Case04.桜の魔女#20
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血の魔女は、自身に立ちはだかる圭太を見て眉を寄せる。
「実力差を理解させたつもりだったが、君も懲りないな」
「生憎と、こっちは一世一代の大勝負なんだ。諦め悪いくらいがちょうどいいんだよ」
圭太は悪態をつく。不敵な笑みを浮かべるその口元は、微かに震えている。
武者震いでも恐怖に怖気づいているわけでもない。ただ、彼の身に限界が迫っている証明だった。
それを見ても、日奈が圭太を案じることはない。そうしたい衝動をグッと堪えたのは、圭太の覚悟を尊重したいから。
(ここでそれを言うのは、ブス? ってやつだもんね。アタシ、ブスにはなりたくないもん)
「深山、気を付けろ。あいつはまだ、あれを使ってない」
「あれ?」
血の魔女から目を離さず、二人は言葉を交わす。
「俺の異能は、衣笠のほどじゃないが相手の動きに対応できる。けど、俺はこうしてボロボロだ」
”凪”の思考を経由しない動きは、一種の反射行動のようなものだ。進行を妨害するものは打ち払う、立ち塞がるものは切り伏せる。その的確な対処に、目の前の相手は行動が予測されているとすら感じる。一対一の戦いでは、無類の強さを誇る異能だ。
それを打開する術を、血の魔女は有しているということになる。
「あいつは、自分の人形を異能で作れるんだ。どれが本物かも、攻撃を防がれるせいで分からない。手数が増える以上に厄介な使い方だった……」
圭太は苦々しく言う。どれだけ予知に近い予測を立てられても、防ぎきれる最大数は決まっている。
守り損ねたところから綻びは生まれ、徐々に劣勢を強いられたのだろう。
「怜、今の聞いてた?」
「うん。こっちでも注意しておく」
「ありがと」
怜に感謝を伝え、日奈は表情を引き締める。これから先、こんな停滞は訪れない。どちらかが倒れるまで戦いは続く。日奈たちと血の魔女の間に流れる、張り詰めた空気がそう言っているようだった。
この戦いに身を投じる三者の、足を擦る音が重なる。駆け出したのは、全員同時だった。
「”凪”」
「”ひとりあそび”!」
圭太は剣を、日奈は両手を構えて異能を使用する。すでに短剣を握りしめていた血の魔女は、またしても真っ向から受け止めるつもりでいる。
変換した鎮静剤を放つ日奈が、血の魔女の標的に定められる。圭太の状態から、先に日奈を仕留めるべきだと判断したようだ。
その目論見の穴を、押し迫る圭太が突いた。完全な視覚外、”凪”が導いた最短距離の剣筋は、血の魔女の背中を捕捉していた。
しかし――
「っ……!」
突如、異変を察知をした圭太が後ろに飛ぶ。勝ちの目が見えそうな一太刀を放棄した理由。それは、血の魔女の後背部にあった。
羽を思わせる無数に湧いた赤黒い触手が、敵を捕らえようとおどろおどろしく揺らめいていたのだ。
日奈は、触手目がけて”ひとりあそび”を数発撃ち込む。
細い体は容易く貫かれ、沈黙するまで時間はかからなかった。だが、対処も束の間、新たに出現した触手が日奈へと伸ばされる。
「こんなキモいもの……女の子に向けるな!」
一喝の後、散弾のような連射がお見舞いされる。触手が日奈に届くことはなく、乙女の純潔は無事に守られた。
うねる脅威が去ってすぐ、圭太が追撃を仕掛ける。その猛攻を、血の魔女は異能を使った瞬間移動で回避する。
転移地点をいち早く感知した圭太は、迷いなく地面を蹴り、出現した血の魔女に斬りかかっていく。血の魔女は短剣を消失させ、生成した一本の刀でそれを受け止めた。
「まだこんなにも動けるとはね……!」
血の魔女の称賛に、圭太は反応を示さない。返事代わりにと強めたような押し込みが、鍔迫り合いを継続させる。
圭太に引きつけられた注意が、日奈の影を隠し始めていた。傷だらけの体に鞭を打ち、仲間が作り出したチャンス。これを無駄にするわけにはいかない。
圭太の後方――腕と腕の隙間を縫って、日奈は血の魔女のロケットを狙う。
(”ひとりあそび”)
異能を念じてすぐ、日奈の首元からチョーカーが失われる。この一撃は、怜との思い出を乗せた一撃だ。その威力には、十本全ての爪を消費しても敵わない。
命中すれば、確実にロケットを破壊できる。それだけの思いが、この弾には込められていた。
日奈の指先を始点に、光が軌跡を描く。一直線に加速する弾丸は、吸い込まれるように血の魔女のロケットを撃ち抜く。
そして、砕けたロケット共に、血の魔女の体が散った。
――まるで、異能で作った武器が消えた時のように。
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