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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case03.倒の魔女
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Case03.倒の魔女#15

「圭太、ストップ!」


 日奈の声で、圭太の動きは止まる。

 異能を解除したことが、周囲の空気から分かる。


「はぁっ……え……?」


 倒の魔女は困惑していた。それもそうだろう。この一撃が決まれば、間違いなく倒の魔女は殺されていたのだから。

 しかし、圭太の刀はその体を貫いてはいない。先端が軽く触れ、血の細線が衣服を伝っている程度だ。あと少し声をかけるのが遅かったら、間違いなく倒の魔女の命は絶たれているはずだった。


「深山、いいのか?」


 圭太も納得はしていないらしい。敵の討伐まであと一歩となったこのタイミングで、なぜ静止の声を上げたのか。そう言いたげな視線を向ける。


「ちょーっと、聞かなきゃいけないことがあるんだよね」


 これまでは、蛇の魔女から与えられた口外してはいけない情報だけで捜査をしてきた。だから、誰の目に触れない場所でしか魔女に質問することはできなかった。けれど、その契約関係はもうない。圭太にも聞いてもらおう。倒の魔女が知っている、魔女に関する情報を。


「はっ、やるじゃないか! 僕はお前を見くびってたらしい! やっと僕の偉大さが分かったみたいだな!」


 血混じりの唾を散らしながら、倒の魔女は声色を明るくする。


「別にそういうわけじゃないんだけど……」


「褒美をやるよ! ああ、そうだな……魔女にしてやろうか?」


 日奈の眉間に皺が寄る。予想外、という域を飛び出していた。ここにきて軽口、ということはないはずだ。ここは慎重に言葉を選ぶ必要がある。


「……あなたがアタシを魔女にするってこと?」


「そうだ! その首の模様、桜の魔女の呪いだろ? 可哀そうだよなぁ、それがあるだけで短命だなんて。辛くないか? 辛いだろ? 人間じゃ魔女の力には敵わないんだからさぁ」


 たった今、圭太の異能によって自分が追い詰められたことは、倒の魔女の記憶からはなくなってしまったようだ。

 そんなことよりも、大事なのは魔女の成り立ちだ。倒の魔女は、こっちの想定よりも内情に詳しいと思っていい。


「呪いのことを、なんでお前が知ってるんだ?」


「ははぁ、そこの女と違ってお前は何も知らないんだな。異能者には命を吸い上げる呪いの桜が咲く、こんなのは常識だろ? 僕だって魔女になる前から知ってたよ」


「さっきから魔女にするとかなるとか言ってるが、魔女は元々人間とか言うつもりか?」


「っていうか、不思議に思わなかったのかい? 魔女が自分たちと同じ外見をしてること、自分たちが魔女と同じ異能を使えることをさぁ。呪いを克服することができるんだから、魔女になることに抵抗がある異能者なんていないよ。まぁ、不死ってわけじゃないけど、寿命が伸びるだけで僕は万々歳だね」


 痛いところを突かれた。日奈はそう思った。圭太が閉口したのも、きっと同じ理由だろう。

 自分たちが異能を使える理由について、考えたことがなかったわけではない。しかし、考えて分かることでもない。異能者には呪いがある、呪いがあるものは異能を使える。その等式が不動のものであること以外、日奈が異能について知ることはなかった。


 そして、圭太の問いに倒の魔女が示した肯定は、魔女の成り立ちが人間――異能者であることを表していた。

 人々の平和を守ろうと、異能者の未来を切り開こうと魔女を殺してきた。だが、それは同じく呪いに苦しんできた異能者との戦いだったのだ。

 短命という敷かれたレールに対抗する手段は、桜の魔女の討伐以外にもあった。それも、あまりにも簡単な方法が。それに飛びついた異能者――いや、魔女を責めることは日奈にはできなかった。


「俺たちは……助けようとしてた異能者を殺してきたのか……」


 呆然と呟く圭太の手から、刀が滑り落ちる。カランと金属質な音が、辺りに響いた。

 日奈から見ても、圭太は誇り高く、意志を持って魔女と戦っていた。その崇高な心が折れ、自分を失ってしまいそうだった。


「圭太!」


 今すぐ駆け寄りたかったが、朱美から離れるわけにはいかない。混乱に包まれた日奈たちに、倒の魔女は愉悦を露わにする。


「あははっ、お前もいい顔するじゃんか! いいよ、二人まとめて魔女にしてやろうか? あ、そこで転がってる女もおまけでしてやるよ。せいぜい僕の配下として、きりきり働いてくれ!」


 倒の魔女は、チェーンが巻き付いたペンダントのようなものを取り出す。ツルっとした丸い本体には、キンギョソウが彫られていた。

 それが開かれたことで、日奈は正体を悟った。衝撃のあまり、思わず口をついて出てしまう。


「ロケット……」


「あれ、知ってるのか? さてはお前、案外詳しいな? 他の魔女に誘われでもしたのかな」


 観察するように向けられた視線、ニタニタとした下卑た目元に寒気がする。

 倒の魔女がロケットを操作すると、側面から小さな針が飛び出す。その鋭さを確かめるように、指の腹で撫でて言う。


「これを一刺しして、血をロケットに注げば魔女の出来上がりさ」


 手から垂れるロケットの中には、赤黒い汚れが無数にこびりついている。それだけの異能者を魔女に変えてきたと、見ただけで理解することができた。


「悪いけど、魔女としての実力は保証できないよ。僕は魔女を作ることはできるけど、生憎とできるのは失敗作ばかりなんだ。分かりやすいところでいくと、戦いたがらない美容馬鹿とか出来の悪い物真似人形とかね」


 飾の魔女と鏡の魔女を作ったのは、倒の魔女だった。どうりで、彼女たちを罵る発言が多かったわけだ。倒の魔女のことだから、誰に対してもこの態度なのかもしれないが。

 ここで一つ疑問が生じる。では、倒の魔女を作ったのは一体どの魔女なのか。最有力候補として真っ先に挙がるのは、桜の魔女だ。


(ってことは、倒の魔女は桜の魔女の関係者? 魔女を増やしてどうするつもりなの? 異能者は魔女になることができて、魔女は呪いを克服することができて……でも呪いは桜の魔女のせいで……ああ、もう分かんない!)


 頭で考えるのは、やっぱり自分には向いていない。こんな時、怜がいたらと思ってしまう。

 なんとしても情報を持って帰る。それで怜に分析してもらおう。ここでするべきは、できるだけ情報を引き出すこと。それと、圭太をもう一度立ち上がらせること。


 倒の魔女を討伐するためには、圭太の異能に頼るしかないのだから。


「あなたは、誰に魔女にしてもらったの?」


「お、興味が出てきたみたいだね」


「おい、深山……やめ……」


 ここで日奈が魔女になれば、圭太の心はいよいよ砕け散ってしまうだろう。

 けど、心配しないでほしい。魔女に心を売ることはない。なぜなら、目指すべきことは最初から決まっているから。


「アタシだけが助かりたいなら、魔女になったかもね。でも、アタシが助けたいのは異能者全員なの。この先、魔女になろうなんて思う人が現れないように、アタシは桜の魔女を倒す。それが、倒してきた魔女たちの弔いにもなるって、アタシは信じてるから」

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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