Case04.桜の魔女#7
「ただいまー、帰ったよー!」
「日奈、もう遅いから周りの迷惑になる」
第一声が肝心だと、元気良く帰宅した日奈に、怜の正論が飛んでくる。
日奈が「あ、そっか」とばつが悪そうに肩を竦めると、怜は細めた目を緩めて微笑んだ。
「ちゃーんと、シュークリーム買ってきたからね」
右手の袋を掲げ、日奈は約束の品を見せつける。
「ありがとう。……でも、この時間に食べたら太りそう」
さすがの怜も、深夜の甘味には警戒心があるようだ。だが、生憎とシュークリームは鮮度が命。放っておけば、すぐに食べられなくなってしまう。
「大変尽くしだったんだし、今日は特別ってことでさ! アタシの分も買ってきたから、二人で食べよ!」
日奈はウィンクをすると、怜の両肩を掴む。それから、さぁさぁと言わんばかりにソファに着席させる。
机上に用意されたシュークリームは、日奈の言葉通り二人分。そのはずだが、個数は三個。
追加の一つは、もちろん食べ盛りの怜のためのものだ。
しかし、二個のシュークリームを見た怜は、
「ねぇ、二つ目は半分にしない?」
と、申し出てきたのだ。
「どしたん? お腹痛い?」
「そうじゃなくて……太るなら、日奈も道連れにしようかなって」
「あー! 怜ってばひどい! アタシがダイエットめっちゃ頑張ってること、もしかして知らないなー?」
「うん、本当に初耳」
「そんなー!」
影の努力を見せないことは、乙女としては理想の姿だ。けれど、今回ばかりは事情を知っていてほしかった。
怜に勧めておいてなんだが、日奈とて夜更けのスイーツは怖い。買ってくると約束したのが、夕方。そこから、随分と時間が経ってしまったものだ。
「あ、そうだ! 社長たちに連絡しとかないと! 血の魔女の正体が分かったよって……」
「ごふっ……!」
口から漏れた驚愕の真実が、一足先にシュークリームを食していた怜を直撃する。
むせて、咳き込む怜に水を手渡し、なんとか復帰を試みる。
「げほっ、ごほっ……はぁ、正体が分かったってどういうこと?」
やがて、呼吸を整えた怜がそう尋ねてきた。
「帰りにさ、会っちゃったんだよね。星の魔女に」
「……またむせそう」
ボロボロの怜に苦笑いを浮かべ、日奈は話を続ける。
星の魔女と出会ったこと。その後に聞いた、血の魔女の正体が吉野であることや、星の魔女から彼の暴走を止めてほしいと頼まれたことなどを伝える。
「じゃあ、星の魔女はこっち側って思っていいんだね?」
「うん、作戦決行のおすすめ日も教えてくれたし」
「おすすめ日?」
星の魔女曰く、十二月の頭に行われる市議会に、吉野改め血の魔女は出席することになっているそうだ。当然、その間ヤエザクラは無人となる。
たとえ魔女を二人倒す計画だとしても、同時に相手することは避けたいと考えていた。この情報のおかげで、市議会の時間中に桜の魔女を討伐し、それから血の魔女と戦うという算段が立った。
決戦は三日後――十二月一日。この日、全てに決着をつけることになる。
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