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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case04.桜の魔女
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Case04.桜の魔女#17

 幸い、ヤエザクラを破壊するために使おうとした五本の爪は、まだ生きている。血の魔女と戦うのに、戦力的な消耗はなかった。

 あとは、地力の差。相手はすでに、圭太を圧倒するほどの力を見せている。その証拠に、戦ったにもかかわらず、黒い背広には汚れ一つ見当たらない。


 使ってくる異能も、まだ掴めていない。突如後ろから現れたということは、転移系の異能なのだろうか。

 手がかりで推論するにも、怜との通信はこの環境下では絶たれている。


「日奈!」


 その時、聞こえるはずのない声が日奈の鼓膜を震わせた。


「怜!? ……うわっ!」


 驚く日奈に、怜は走る勢いそのまま飛びつく。ここが戦場であることも忘れて、二人は存在を確かめ合う。

 ひとしきりの抱擁の後、胸に埋められた顔を引きはがし、日奈は怜に尋ねる。


「どうしてここに?」


「制御室で様子を見てたんだけど、ヤエザクラの近くに行った瞬間に姿が消えたから……。また一人にされたのかと思った……」


「……ごめん。アタシたちも、予想外だったんだ」


 この領域への入り口は、ヤエザクラよりも遥かに高い空の上だ。桜の魔女の力がなければ、彼女に謁見することも叶わない。

 だが、怜はこうして無事に日奈のもとに辿り着いた。ということは――


 日奈は、桜の魔女へと振り返る。辛うじて意識を保っていた桜の魔女は、市原に上体を支えられ、日奈にブイサインを示す。

 最後の力を振り絞って、怜をここに届けてくれた。その貢献に、日奈は報いようと誓った。


「あれが血の魔女?」


 その問いに、日奈は首肯する。

 怜の視線の先、血の魔女が僅かに目を見開く。表情の機微が薄かった彼が、怜を目にしてその膠着を崩す。


「怜、知り合いだったりする?」


「そんなわけないでしょ。……市長とも血の魔女とも、私は無関係」


 目を背ける怜に、血の魔女は呆れたように言う。


「君も人間に与するというわけか」


「人間とか魔女とか関係ない。私は、日奈の味方をするだけ」


「ほう……」


 思いがけない、興味深い。そんな感情がこもった吐息を、血の魔女は漏らす。


 まるで、二人の間には見えない糸が通っているような。言葉にできないモヤモヤを、日奈は抱く。

 しかし、目の前の戦いを放棄してまで、それを追究しようという気はない。聞きたいことも言いたいことも、やりたいことだって、全部が終わった後でいいのだ。


「怜、端末はちゃんと持ってきた?」


「もちろん。異能も問題なく使える」


 ここに怜が来てくれたことは、日奈にとって最高のサプライズだった。意図せず途絶えてしまった二人の繋がりは、こうして今復活した。怜がいるのといないのとでは、心強さが段違いなのだ。

 ドローンのカメラ越しではなく、怜の目で直接血の魔女を分析してもらおう。そうすれば、きっとどこかに突破口が見つかるはずだ。


「んじゃ、行くよ」


 頷く怜は、一歩後ろに下がる。それに共鳴するように、日奈は一歩前に踏み出し、息を吸った。ヤエザクラを前にして紡げなかった言葉を、口にするために。


「”ひとりあそび(リストカット)”!」


 日奈は、銃を象った右手を素早く前に突き出し、異能を発動させる。

 使った爪は三本。残弾数が限られているからこそ、小手調べをしている余裕はない。最初から全力。日奈の辞書に書かれた先手必勝が、その体から迷いを断ち切り、行動を起こさせる。


 飛来する弾丸。それが迫っても、血の魔女は避けようという素振りすら見せない。

 代わりに取ったのは、大きく手を開くという動作。すると、血の魔女の手の平に血が収束する。それは徐々に形を変え、日奈の見知った形――桜の魔女を切り裂いた短剣となる。


 柄を強く握り、血の魔女は短剣を横薙ぎに振るった。”ひとりあそび(リストカット)”は、その一閃に打ち払われる。

 それでも日奈は諦めない。動いた直後の硬直を狙おうと、一発目を発射した直後、血の魔女の視界から外れるように駆け出していた。

 片足を軸に跳躍し、そのまま滑走しながら距離を詰める。


 目線の下、足元からの奇襲に血の魔女はまだ気づいていない。


(もらった! ”ひとり(リスト)――)


 と、顎下を狙い撃とうとする日奈を、血の魔女の双眸が捉える。血の魔女は振り抜いた右腕を掲げ、作り出した短剣を散らす。霧散した血液は、主である血の魔女へと吸収されいく。


 そして、新たに放出した血液で、拳の延長線上に伸びる幅広の刃を生成。その両刃を真下の日奈に向かって振り下ろした。


「やばっ……!」


 攻撃を即座に中止し、日奈は回避を余儀なくされる。身を翻し、地面についた両手両足で体を切っ先の落下地点から押し出す。

 直後、血の魔女の攻撃が大地を抉った。すんでのところで、日奈はその鋭さを味わうところだった。


 攻防、日奈と血の魔女のやり取りが一巡目を終える。

 再び血の魔女と向き合う日奈に、通信機を通じて怜の声が届く。中にお互いがいれば、領域の干渉を受けることはないらしい。


「自分の血を使って物を作り出す。多分、それが血の魔女の異能。見てた感じ、血は自由に出し入れできるみたい」


 現状手に入れられたデータは、まだ少ない。血の魔女が、ほとんど手札を見せていないからだ。


「厄介なのは、弱点がないってこと。作るまでの速度、強度、それを使う血の魔女の身体能力も全部が高水準。一度に作れる上限があるかもしれないけど、大した弱みにはならない」


「ありがと。まだ爪にも余裕あるし、もうちょっと攻めてみようかな」


「それがいいと思う。さっきの戦いを見ただけでも、遠距離だと日奈に分が悪い。でも、気を付けて。接近戦は相手の土俵だから」


 どちらを選んでも、苦戦を強いられることは確定していた。であれば、より勝機がある方を選択する他ない。

 振るわれる凶刃に飛び込む。そこに勇気は必要なかった。怜の予測がついている。それだけで、日奈は恐れずに戦えるのだ。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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