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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case04.桜の魔女
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Case04.桜の魔女#18

 日奈は、血の魔女に向かって駆ける。

 遠距離攻撃を主体としていた日奈が、自分が得意とする近接戦闘を望んでいる。であれば、真正面から打倒するのみ。血の魔女は再度短剣を作り出し、両手に握った。


 それでも日奈は足を止めない。弾く余裕がないほど近くで、特大の一撃を撃ち込む。目下の戦い方は、これで決まりだ。

 日奈と血の魔女が肉薄する。まだ、日奈は”ひとりあそび(リストカット)”を構えない。血の魔女は、右腕を突き出す。切断ではなく、突き刺すための一撃。僅かな予備動作を見極めた怜が、日奈に指示を飛ばす。


「正面、右手の剣で突きがくるよ」


「おっけー!」


 日奈は体を捻り、刺突を回避。さらに血の魔女との距離を縮める。

 一方、攻撃行動を取った血の魔女は、空振り、日奈に背中を晒すことになる。その無防備な体に、日奈は右手を構える。


「”ひとりあそび(リストカット)”!」


 またしても爪三本分。指先に灯した光が、血の魔女目がけて発射される。

 この近さであれば、避けることも防ぐことも、当然弾くこともできない。血の魔女は、身をもって日奈が使う思いの力を知ることになる。


「……ぐっ!」


 血の魔女が唸りを上げるが、目立った損傷は確認できない。そして、気を取られた刹那の停滞が、追撃のチャンスを失わせる。

 後方に左腕を振るい、血の魔女が第二の刃で日奈を襲う。

 ギリギリの反射と、怜の予測が日奈の身を守る。あとコンマ数秒、仰け反るが遅かったら、日奈の視界は一面血みどろに埋め尽くされていただろう。


 とはいえ、無傷とはいかなかった。怜の手で綺麗に整えられた前髪が、歪に切り刻まれたのだ。


「うわ……最悪なんだけど……っと! よっ!」


 セットが上手くいかない日のように、前髪を手で押さえつける日奈。その状態で、血の魔女から繰り出される二つの殺意を潜り抜ける。

 今回の戦闘は、久しぶりに終始怜のサポート付きだ。”孤独な論理(ロンリーロンリー)”のおかげで、全ての攻撃で直撃を免れている。


「戦いの最中だというのに、髪の心配とは余裕だな」


「余裕じゃないっての! でも、髪は女の命なんだから! そんな簡単に切り捨てられないの!」


 日奈は大きく距離を取り、そこから爪一本分の”ひとりあそび(リストカット)”を放つ。血の魔女の連撃は、日奈の反撃を受けて一度制止する。

 残る爪は三本のみ。まとめて撃つなら、次で使い切ることになる。


 はたして、決着をつける一撃となるか。仮に命中したとしても、血の魔女にとってダメージにならないことは、背中への一発で分かっている。

 当てるなら、弱点。明確に大打撃を与えられるどこかに撃ち込むべきだ。


 ふと、通信機から声が聞こえる。しかし、それは聞き慣れたものでありながら、怜のものではなかった。


「血の魔女からの話で、思い出したことがあるの。原始の魔女がどうしてロケットを持っているのか、その理由について」


「蛇さん? その話、長くなるかな。ちょっと今は忙しいかも……」


「それなら簡潔に伝えるわ。ロケットは原始の魔女の象徴、命より大事なものだそうよ。つまり、それを破壊できれば勝機はあるはず」


「命より大事なもの……」


 優れた魔女の証。蛇の魔女からは、ロケットについてそう聞いていた。だが、どうして原始の魔女だけがロケットを持っているのか。それについては分からず仕舞いだった。

 ロケットは、原始の魔女の核。そう考えれば、眷属を作るのにロケットを使うことにも筋が通る。相手の血を自分に取り入れ、その見返りとして魔女としての力を授ける。魔女と眷属の関係は、共存共栄にも思えるものだった。


「立ち止まっているならちょうどいい。そのまま息の根を止めてやる!」


 血の魔女が、両手に剣を携えて迫ってくる。やはり、思案する時間はない。するなら攻防の中でだ。しかし、普通の人間にそんなことはできない。けれど、日奈なら。怜に情報処理を任せている日奈なら、相手の太刀筋などに意識を奪われずに、思考することができる。

 難しいことを考えるのは苦手でも、勝機を手繰り寄せる戦略なら日奈の本能が知っている。


「ありがと、蛇さん……! やってみる!」


「日奈、上から来る。追撃が怖いから、軽く離れて」


 通信相手が怜に切り替わる。その予測を聞いて、日奈は飛び退く。


 ロケットを破壊するとなれば、残り三本の爪はまだ使えない。ロケットの固さは分からないが、一本で壊れると楽観視はできなかった。

 この接近戦を乗り切り、隙を生み出すためには、さらなる弾数が必要だ。日奈は、手元に残っている使えそうなものに考えを巡らせる。


(爪は三本。チョーカー……は、爪がなくなった非常時にとっておきたいし。髪はあんま使いたくないな。いざとなったら使うしかないけど。他には……)


 ポケットに入れた手が、小瓶に触れる。


(これって……)


 それは、神山に突入する時に備えて、富士から貰っていた催眠鎮静剤。警備担当を気絶させるのに使っただけで、かなりの量が残っている。

 富士との絆がどの程度のものか。正直なところ、日奈にもそれは分からない。だが、怜への思いよりは弱いとしても、これを使わない手はなかった。


 あとは、一発ごとの消費量を調整しなければならない。二刀で襲いかかる、血の魔女に反撃をするために。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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