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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case04.桜の魔女
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Case04.桜の魔女#8

 そして、討伐作戦当日。万屋には六つの影があった。


「みんな、準備はいい?」


 日奈の呼びかけに、突入部隊の面々――怜、圭太、市原、蛇の魔女は、それぞれ肯定を見せる。


「この前も言ったけど、戦えるのはアタシと圭太だけ。社長のことは守らないにしても、注意は絶対にすること!」


 ピンと立てられた人差し指には、今日もピンクのネイルが付いている。

 日奈の力の源、怜との絆の証は、照明の光を艶っぽく反射していた。


「異能の使いどころは考えないとだな……。俺のは、特に警護と相性悪いし」


「私のことは心配しないでちょうだい。絶対に死なないから」


 蛇の魔女は自信ありげだ。どんな傷も再生する、死ねない”蛇輪(ウロボロス)”という異能を持っているのだ。当然といえば当然だろう。


「防衛システムの核を見つけたら、多分私は別行動。制御室で直接解体した方が、効率がいいし」


「おっけー。なんなら、そこの方が安全そうだしね」


 敵は間違いなく強大だ。できるだけ不安要素を取り除きたかった日奈にとって、この提案は追い風だった。

 制御室という仕切られた空間であれば、戦いの余波も届かないはずだ。


 懸念が解消された日奈は、次の気がかりへの対処を始める。


「社長、大丈夫?」


「あ、ああ……大丈夫では、ないんだろうね……」


 その顔には普段よりも皺が刻まれ、この数日間で数年分老けてしまったかのようだった。

 

「でも、不思議と昂ってもいるんだ。おかしな話だろう? これから智恵理と戦いにいくというのに」


 日奈にも、市原の気持ちが分からないわけではない。これから、二十七年越しの願いに幕を下ろすのだ。それも、愛する人を弔うため。

 恋人としての役目を、ようやく果たすことができる。市原からすれば、今日という日が人生の決勝戦になるのかもしれない。ここで勝てれば、それからの未来はウィニングランみたいなものだ。


「何もおかしなことはありません。積年の望みを、智恵理さんの願いを叶えにいくのでしょう? 晴れやかな面持ちで戻ってくることを、私はここでお祈りしております」


 そう言って、天城は市原に微笑みかける。事務連絡以外で、天城がここまで話しているのは珍しい。少なくとも日奈はそう感じた。

 だからこそ、この言葉が本心からのものであると直感することができた。


「じゃあ天城さん、バックアップはお願いね」


「了解しました。みなさんも、どうかご無事で」


 天城は頭を下げる。


(うん、いつもの天城さんだ)


 市原と天城がどんな間柄であるか、日奈には知る由もない。それでも、この決戦において主人を見送る側に立つのは、相当な覚悟がいると思った。

 従者として最後まで付き添いたい、というのが本音なのではないか。つい、日奈はそんな心配をしてしまう。


 けれど、これは天城が決めたことだ。それに口を挟むのは、お節介というものだ。


「んじゃ、行こっか!」


 だから今は、全員の意志が揺らぐ前に進もう。叶えたい願いと、目指すべき未来を実現するために。



 神山に向かった一行。その背中が見えなくなった後、天城は小さくため息を零す。

 これが不安なのか、はたまた喜びなのかは分からない。


 この作戦で桜の魔女が討伐されれば、市原も智恵理から解放される。だが、はたして市原は戻ってこられるのだろうか。天城の頭の中は、その疑問に支配されていた。


 目的を失い、宙吊りになった彼は、私のもとへ帰ってきてくれるのだろうか。


「ふっ……いつの間にか、傲慢になったものです。彼なしでいられないのは、私の方だというのに」


 すでに温度を失った、社長室の椅子――革張りの、いつも市原が座っているそれに天城は腰を下ろす。

 それから、机上で伏せられていた写真立てを、本来の使用方法に戻す。


 そこに映っているのは、若かりし頃の市原と智恵理。温かな笑みをカメラに向ける二人は、贔屓目なしに見ても幸せそうだ。

 この幸せが、血の魔女の暴挙によって破壊された。天城は、自分の胸中にどす黒いものが巻き起こるのを感じる。

 今まで、誰にも聞かせたことのない本心。写真の市原を指でなぞる度、それが溢れ出してくる。


 大学の人気者だった、市原と智恵理。彼らに恋する者は後を絶たなかった。天城も例に漏れず、その一人だった。

 告白もした。しかし、結果は玉砕。その時、市原に言われた言葉を今でも覚えている。


「僕には、将来を約束した女性がいるんです」


 そう口にする市原は、失恋したばかりだというのに、惚れ直してしまうほどの眩さを放っていた。

 それを見て、天城は決めたのだ。彼の愛する人になれなくても、彼の近くで、彼のことを支えられる人になろうと。


 とはいえ、当時の天城にできることは限られていた。せいぜい、サークルの手伝いをする程度だ。

 どんな時でも、智恵理は常に市原の側にいる。それを恨めしく思ったりもした。だが、そんな自分にも智恵理は優しく接してくれた。それが、余計に自分を惨めにさせた。


 転機が訪れたのは、もちろん隕石が落下してからだ。

 自分にとって、千載一遇の好機。最悪の形容だとは分かっていても、これ以上の表現方法を天城は知らない。


「……宗次さん?」


「や、やあ……」


 正直、困惑よりも期待が上回った。市原の姿は、見るに堪えないほどにみすぼらしかったから。何かあったに違いない、それも智恵理と。

 打算的な考えと共に、天城は市原に寄り添った。


 そうして、全てを知った。魔女という人知を超えた存在、智恵理の現在、市原がこれからしようとしていることを。

 驚きと同時に、希望を抱いた。今なら、彼の隣にいれるのではないかと。


「私にできることなら、なんでも手伝いますよ」


 あの時、自己本位な理由で彼の手を取った自分に、二人の最後を見届ける資格はない。

 それに、異能者たちへの後ろめたさもあった。切な願いも、崇高な理想も持たず、ただ恋した男の傍らにいたいというだけで、他人の人生を弄ぶ計画に加わったのだから。


 異能者は、桜の魔女のいるヤエザクラに還るという。それと向き合う勇気は、天城にはなかった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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