Case04.桜の魔女#11
「良かった……見つけました……」
突如、制御室の入り口で音が鳴り、全員の警戒心が急速に引き上げられる。
その音の発生源、かつそこから姿を現したのは、日奈には疑心暗鬼の対象となる相手だった。
「星の魔女……」
「こいつが?」
「……裏切ったって話だったけど」
怜が睨みつけると、星の魔女は肩を跳ねさせる。
星の魔女の及び腰な様子は、初見であれば扱いづらさを感じるだろう。現に、敵対意識を見せていたはずの怜も、どこかばつが悪そうな表情だ。
だが、この態度に騙されてはいけないと、日奈は自分に言い聞かせる。なぜなら、吉野は日奈たちの突入を予期していた。
それは、星の魔女の予知がなければ成り立たない。星の魔女が情報を漏らしたと考えるのが自然なのだ。
「裏切ったっていうのは、初耳ね。彼女がそんな胆力を持っているとは思えないけれど」
「今日、最初の見張りの人が言ってたでしょ? 市長の勘で警備の範囲を広げたって。アタシたちの作戦を市長に流せるのは、星の魔女しかいないよ」
日奈の推察を聞いて、星の魔女は押し黙る。まるで、責めている日奈が悪いかのような。そんないたたまれない空気が醸し出される。
「その星の魔女がここに来たということは、私たちの動向は全て筒抜けということかい?」
市原は、焦りを滲ませて日奈に問う。
やっと神山に訪れることができた。映像越しとはいえ、ついにヤエザクラを見ることができた。それなのに、道半ばで終わってしまうのか。その焦燥感は、日奈にも伝播していた。
「それなら聞かせて。事前に襲撃が分かっていたはずの彼らが、制御室までこんなあっさり通すかしら? 血の魔女にとって、桜の魔女は命よりも大事なもののはずよ。その防衛システムを担う制御室であれば、ドローンはおろか羽虫一匹も通さない警戒態勢にすると思わない?」
「私は、自分の異能に自信がある。でも、それにしても簡単に辿り着いた……とは思う。システムの構造を覗いてみたけど、これだけのものを作れるエンジニアは中々いないよ。本気を出して守ろうとすれば、少なくとも今よりも苦戦してたはず」
直接肯定するわけではなかったが、怜の言葉は蛇の魔女の理論の裏付けとなった。
「じゃあ、勘はたまたまで、市長はアタシたちの作戦を知らないってこと?」
「説明……させて、いただけませんか?」
そこで、星の魔女が小さく手を挙げる。か細い声も相まって、緊張感と静寂が混じったこの空間でなければ、反応できなかったかもしれない。
日奈は、星の魔女と目を合わせる。そして、彼女の本音を聞くべきだと頷いた。
「元々、お迎えにあがるつもり……でした。制御室やヤエザクラ本体など……重要な地点まで、ご案内できればと。ですが……今日再び予知を見ました……」
「あぁ、それで起床が遅れたわけね」
「っはい……!」
旧知である蛇の魔女が理解を示すと、星の魔女は嬉しそうに返事をする。
しかし、残りの面々はその発言が何を示すのか、さっぱりだった。
「どういうことか聞いても?」
市原の質問を受け、星の魔女が説明を追加しようと口を開く。それを、蛇の魔女が手で制止する。
「私が説明するわ。星の魔女の異能”既視感”は、未来予知。寝ている間に、夢として未来の様子を見ることができるの。残念ながら、これを見ている時、彼女は自分の意思で目覚めることができない。つまり、ちょうど今日予知を見てしまったから、合流するべき時間に起きることができなかったのよ」
日奈含め、星の魔女の異能の詳細を知らなかった人々が、間違いはないかと視線を向ける。その無言の確認に、星の魔女は無言で頷くばかりだった。
口下手な星の魔女からすれば、お喋りな蛇の魔女は頼りになるのだろう。二人を見ていると、なんだか姉妹にも思えてくる。
(実際の年の差は、姉妹以上親子未満って感じかな……?)
その補足が余計であることは、日奈も理解していた。だからこの蛇足は、墓まで持って行くことにしよう。
「で、その予知の内容は聞いていいのか?」
「深山さん……気を付けてください。あなたの背後で刃を構える、血の魔女の姿を……見ました。時間も、状況も分かりません……。ただ……あなたの身に危険が及ぶ可能性は、高いです」
「そんな……」
ただの予知。そう茶化すには、星の魔女の異能の精度は高すぎる。それを理解しているからか、震える怜の表情は絶望を象徴していた。
日奈が目指す未来は、きっとその悲惨な未来の先にあるものだ。最後に辿り着く世界の明暗は、まだ星の魔女にも分からない。それなら、日奈は全力で進み続けるしかなかった。異能者だけじゃなく、人々が魔女に脅かされない明日を手に入れるために。
「アタシは、絶対に倒れたりしないよ。怜に誓ったからね。ずっと一緒にいるってさ!」
「でも、日奈……」
「心配しないで! 怜のサポートがあるから大丈夫だよ。アタシ、信頼してるんだからね」
内心、日奈も怖かった。これから向かうのが、死地になるのかもしれない。そう思うと、手足が震えて歩みを止めてしまいそうになる。
けれど、ここで日奈が足を止めれば、ここまで繋いできた異能者たちの頑張りが無駄になる。そして今日、この場所まで一緒に来た仲間からの信頼を、踏みにじることになる。
(確定した未来、やってやろうじゃん! はじめから、アタシはそれに抗おうとしてたんだから。真っ向からぶつかって、跳ねのけてやんよ!)
日奈の目に灯った、真っ直ぐな光。怜は、それを感じ取ったようだ。嫌な想像を払うように頭を振ると、覚悟を決めた瞳で日奈を見つめる。
「任せて。日奈を危ない目には遭わせない」
こつんとぶつけられた拳が、決戦のゴングとして頭の中に響いた。
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