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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case04.桜の魔女
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Case04.桜の魔女#3

「ある日、血の魔女が言ったの。どうしても自分のものにしたい女性がいるって」


「自分のものって?」


「簡単に言うなら、眷属にしたいってことね。でも、当然その相手も異能者じゃない。だから、彼は私たちに相談しにきたの」


 知識に富んだと蛇の魔女と、異能で未来を見ることができる星の魔女。二人は、協力して特定の人間を確実に魔女にする方法を考えた。

 そこで出された結論こそ、いずれ千葉を襲う――神山に落ちてくる隕石だった。


「ということは、まさか……!」


 市原の顔が青ざめる。ここまでの話を聞いて、二つの事象の繋がりに気付かないものは、一人もいなかった。

 智恵理を襲った男も、おそらく神山の桜を勧めた知人も、そして桜の魔女を生み出した魔女も、全ては血の魔女という一点で交差するのだ。


「隕石隕石って言うけれど、要は計り知れない力を秘めている物体ってことでしょ? これを使えば、不可能を可能にする奇跡を起こせると判断したの」


「君が……君たちが智恵理を……!」


 歯を食いしばり、机上に拳を叩きつけ、市原が怒りを露わにする。

 これまで追い続けてきた、見えない黒幕の背中。それがひょんなことから目の前に飛び出したのだ。感情に振り回された方が人間味を感じる。


 ただでさえ、感情の起伏が捉えづらかったのだ。ようやく市原の素顔を見ることができたようで、日奈は場違いにも安堵を覚えてしまった。


「ふふっ、どう? ちゃんとお話が繋がったでしょ? みんなの察しがいいから、転から結までは駆け足になってしまったけれど。回り道は嫌いみたいだし、ちょうど良かったかしらね」


 明かされた真実によって、場に当惑が駆け巡る。唯一、初めからそれを知っていた、当事者だった蛇の魔女だけがいつもの調子で声を発した。


「その後のことを補足しておくわね。桜の魔女が生まれたことで、血の魔女は私のもとを去ったわ。私は、この日までのことを記録しておこうと、執筆を始めたの。まぁ、その時の原稿はあなたたちの討伐作戦とやらで燃えちゃったんだけど」


 最後の一言は、蛇の魔女にしては珍しく、少し不服を主張するような声色だった。

 それが残っていれば、この真実にもっと早く辿り着けたかもしれなかった。だからといって、当時のことを責めるわけにもいかない。こうして蛇の魔女を捕らえ、彼女の口から答えが聞けたことを喜ぶべきだった。


「星の魔女はどうしたの?」


「彼女なら、血の魔女が連れて行ったわよ。未来予知の異能は、彼も手放したくなかったみたいね」


 倒の魔女のゲリラ的な襲撃は、星の魔女頼りのものだった。鏡の魔女の闇討ちの正確性も、予言ありきだったと考えれば納得がいく。

 星の魔女は、今も血の魔女一派に属している。つまり、日奈たちがこれまで戦ってきた魔女たちの頭こそが、血の魔女であることを示していた。


「それから桜の魔女は、血の魔女を殺すために異能者を作り出して、血の魔女はその異能者を魔女……眷属にしてるってことか。全部が繋がると、余計に俺たちって無関係なんじゃないかって気がしてくるな」


「……そうだね」


 しかし、これでようやく全ての霧が晴れた。この開けた景色で、あとは自分たちが何を目指すかを決めるだけだ。

 桜の魔女を倒すというゴールは揺るがない。そうしなければ、異能者に明るい未来はやってこないから。


(じゃあ、血の魔女は? 放っておけば、また智恵理さんみたいな人が生まれるかもしれない。それに、血の魔女が自分の性に抗えないなら、この先も必ずロケットを使って眷属を作ろうとするはず……)


 人が危険に晒されていて、その元凶を知っていながら見ない振りをするなんて、日奈にはできなかった。命がけで手に入れた明るい未来が、そんな後味悪い結果でいいはずがない。

 やるならとことん。これ以上の悲劇を起こさないためにも、日奈は心を決めた。


「でもさ、圭太。アタシたちがやらなきゃ誰がやるの? 世界を救ったヒーローとか、この先絶対自慢できるっしょ! だから、アタシはやるよ。桜の魔女も血の魔女も全部倒して、未来が見たい」


 真っ直ぐと、圭太を見据えて日奈は言う。先の話をするのは、圭太が同じように未来を向いていると信じているからだ。

 そんな日奈の視線を受け、圭太は静かに息を吐く。それは微かに呆れの色を滲ませながらも、交錯した瞳は強い光を放っていた。


「ヒーローか……悪くないな。社会に出る時、履歴書にも書けそうだ」


「私も異議なし。日奈がやるって言うなら、私もやるよ」


「圭太、怜……!」


 元々、桜の魔女を倒して異能者を救うつもりだったのだ。今さら、救う対象が人間全体になっても変わらない。

 なんて大雑把な等式を用意して、血の魔女にも警戒を強める。となれば、聞かなければならないことがある。


「蛇さん、桜の魔女と血の魔女が使う異能のこと、何か知ってる?」


「知らないわ。だって、彼が戦うところなんて見たことないもの。桜の魔女に関しては、前から言っている通りね。会ったことがないから」


 敵の力は未知数。加えて、相手はこれまでの魔女を凌駕する原始の魔女だ。肉弾戦になれば、間違いなく勝ち目はない。


「じゃあ、戦闘はぶっつけ本番だと思って……。あとは、当日どうやって神山に入るかだよね」


 作戦会議とはいったが、実際の作戦概要はあっさり決定した。

 一番の難所とされていた防衛システムは、怜の異能で対処する他ない。


 神山に足を運ぶのは、戦闘要員の日奈と圭太、それと特等席を確保した蛇の魔女だ。天城は補佐に徹すると立候補した。


「私も、連れて行ってもらえないだろうか」


 そう言い出したのは、市原だった。


「智恵理を弔うことは私の半生を賭けた願いだ。その瞬間に立ち会わせてほしいんだ。だが、足手まといにはなりたくないから、私を守ろうとしないでくれ。これは社長命令だ」


「……本気なんだね?」


「ああ。君たちに智恵理を殺させるんだ。私だけ安全なところで吉報を待っていたくはない」


「うん、分かった。その代わり、自分の身は自分で守ってね」


 日奈からの忠告に、市原は力強く頷いた。それから、「ありがとう」と感謝を零した。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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