6才 7月②
準備を終えて戻ってきた2人と合流した。
ケインは父上のお抱え兵士からのお下がりの剣を持ち、ロビンは母様にあつらえてもらったロッドを携帯している。
私は誕生日の日に父上から貰った剣を腰にさしている。
「ゴブリン退治よりも剣を持ち出すことの方が苦労だったかもしれないな。母上とリアの目を盗んで長物を持ち出すのは骨が折れたよ」
「おい!ゴブリン退治の前に骨折とかシャレになんねーって!」
「いやそういうんじゃなくて、慣用句」
バカなやり取りをしつつも、ケインは緊張しているようだ。
ロビンもロッドをギュッと両手で握りしめている。
初めてのモンスター退治に臨むワクワク感と、これから命のやり取りをするかも知れない緊張感が、2人を落ち着かなくさせているのだろう。
ここはひとつ、大人として彼らの緊張感を少しほぐしてやる必要がありそうだ。
「よっぽどうまくやらない限り、大人にバレて怒られるから2人とも覚悟しておけよ。私はゴブリンよりも父上と母上の方が怖い」
ケインとロビンはお互い顔を見つめあって、確かにと頷いた。
森に入り、私は【気配探知】のスキルを発動した。
魔力を薄く長く拡げる事で、魔力に触れた物の気配を感じ取ることが出来る。
ハンタ◯ハンタ◯で言うところ円みたいなものだろう。私を中心とした半径20m(つーかこれが限界)くらいなら、その生物の形くらいは感じられる。
魔法を扱う事にはあまり長けなかった私だが、なぜか魔力を拡げたり他人の魔力の動きを感じることには長けていた。
母上がその事に気付き、どうせなら得意を伸ばした方が良いということで魔力感知の訓練を重点的に行った結果、このようなスキルが発現したのだ。
といっても特にレアなスキルというわけでもないらしい。
冒険者の10人に1人くらいは使えるらしく、主に斥候役に重宝されるスキルとのことだ。
ギルドマスターになった際には、何かの手違いで命を狙われることもあるかもしれないし、自分の身を守ることが出来るスキルはあって困ることはないだろう。
森の中で20m先まで気配が感じられれば、よほど迂闊に行動しない限りはモンスターに奇襲されることもないだろう。バックアタック回避みたいなものだ。
森に入って1kmほど歩いただろうか。
子供の歩幅で警戒しながら歩いたこともありすでに1時間近くが経過していた。
前方に開けた空間があり、そこに気配探知が反応した。
2人に止まって身を隠すようジェスチャーし、感知したものを物陰から目視した。
…ゴブリンだ。
我々と同じくらいの身長で、やたらと鼻の長い小人の風体である。
しかし人間と決定的に違うのが耳まで裂けた口で、人間のそれよりも沢山ある鋭そうな歯が、彼らが肉食性であることを物語っている。
右手には木の棍棒を持ち、鼻をヒクヒクと動かしながらあたりの様子をキョロキョロと見渡している。
2人がゴクリと唾を飲む。
作戦通りにやるぞ、とアイコンタクトを送った。