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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case04.桜の魔女
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Case04.桜の魔女#10

 それから、各所で遭遇する見張りに幸せな夢を見せ、日奈たちはようやく神山に足を踏み入れた。


「まずは、制御室まで怜を送らなきゃだね」


「制御室への道筋は、すでに衣笠さんの端末へ転送しております」


「天城さん、ありがと! ダメだよ蛇さん、怜が制御室にいないと、アタシたちが安全にヤエザクラまで行けないんだから!」


 人差し指をクロスさせ、バツ印を作る日奈に、蛇の魔女は肩を竦めることしかできない。


「私、まだ何も言ってないわよ?」


「でも、絶対何か言うつもりだったでしょ? 急がば待たれ! って昔の人も言ってたんだから、ここは確実にいかないと」


 鼻高々にことわざを披露する日奈は、それが覚え違いであることを分かっていない。

 だから、自分に向けられた仲間からの視線に、首を傾げる。


「あれ、みんなどしたの? もしかして、アタシが賢くなってて驚いちゃった感じ? もうやめてよ、アタシだって高二なんだからさ、これくらい余裕だって!」


 と、陽気なのは日奈だけだった。怜と圭太は露骨に呆れを浮かべ、市原と蛇の魔女は生暖かい眼差しを注いでいる。


「日奈、全部に決着がついたら、一緒に勉強しよう」


「ああ、俺も手伝うから。今からなら、受験にも間に合うはずだ」


「え、いきなり何?」


 左右の肩に置かれた二人の手は、どこか力強く、日奈の困惑は益々色濃くなる。

 怜たちの背後に位置する、市原たち大人組に助けを求めようにも、彼らの反応も変わらずだ。


「学習は、より良い知識を身につけるための過程よ。ねぇ、社長さん?」


「そうだな……。私も全力を尽くす。日奈君を進学させるという、この先の目標ができそうだ」


 まだ戦ってすらいないというのに、気が早いと思われるかもしれない。けれど、夢を見るくらい自由にしたい。

 手にした未来でどうするか。それを考えることができるのは、勝者だけの特権ではないのだ。


「よーし、到着!」


 制御室に人の影はない。それもそのはず、ここには神山全体の映像データ――すなわち、ヤエザクラの様子も送られてくるのだから。

 下手に人員を割いて、桜の魔女を目撃されては都合が悪いはずだ。


「うわぁ……これがヤエザクラ? アタシ、初めて見たよ!」


「すごいな……俺たち、これからあそこに行くんだよな……」


 幾数に及ぶ花冠が木を埋め尽くし、まるで一帯が桃色の霧に包まれているようだ。当然、モニターに映し出されているのは実物ではない。それでも、高精細に描き出された映像だけで、日奈は感動を覚えていた。


 本物は、どれだけ美しいのだろうか。そこに倒すべき桜の魔女がいることも忘れて、日奈は雄大な自然に見入っていた。


「へぇ、綺麗なものね。人間を犠牲にした成り立ちのことなんて、忘れてしまいそうだわ」


「……何が言いたい?」


 蛇の魔女の感想に、市原は鋭い視線を飛ばす。

 怒りを感じさせる声色に、日奈も居住まいを正してしまう。なぜなら、自分もヤエザクラの美しさに傾倒していたから。


「ヤエザクラの美麗な出で立ちを見て、桜の魔女……この場合は智恵理さんって言った方がいいかしらね。彼女の怨嗟を感じ取れる人はいないでしょ? 物語の中では思いの大切さを説いたりするけれど、結局人間なんて、表に出たものしか読み取れない生き物なのよ。その点、小説は便利よね。全てが文字情報になっているもの」


 それは、皮肉の意味合いに感じられた。こうして話していても、その胸の内で相手が何を考えているかまでは分からない。分かるのは、視覚で捉えられる表情や身振りだけだ。

 本人の口から語られるまで、本心というものは分からないのだろう。それが現実で、人が必死に生きている世界なのだ。


「だからこそ、言葉があるんじゃない? 相手を知るため、自分を伝えるために、会話するんだよ。言わなくちゃ分からないことを、言って分かってもらえるようにさ」


 日奈がそう言うと、蛇の魔女は目を丸くする。


「アタシは、社長から桜の魔女のこと聞けて良かったと思ってる。話すのはすっごい遅かったと思うけど、おかげで社長が何考えてるか知れたから。だから、次は桜の魔女に聞きたい。何を思って、どうしたいのか。それを聞けたら、智恵理さんのことも分かる気がするんだ」


 異能を……いや、呪いを与えたことを許すつもりはない。だが、そうせざるを得なかった事情を、日奈はもう知っている。

 日奈は問いたい。桜の魔女の真意を。そして、伝えよう。自分の、異能者たちの思いを。


 最終的に戦うしかないのかもしれない。それでも、対話をしたかどうかで向き合い方は変わるはずだ。

 己の思いを、正しさを証明するために戦う。憎み合うためではなく、分かり合うために戦う。それが、日奈の望む決着のつけ方だった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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