Case03.倒の魔女#21
「分かりました、俺もやります。最後にもう一つ、いいですか」
「何かな?」
「社長は、桜の魔女がヤエザクラにいることを知ってたんですよね。それなら、どうして俺たちをヤエザクラに向かわせなかったんですか?」
圭太の言い分はもっともだ。姿を見せない桜の魔女を捜索する必要なんて、最初からなかったのだ。早々に市原が真実を打ち明け、全員でヤエザクラに向かえば良かった。
道中での犠牲も、対峙する魔女も、もっと少なく済んだかもしれない。それなのに、市原はどうしてそうしなかったのか。
「できるなら私もそうしたかった。だが、考えてもみてくれ。今や神山全体は、市長の意向によって厳重な警備を敷かれている。特攻するには、我々はあまりにも無力なんだ」
魔女に対抗する異能は持っている。けれど、それがあったところで、ヤエザクラへと赴く権利が与えられるわけではない。異能を持たない人間に対して異能を使うのは、日奈としても避けたかった。
「神山に、かつての自然はほとんどありません。あるのは機械で制御された防衛システムの数々です。これを突破できるハッカーに、残念ながら私たちの人脈で出会うことはできませんでした。おそらく、世界を見渡してもほんの一握りの人材でしょうが」
天城が零したのは、愚痴にも聞こえる実情だった。立ち入ることができない以上、どう足掻いても桜の魔女を討伐することはできない。ヤエザクラから実体が離れられないのは、市原の話で分かっている。
彼が桜の魔女の正体を明かす必要はないと判断した理由に、納得がいってしまった。言っても下手に鼻先に餌を垂らすだけで、それを食べることは叶わないと考えたのだろう。
しかし、それはあくまで市原が持つ情報だけで出された結論だ。日奈はやはり、自分たちに事実を伝えるべきだと思った。
形勢を逆転させる術は、意外なところに転がっているのだから。
(三人寄ればもんじゃの知恵ってやつだよね……!)
日奈は手を挙げて、その場の注目を集める。これから提案することは、まだ許可を取ったことではない。でも、彼女なら――怜なら手伝ってくれると信じていた。
「アタシ、ハッカーならいい人紹介できるよ。世界に一人だけの、最強の相棒をね」
「相棒? 深山さんは、これまで単独で行動していたはずでは……」
「いやー、今まで黙ってたんだよね。あの子も異能者なんだけど、万屋に入るつもりはないって言ってたから、目立たせたくないなって思って。けど、さすがに今回はそう言ってられなくない? だって、その防衛なんとかを止めちゃえば、桜の魔女のところまで行けるってことなんだから!」
笑顔で言う日奈に、周囲は驚きの感情を向けている。
その中に、ここにはいない人物の呆気も含まれていた。
「ちょっと日奈、聞いてないんだけど」
「今決めて今言ったからさ、ごめんね。怜も今までの話全部聞いてたんでしょ? アタシのためだと思って……ダメかな?」
「おい深山、今怜って言ったよな。相棒ってもしかして衣笠なのか?」
合点がいった圭太は、余計に狼狽えていた。当然だが、共同生活の期間で怜はそんなことをおくびにも出していない。
実はだらしないという側面だけで、知った気になってもらっては困る。こんな状況だというのに、日奈は誇らしげな心持ちをしていた。
「……はぁ、分かった。どうせここで断っても、私のことはバレてるわけだし。それに――」
「アタシは止まる気、ないからね」
「うん、そうだよね」
互いに見えない拳を合わせたような気分だ。事後報告だが、許可を取ることには成功した。
ここからは、本当の意味で怜も一緒だ。桜の魔女討伐、その作戦会議がついに始まった。
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