5才 5月
5月を迎え、私は5才となった。
「誕生日おめでとう!ショウ!」
食卓の上には普段よりも豪華な食事が並んでいる。
父は笑顔で私にグラスをむけながら祝辞を発した。
「ありがとうございます。父上」
父にぶどうジュースの入ったグラスをむけ、私は笑顔で応えた。
前世では早くして両親を失くした私だったが、やはり家族に誕生日を祝われるのは嬉しいものだ。
精神こそ中年男性ではあるが、身体は5才のためか昨日の夜はワクワクして中々寝付けなかった。
正月や誕生日、クリスマスなどをいまかいまかと待ちわびていたあの頃に戻ったようで、どこかこそばゆいような感じだ。
「さあ、ショウ。腕によりをかけたのだから冷めないうち食べてね!」
母が腕まくりをしながら私に微笑みかけた。
「ありがとうございます。いただきます!母上」
私は早速メインディッシュであるダックスの丸焼きに手をつけた。
貴族らしくナイフとフォークで食べる。
前世では箸しか使わなかったが、今ではナイフフォークで食事するのがお手のものとなっていた。
ちなみにダックスとは鳥のモンスターの名前だ。
この世界ではモンスターも食用になるものが多い。
普通の動物よりも魔力が高いらしく、それらは肉体的に強く中には魔法のような現象も起こすらしい。
魔法とは人間が計算して行う事象らしく、モンスターが使うものとは厳密に言えば違うらしい。
そしてモンスターの肉は基本的に硬くて食べれたものではないのだが、このダックスは柔らかい肉の為食用に適しており、普通の鳥よりもはるかに美味い。
おそらく魔力が影響しているだろう。詳しいことはよくわからない。
貴族はこのような魔力が多く含まれた食物を摂取することが出来るため強い魔力を持つことが多い。
しかし私はといえば並も並で、我が領地の村長たちと同じくらいの魔力量なのだそうだ。
とはいえダックスの肉は大好物である。
3才の誕生日から毎年欠かさず食卓にあがるそのメインディッシュを、私は貴族にあるまじき食い意地で平らげていった。
「今日はショウにプレゼントがあるんだ」
あらかた片付いた食卓の上に、父は布に包まれた細長い何かを置いた。
「開けてみるといい」
私は包みを手に取る。
ずっしりと重い。
あぁ…これ絶対剣だ…
布を剥がすと、予想通り剣だった。
柄も合わせて80センチほどの鞘に入った小ぶりな剣で、現代でもアニメや漫画でしか見たことがないがショートソードと言われるものだろう。
特に意匠が施されている訳でもない、ありきたりなものだが、新品でありほんのりと油の似合いがした。
別に戦いに興味があるわけでもない。モンスター討伐をしたいと思ったこともないし、極力のどかに暮らしていきたいと思っていた私だが、剣を手に取った瞬間鼓動が早くなる。
中2心が踊る!
大人になるにつれ少しずつ薄れていったその心が猛る。男の子はいつまで経っても男の子だ。(現に今は5才の男の子なのだが…)
「ち、父上…!抜いてみてもよろしいでしょうか…!?」
目を輝かせる私に対し、父も嬉しそうにうんうんと頷いている。
年齢の割に子供らしくない私が、剣を前にしてワクワクしている様子に
ああ、こいつもやはり男の子だな…
などと安心しているのであろう。
剣を鞘から抜こうとした私に対し、母が
「室内で抜剣する貴族がどこにいるのでしょう?」
と笑顔のまま制した。
母は子爵家の令嬢で、貴族のマナーにとても厳しい。
私はびくりとしながら
「も、申し訳ありません母上…庭に出ます…」
と、剣を抱えたまま庭に向かった。
父上と母上、メイドのリアも後ろから着いてきてくれ、私は屋敷の庭で抜剣した。
夕暮れを反射する剣身はまるで陽炎のようで、塗られた油がじわりと虹色に輝いている。
「見た目こそ普通の意匠だが、魔力を流しやすい金属で造られている。そこそこ値の張るしなだから、大事にするようにな」
父上が私の頭を撫でながら言った。
「僕が成人してからも大事にします!ありがとう父上!」
「流石はレオンハート家の子だ。明日より本格的に武術と魔法の稽古に入る。名に恥じぬ武人となるよう精進するのだぞ!」
ん…?
稽古?武人?
「私も魔力の扱いに関しては自分で言うのもなんですがかなりのものです。魔法についてもしっかりと稽古しますよ、ショウ」
魔法?
いや待って私は自分で戦うつもりなんて毛頭ないのだが…!?
剣はかっこいいんだけどそう言うんじゃなくて!!
徐々に沈んでいく陽の中で、私はこれからの生活に落胆と不安を覚えざるを得なかった。