Case04.桜の魔女#5
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「お願いって、アタシに?」
ゆっくりと、確かめるように尋ねる日奈に、星の魔女はこくりと頷く。
「はい……ちょうど今日の、あなたの足取りが予知できたので……」
再三にはなるが、星の魔女は未来を見る異能を持っている。それを使って、日奈の帰り道で待ち伏せていたということだろう。
彼女の口振りからして、何か条件があると予測できる。たまたまとはいえ、選ばれたのが自分で良かったと日奈は我ながら思う。他の仲間では、最悪の場合聞く耳すら持たなかっただろうから。
「桜の魔女のもとへ、行くんですよね?」
「……そこも予知済みってわけ?」
「はい、すみません……。あなたが、神山を訪れる……未来を見ました。だから……このお願いをするのは、あなたにしようと決めたんです」
最後に相手した魔女が倒の魔女ということもあって、星の魔女との温度差で違和感が押し寄せる。二人の性格は、まさに対照的といったところだった。
「それで、お願いって?」
「聞いていただけるんですか……!」
「聞くことはするよ。受け入れるかは、それから決める」
はっきりしない回答にもかかわらず、星の魔女はぱっと表情を明るくする。
最初の名乗りがなければ、彼女が魔女であるとは疑いもしなかったはずだ。それほどまでに、この魔女からは邪気を感じられなかった。
「血の魔女を……吉野を、止めていただきたいんです」
「……吉野って、あの?」
「……そうです。現万葉市市長を務める彼こそが……桜の魔女を生み出した、血の魔女です……」
表情が硬くなってしまうことを、日奈は止められなかった。
唯一正体を掴めていなかった、全ての元凶。ついにその答えに辿り着いた。
「確認だけど、あなたはアタシたちの敵だよね? それなのに、どうしてこんな話を?」
「おっしゃる通り……私はこれまであなたたちの敵として、多くの人間に……異能者に害を及ぼしてきました。都合のいいことを、と思われるかもしれませんが……私は望んでこの惨事に加担したわけでは、ありません。いつか、彼を止めたかった。でも、私にはその力がなかった……彼に従うしかなかったんです」
その言葉は悲痛に溢れ、星の魔女が抱える苦しみを切に訴えていた。
当然、日奈は星の魔女の出自を知らない。
本人の意思を無視して、強制的に魔女にされてしまったのだろうか。
(けど、それってできるのかな? 蛇さんは、死にたくないって強い気持ちのおかげで、異能がないのに魔女になれたって言ってたけど)
「あなたも、蛇さんと同じで異能者じゃなかったと思うけど。どうして魔女に?」
「……気になりますよね。私は、捨て子だったんです。受け入れてくれる家庭はおろか……孤児院にすら見つけてもらえず、毎日ゴミ箱を漁って空腹を凌いでいました……。安心して明日を迎えたい、平穏な日常を送りたい。そんな私の渇望は……蛇の魔女の生への執着にも劣らなかったと、思います」
蛇の魔女の生への強い思い、星の魔女の安らかな明日への強い思いが、異能を持たない彼女たちを魔女にした。話を聞いて、日奈はそう解釈した。
「裏切って逃げるとかは、考えなかったの?」
「それができたら……どれだけ幸せだったでしょう。未来を見通す……私の異能は、血の魔女に重宝されていましたから……。逃げ出すことができたら、あんな過ちを犯すことも……なかったかもしれませんね」
「その話、詳しく聞いてもいい?」
日奈には一つ、心当たりがあった。ついさっき聞いた話を忘れるほど、日奈の脳は小さくない。
「桜の魔女が誕生した理由、ご存知ですか?」
「蛇さんから聞いたよ。ロケットの力と隕石のすっごい大きなエネルギーが合わされば、どんな人間でも魔女にできるって」
「はい……その通りです。隕石が落ちる日、血の魔女と桜の魔女が、神山を訪れている未来を見ました。……いえ、あの時はまだ智恵理さん、という女性でしたね」
その未来の光景を耳にした蛇の魔女は、ある策を提案をしたという。
「ロケットを刺すという、眷属作りの行程を……隕石の着弾と共に行う。そうすれば……智恵理さんを魔女にすることができると、蛇の魔女は言いました……」
実際、蛇の魔女がこの策にどれほどの確信を持っていたかは、星の魔女にも分からないらしい。
どう転んでも創作のネタになる程度にしか考えていなかったと、日奈は邪推してしまう。
あわよくば、隕石に巻き込まれて死ぬかもしれない。そう星の魔女は希望を抱いていた。異能で見たのは、隕石が落ちてくる瞬間のみ。その後がどうなったかまでは、予知できなかったそうだ。
「けど、結局桜の魔女は生まれて、血の魔女も無事だったわけか」
「全てが、最悪へ傾きました……。まぁ、そう感じていたのは、私だけだったんでしょうけど……」
蛇の魔女は、桜の魔女誕生という奇跡を糧に、一人創作活動に精を出した。
血の魔女は、望んだ相手を魔女に――自分の眷属にすることに成功した。その相手に、殺したくなるほど憎まれているとも知らずに。
そして、血の魔女――吉野は、ヤエザクラを祀り上げるように見せかけて、桜の魔女を私物化した。市長という立場は、それを成すのに最適だった。
「ねぇ、ずっと気になってたことがあるんだけどさ。そもそも、血の魔女はどうして智恵理さんを眷属にしたがってたの?」
原始の魔女の性、そう言われてしまえばそこまでだ。しかし、隕石に頼ってまで成し遂げたかった背景には、強い感情が影響しているのではないか。日奈はそう考えた。
「恋をしたから……でしょうか」
「恋?」
思いがけない答えに、日奈は困惑する。
「血の魔女と智恵理さんの出会いは、大学でした。これまで、人間は自分の血を繁栄させるための道具にすぎない……そう考えていた彼は、初恋を経験したそうです」
その相手が、智恵理ということだろう。だが、その時期であれば、血の魔女の恋が成就しなかったことは容易に予測できる。
「ですが……智恵理さんには、すでに将来を約束した男性がいました。……あっけなく失恋です。これが、血の魔女の性を暴走させました……。人間が血を広めるには……婚姻関係を結びますよね? 血の魔女は……その男性に、智恵理さんを奪われたと考えたのです……」
自分と同じく、智恵理を使って血を繁栄させようとしている。血の魔女は、智恵理の恋人――市原をそう認識したのだ。
人間同士であれば、恋のライバルだと微笑ましく感じたかもしれない。だが、その三角関係には混ざってしまっていたのだ。魔女という人知を超えた存在が。
「じゃあ、智恵理さんに神山の桜を勧めたのは、やっぱり血の魔女だったんだね」
「ご存知だったんですね……。そうです、私の予知と蛇の魔女の策を聞いた血の魔女は……智恵理さんを神山に誘い出すことを、計画しました……」
そうして桜の魔女が生まれ、異能者と呪いとの戦いが始まったのだ。全ては、血の魔女の暴走が引き起こした。
星の魔女には悪いが、こうして頼まれるまでもなかった。万葉という土地を統べ、魔女たちを統べるこの魔女を倒さない限り、真に明るい未来は訪れない。その結論を、日奈は万屋で出していた。
「うん、任せて。血の魔女もアタシが倒してくるから。アタシが勝つとこ、予知でネタバレしちゃダメだかんね?」
そう言って歯を見せて笑うと、日奈は星の魔女に小指を差し出した。
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