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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case03.倒の魔女
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Case03.倒の魔女#17

「これがさっきあったこと。何か気になることある?」


 日奈がそう聞くと、蛇の魔女は顎に手を当て思案する素振りを見せる。

 倒の魔女討伐後、その足で日奈は万屋の地下を訪れていた。手に入れた情報の正確性を、一度確かめておく必要があると考えたのだ。


 討伐の報告こそしたものの、魔女の成り立ちをはじめとした新たな知見は、まだ万屋には伝えていない。

 もし偽の情報を掴まされていたとしたら、いたずらに混乱をもたらすだけだ。


「そうね、人質に取られていた彼女のことが気になるわ。無事なの?」


「え、そこ気になる……? 一応無事だけど」


 一応、と付けたのには理由があった。富士の手腕もあり、幸い命に別状はなかった。だが、さすがの朱美も呪いの進行には抗えず、思うように体が動かせなくなってしまっていた。しばらくは富士の診療所で、経過観察という名目で療養するという。


「だって日奈さん、最後は戦いに夢中で人質のこと話さなかったじゃない。死んだことを隠しているみたいだったわ」


「いやいや。朱美さんが死んでたら、アタシここに来る元気ないって」


「そうかしら? 誰が死んでも、誰を殺しても、あなたは立ち止まらないと思うけど」


「それ、褒めてる?」


 たしかに、これまで日奈は仲間が桜に還ろうとも、足を止めることはなかった。そして今日、魔女が異能者だと知っても、変わらず前に進み続けている。

 なんだか、自分には感情がないのかと思えてくる。死に心を痛めず、ただ目的を遂行しようとする機械のようだ。”(チルアウト)”を使ったというわけでもないというのに。心が壊れてしまったのだろうか。


 いや、違う。どれだけ辛くても、苦しくても前に進むのは、その先に希望があると信じているからだ。後ろを振り返って後悔すれば、必ず足は止まる。だから、過去は振り返らない。道半ばで倒れた全てのものに、結果で報いるためにも。


「褒めてるわよ。そうじゃなきゃ、日奈さんを主役にはしないもの」


「主役?」


 困惑する日奈に、蛇の魔女は手に持った紙の束を掲げる。それは日奈にも見覚えのあるものだった。


「原稿用紙だよね、それ」


「ええ。私、物語を執筆するのが好きなの。ここに捕らえられてから、何をするにも張り合いがなくてね。大好きな執筆作業もやめそうになっていたのよ?」


 当初、蛇の魔女はここまで友好的ではなかった。変わらず柔らかな態度であっても、それはただ微笑みをたたえているだけで、何か聞き出そうとしても「興味ない」の一点張り。

 社交性に自信があった日奈は、蛇の魔女への聴取に立候補したが、それでも蛇の魔女の対応は変わらなかった。


 そんなある日のこと。呪いが発現した日奈は、賭けに出ることにした。それは、自分の秘密と相手の秘密との交換。

 誰にも明かしていない、自分の最も繊細な部分。それを打ち明けることで、蛇の魔女から情報を引き出そうとしたのだ。


 結果は大成功。こうして日奈と蛇の魔女は、秘密を共有しあう中で距離を縮めていった。


「覚悟が決まった日奈さんの表情、今でも覚えているわ。あの時、燻ぶっていた創作欲が久しぶりに湧いたの」


「アタシ、いつの間にか資料にされてた感じ?」


「ふふ、ごめんね。言ったら、もうここには来てくれないかと思って」


 両手を合わせてはいるが、誠意は感じられない。このまま席を立って帰るのは簡単だ。しかし、今回の目的を果たすためには蛇の魔女の力が不可欠だ。彼女もそれを理解しているからこそ、こうしてネタバラシをしたのだろう。


「じゃあさ、教えてよ。どんなお話書いてるの?」


「万葉の動乱をテーマにしているわ」


「それって、そのままじゃん?」


「そうよ。千葉に現れた原始の魔女が万葉を作り出して以降の、あなたたち万屋と魔女の戦いを描いているの。私が経験してきたことと、日奈さんから聞いた話を参考にしてね」


 蛇の魔女が話した中に、聞き覚えのない言葉があった。


「ねぇ、原始の魔女って何?」


「黙っていたお詫びに教えてあげるわ。倒の魔女から、魔女はロケットを使って生み出せるって聞いたのよね?」


「うん、飾の魔女も鏡の魔女も、倒の魔女が作ったって言ってた」


「じゃあ、倒の魔女を作ったのは誰だと思う?」


 結局、倒の魔女の口からその答えを聞くことはできなかった。謎の声が邪魔に入らなければ、もう少し話させることはできた気がする。

 桜の魔女が関係している、というのが日奈の予想だった。


「それが原始の魔女なの。といっても、これは名前じゃなくて分類ね。原始の魔女たちは、誰かに作られたりはしない。ロケットを持って、突如発生するの。持っているロケットは、もちろん魔女を作り出すことができる。けれど、それはあくまで眷属にすぎない。友だちを増やすのではなく、親が子を作るって言えば分かりやすいかしら?」


 親が子どもを眷属扱いするのは、かなり問題のように思える。が、今は無粋なツッコミをするべきではないと堪えた。


「倒の魔女はロケットを持たされていたみたいだけど、おそらくそれは模造品。異能か何かで作ったと考えるのが妥当ね。借り受けた力で魔女を作ったんだから、できる魔女の質が低くなるのは当然といえば当然だわ」


「これまで蛇さんが言ってた、ロケットを持つ魔女が原始の魔女ってことでいいんだよね?」


「大枠はね。ただ、倒の魔女みたいな例外もいるから、ロケットだけを見て決めつけるのは早計だわ。分かりにくいかもしれないけど、魔女としての強さは一種の基準になるわね」


「強さ……」


 嫌な話だった。倒の魔女でさえ、異能を抜きにしても攻撃力が高い。きっと、原始の魔女に近ければ近いほど、魔女としての力は強くなるのだろう。相対する魔女が、原始の魔女か眷属か。はたまた眷属の眷属なのかは、戦ってみるまで分からないということだ。


「桜の魔女も、原始の魔女なの?」


 蛇の魔女は、桜の魔女を探すにはロケットを持つ魔女――原始の魔女を探せと言った。少なくとも、何かしらの因果関係があることは間違いない。

 日奈の期待とは裏腹に、蛇の魔女は珍しく確信めいた言い回しをしなかった。


「どうかしらね。彼女に会ったことはないから、確かなことは言えないわ」


 それでも、蛇の魔女は桜の魔女を『彼女』と呼んだ。それはつまり、桜の魔女について知っているということ。

 本当は、上機嫌のうちに根掘り葉掘り聞いてしまいたい。だが、約束は約束だ。鳴り響いたアラームを止め、日奈は地下を後にした。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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