0才〜5才
前世の記憶を引き継いで赤子として生まれた私は、とにかく自由がないことに辟易した。
腹が減っても自分では何もできないし、とにかく暇で仕方ない。この状態での暇つぶしといえば、周りの状況を観察して学習することくらいだ。
と言っても、父と母であろう人達が話している言語が理解できない。
都合よく日本語に変換されるような異世界転生ではないようだ。
かろうじて私に付けられた名前が【ショウ】である事はなんとなくわかった。
この世界の生活水準はよくわからないが、おそらく私の生まれた家はそこそこ裕福であろうことが伺えた。
部屋にある調度品の真贋の判別はつかないが、メイドさんがいると言うことはまあ金持ちなのであろう。
父は金髪碧眼の男前で、母は優しそうな銀髪の美女だ。私自身の将来にも期待がモテることであろう。
前世では圧倒的イケメンだったわけではないが、どちらかといえば容姿で得をしたほうだった。
今世ではフル活用してより良い人生が送れることであろう。女性にモテて困ることなど絶対に、ない。
この世に生まれ落ちて2年がたち、ある程度自由に行動できるようになった。
言語も理解し、たどたどしいながら意思疎通がはかれるようになった。
私は貴族の家に生まれたようで、爵位は男爵。貴族といえども最下級のようだが、幸いにも父が優秀なおかげか我が家は安泰のようだ。
家名はレオンハート。中2心くすぐる最高の家名だ。
父はターク=レオンハートで、母はミシェル=レオンハート。そして私はショウ=レオンハートと言う名前だ。
父は小さな領地の領主であり、領地には5つほどの村を抱えている。内地であり、海には面していない為農業を主として営んでいる。
領民からの評判も上々のようで、母に連れられて村へ出ると領民の方々からは笑顔で挨拶される。
父も母も気さくに領民たちと接しており、アニメや漫画やゲームなどで得た中世貴族の像には当てはまらないようだった。
なんとなく、現代社会の市長のような存在なんだろうなと思った。
それぞれの村には村長がおり、彼らは爵位こそないものの父に対して意見出来る立場のようだった。
ここまでは現世での中世ヨーロッパと似たように感じるが、ここが異世界だとはっきり認識させる存在がある。
それはモンスターと魔法の概念だ。
領地には時々モンスターが現れるようで、領主である父は領地を守るためにこれらの討伐も行っている。私も遠目でゴブリンのような存在を確認したことがあった。
父は炎の魔法を使い、それらを難なく討伐していく。
貴族とは魔法を使うことが出来る家系のことであり、それを研鑽する環境にあるため平民よりもはるかに武力が高いとのことだ。
平民にも魔法が使えるものがおり、それらは大抵村の代表となったり軍に所属したり冒険者になったりする。
赤子として異世界転生した日本人は、ほとんどが赤子のうちに魔力を高めて10才くらいで神童扱いされて魔法学校で無双して可愛い女の子と仲良くなってなんかいい感じになるっぽいのだが、残念ながら私にはそのような才能が一切なかった。
体内の魔力?的な物を感じたことは一切ないし、別に魔法を使いたいと思うこともないし、私の内包する異常なまでの魔力量に両親が目を剥いて素敵なお姉さん家庭教師を雇うこともなかった。
そんな平凡な私だったが、両親の愛情を受けてスクスク育ち、5才となった。