Case03.倒の魔女#5
「日奈、私が周りの監視はしておくから、早く続き読んじゃって」
「おっけー」
互いに目を合わせず、やり取りを済ませる。鏡文字の解読作業中は、どうしても無防備になってしまう。できるだけ手早く、内容を知ることが求められた。
「拝啓魔女狩り様、人質を預かっております。明日の十三時、あなたの思う最も栄えた交差点で会いましょう。もちろん、お一人でいらしてください。他言した時点で、人質の命は保証できません。倒の魔女」
手紙を読み上げる。犯人がわざわざ名乗るとは驚きだ。ご丁寧に振り仮名まで付けられている。当然、鏡文字で。
明らかになったのは、これが魔女――倒の魔女による犯行であること。そして、人質はおそらく万屋の仲間だということだ。
「人質? あっちも結構面倒なことするんだね」
怜の言い分は一理ある。敵の目的が日奈だと仮定して、所在が分からないのであれば、この脅迫も意味を持つだろう。しかし、手紙はこうして家に届いている。万屋の異能者を戦闘不能にできる力がありながら、まさに今襲撃してこないのはなぜなのだろうか。
加えて、呼び出し場所は『最も栄えた交差点』。しかも、判断基準は日奈任せだ。手紙を読む限りでは、相手に日奈と対峙する気があるのかすら怪しい。
見知った間柄での通称ではない以上、日奈の選択次第で答えは無数にある。だが、文面からしてどこを選んだとしても倒の魔女は現れるつもりらしい。となると、心を読む異能、行動を予測する異能が候補に挙がってくる。
(星の魔女の時も、おんなじ予想してたっけ)
結局、星の魔女の異能は未来予知だった。それに続き、またしても戦いづらい異能であることは間違いない。
それでも、日奈は倒の魔女の言う通りにしなければならない。人質という単語が出てきた以上、それを見ぬふりはできない。誰一人として、無視できる命ではないのだ。
「この内容が本当なら、明日までアタシたちが襲われることはないってことだよね」
「そうだね」
唯一気がかりなのは、他言無用だという点。先ほど日奈は、手紙の全容を口に出した。つまり、怜に漏らしたという考え方もできる。
行動が監視されているのか、相手が電波を傍受できるのかは分からない。たとえこれが規則外の行動だとしても、明日の十三時に交差点に行けば全てが分かる。人質の安否も、敵の目的や異能も。
「あなたの思う最も栄えた交差点って、どこに行くつもり?」
「うーん……ぶっちゃけさ、人が多いところでは戦いたくないよね」
「巻き込む人を少なくしたいって気持ちは分かる。でも、相手も同じ考えだとは限らない。むしろ、人を盾に戦う気かもしれないよ」
「それ、一番最悪なんだけど」
狡猾な戦い方を想像して、日奈は自然としかめっ面になってしまう。
すでに人質を取られている。倒の魔女ならやりかねないと、第一印象でも察することができた。
そこまで考えて、指定の日時も都合が悪いことに気付く。休日の昼頃、最も人が外にいる時間帯だといえる。そのうえで、『最も栄えた交差点』というのは悪趣味が過ぎるというものだ。
「一応、ハッキングさえすれば公共交通機関を運行中止にはできるけど」
「アタシが誰かにバラしたみたいだから、できればやりたくないよね」
日奈が明日、あまり人のいない交差点を選ぶという手段もある。しかし、そうした時に倒の魔女が現れる保証がない。一つ懸念を潰せば、新たな懸念が生じる。戦う前からやりにくい相手だった。
「ひとまずは相手の良心に委ねるとして。あとは場所選びだけど、万屋に近いところを選ぶってのが良さそう?」
「近くで騒ぎがあれば、誰かが気付いてくれるかもね」
「おびき出したつもりが、逆におびき出されてたってわけ! ミイラ取りがミイラになる、みたいな!」
「それはちょっと違うと思う」
「えー! いいじゃん、ミイラ作戦!」
「まぁ、日奈がいいならいいけど」
日奈は歯を見せて笑う。早々に折れた怜も、口元は微笑みをたたえていた。
そうと決まれば、日奈としてはやっておきたいことがある。
「よーし! 決起会するよ!」
モヤモヤしたままでは、足元の小石に躓いてしまう。スタートダッシュは肝心なのだ。
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