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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case04.桜の魔女
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Case04.桜の魔女#1

「怜、初仕事だよ。蛇さんの部屋のカメラさ、話できるように弄れる?」


「……いいの?」


 怜が確認を求めてきたことを、日奈は目配せで伝える。すると、市原は無言で首肯した。

 天城は一瞬警戒するような素振りを見せたが、「お手並み拝見ということで」と了承してくれた。


「大丈夫! やっちゃって!」


「分かった」


 それから社長室に珍しい声が響き渡るまで、時間はほとんどかからなかった。


「この声、聞こえているのかしら。私とお話したいだなんて、どういう風の吹き回し?」


 揶揄い気味な蛇の魔女の一言目を聞くと、天城はふっと息を吐く。その吐息には、肩の荷が下りたような晴れ晴れしさが滲んでいた。

 目と鼻の先にある目標。しかし、自分たちの力では手の出しようがなかった。その雲を掴むような望みが、ついに現実味を帯びてきたのだ。思わず安堵が漏れるのも分かる。


「蛇さん、ちょっと協力してくれない?」


「日奈さんったらいけずね。それなら遊びに来てくれたらいいのに」


「ちょーっとそうもいかなくてさ。今日はアタシだけじゃなくて、アタシたちに力を貸してほしいの」


 カメラを通した蛇の魔女の声は、どこか無機質にも感じる。おまけに所作が一つも見えないため、やり取りの最中日奈は違和感と隣り合わせていた。

 そして、思案する時の無言の間が嫌だった。今、地下のあの部屋で蛇の魔女が何を考えているのか。それを察する術すら持っていない。


「どうしようかしら。私としては、何かメリットが欲しいところなのよね」


「あんたは囚われの身なんだ。とっとと観念したらどうなんだ」


 その傲慢にも思える圭太の態度に、蛇の魔女は薄く笑う。


「その私に頼るしかないなんて、あなたたち相当ギリギリなのね。窮地に陥った時に頼み方を間違えると、痛い目を見るわよ。私が手を下すまでもなく、ね。ああ、ここで私が何もしないことが一番の打撃なのかしら」


「くっ……」


 意に介さないどころか、こちらの状況をタダで受け渡してしまったようだ。

 圭太相手に大人げないとも思ったが、蛇の魔女は楽しんでいるだけなのだろう。心の底から、他者と語らうことを。


「物語のラストを見届ける権利ってのはどう? この特等席、蛇さん的には結構おいしいと思うんだけど」


「それはつまり、私を外に出すということ?」


「深山、それはさすがに……!」


「ふふっ、坊やは大慌てみたいね。その様子だと、社長さんにも許可は取ってないのでしょう?」


 蛇の魔女の予想は大正解だ。だが、メリットを要求する彼女に対して、最大最上の提案をしたつもりだった。

 蛇の魔女は、この万葉を巡る魔女と日奈たちの戦いを記録しようとしている。もちろん、日奈から後日談を聞いて執筆するという選択肢もあるだろう。


「そこはあとでなんとかするから、今は答えだけ聞きたいな。直接見なきゃ書けないこともあるんじゃない?」


「……そうね。事実は小説より奇なりと言うもの。私の創造を上回る現実があるとしたら、見逃せば一生後悔しそう」


「なら決まり! 社長も天城さんもごめんだけど、今回は見逃してくれる?」


 日奈の両の手の平が、乾いた音を立てて鳴る。薄く開けられたまぶたから、キョロキョロと大人二人の様子をうかがっている。


「ここまでされてしまったら、今さらなしにはできないだろう。まったく、日奈君の人たらし具合には度肝を抜かれるね。いや、この場合は魔女たらしって言った方がいいのかな?」


「社長、いいんですか!?」


「いいか悪いかなら、当然悪いだろうね。しかし、私たちには彼女の持つ情報が必要なんだ。それに、まだ結果は分からないだろう? もし、これが本当に悪い選択だったなら、私が全ての責任を負うから安心してくれ。日奈君を責めさせはしない」


 不服を訴える圭太に、市原は優しく言う。それはまるで、子どもを諭す親のようだった。


「……はい」


 そこまで言われれば、圭太も引くしかなかった。ここにいる誰もが覚悟を決めている。それを肌で感じたはずだ。


「せっかくだし、怜の声も聞こえるようにしよっか」


 日奈は通信機を操作し、スピーカーモードに設定する。これでようやく、全員が会議の席に着いた。


 戦い始めた頃は想像もしなかった。魔女と手を取る日がくるなんて。蛇の魔女は特別だ。けれど、それを抜きにしても魔女への心理的な壁がなくなったのは、間違いなくその出自を知ったからだろう。

 たとえ、人間と魔女という異なる道を歩んでいても、根本にある思いは変わらないと知った。呪いから解放された未来を望んでいると。


 でも、感傷に浸るのは今じゃない。湿っぽい空気は得意じゃない。だから日奈は、努めて明るく宣言した。


「よし! んじゃ、始めよっか!」


 そのかけ声に、その場の空気が引き締まる。

 緊張ではない。真剣に問題と向き合っていることの表れだ。


「まずは蛇さんに、桜の魔女について教えてもらおっかな」


「この間も言ったわよね? 会ったことがないから確かなことは話せないって」


「でも、桜の魔女が女性だって知ってたでしょ? 誰かから聞いたってことじゃないの?」


「あら、見かけによらず勘が鋭いのね。桜の魔女のことは、血の魔女から聞いたの。私を魔女にした、彼からね」

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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