちます」
「ふむ。…ならば行くといい…会えることを願う…ハアアッ!!!」
手にしている杖をかざすその絶対者。
あたしは遠い星。
ミラリルスと言う惑星で、ダンジョンコアとしてヴィエレッタの記憶を封じられ長き時間存在していた。
そして4000年後。
あたしは遂にライト様と出会う。
「会いたかった…愛している…ヴィエレッタ」
魂が震える歓喜。
ああ。
あたしは遂に。
ライト様に愛される権利を獲得した。
そして。
明かされるライト様の気の遠くなるほどの長きにわたる地獄。
さらには“とことん愛されていた”事実。
喜びと悔しさ。
本当にあたしは思う。
『あのクソじじい』
ライト様が苦々しく…だけどなぜか親愛の気持ちを向ける創世神。
あたしも一緒にぶっ飛ばそう。
そう心に誓っていたんだ。
暖かいライト様の胸に抱かれて。
あたしはヴィエレッタ。
ヴィエレッタ・ソガ・ガルデス。
ライト様の妻だ。
※※※※※
――そして、彼女と同じく、もう一人の“愛されたかった女”もまた運命を動かされていた。
※※※※※
「ふん…こんなものかのう…」
ライトに任されているダンジョンマスターとしての仕事。
一区切りついた我はふと以前の事に意識を向ける。
「フフッ。因果なものよ…我がこんなにも…心惹かれるとはのう…」
原因はあの創世神。
きっと幾つかの策略。
「…ふん。乗せられてやるとするか。…何より我はもう…ライトの虜じゃ」
◆ミリの心情◆
目の前にうつる運転している情景。
そこに混ざってくる夢。
「…はっ?!…危ない…事故りそう…ひぅっ?!!」
すでに貫徹3日目。
私“森美幸”は、どうにか完成した資料を取引先に届けるところだ。
「…はあはあはあ…マジで死ぬ…事故らなくても…寝不足で死ぬ」
うちの会社は正直とんでもなくブラックだ。
週休二日?
フレックス?
なにそれ美味しいの?
――すでにいつ休んだのか、私の記憶には無い。
どうにか資料を届け、私はコンビニの駐車場に車を止め。
何本目になるか分からない栄養剤とブラックコーヒーを流し込んでいた。
就職し2年目。
24歳の私は、せっかくの女ざかりを仕事と言うか激務に捧げてしまっていた。
「…はあ。…辞めたい…と言うか寝たい」
零れる願望。
そして。
私はその帰り道、一瞬意識が途切れ――高架から車ごと転落。
24歳という若さで恋愛すら経験することなく生涯を閉じた。
(…一度くらい…心ときめく恋愛…したかったな……)
そんなことを思いながら――
※※※※※
気付いた時。
恐らく死の瞬間まであった窒息する苦しさと、体の潰れた痛み。
それはさっぱりなくなっていた。
何より頭痛とともにあったあの倦怠感。
そして睡魔。
私はここ2年で初めて清々しい気持ちで目を覚ましていたんだ。
「ほう?お主、強い魂じゃな。…ふむ。森美幸…24歳…うぬ?処女じゃな?」
「はうっ?!…な、な、なに言って…」
突然問いかけられ、顔を赤くしてしまう。
ていうか何このおじいちゃん。
いきなり“処女”とか?
「お主、今の状況分かっておるのか?」
「……えっと…私死んだのかな?」
「うむ。酷いもんじゃ…内臓は飛び出し体はぐちゃぐちゃ。さらにはお主、魚にくわれておったぞ」
「ひいっ?!」
えっと。
何故か脳裏によぎる身震いするような私の死んでいる状況。
身体が震え――涙が出てしまう。
「とまあそういう事じゃ。お主、もう一度人生をやってみんか?…まあ、普通ではないがの」
「…もう一度?…普通ではない?」
「うむ」
そう言い手にしている杖をかざすおじいちゃん。
私の脳裏に凄まじい濃度の情報が流入してくる。
「…っ!?くうっ…………ダンジョン…マスター?」
「ふむ。どうじゃ?お主の“今までの業務”に比べれば天国じゃぞ?ダンジョンポイントを稼げば何でもできるしの」
すでに情報を得た私。
このおじいちゃんの言っている事、おそらく事実だ。
「…ちなみにですけど…」
「なんじゃ?」
「…断ったら…私――どうなるんですか?」
「輪廻転生じゃな。記憶は失われ新たな生となり繰り返す。森美幸と言う存在は永遠に失われる…いわゆる死じゃ」
……うん。
まあそうだよね。
でも…
ダンジョンマスター?
それってゲームとかの…
ワクワクしてしまっていた私は。
創世神ファナンガスの策略に嵌められたんだ。
※※※※※
そして4000年と言う長い年月。
私は遂に新たな人生を手に入れた。
横で可愛く笑うライト。
我の、いや…
私の旦那様だ。
可愛い♡
…ああ。
我は今――ときめく恋愛をその手にしていたんだ。
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