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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case03.倒の魔女
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Case03.倒の魔女#3

「朱美さん、元気にしてるかなー」


 パイプ椅子に座り、足を忙しく動かしながら日奈は上の空で口にする。


 呪いの発現が発覚してからというもの、富士から健康診断を月二回行うと命じられた。

 今日は十一月下旬分の診断で診療所に来ていた。


「前もそんなこと言ってましたね。そういえば、あれから雲竜さんには会えましたか?」


「へ? あー、ううん! でも大丈夫だよ! ちゃんと言ったから!」


「何をですか?」


「たまには顔見せなさいって! ほら、あのーえっと……ビルの屋上から! 市内にいるなら聞こえたんじゃないかな?」


 我ながら、なんて嘘が下手なんだと思う。けれど、日奈の言葉に富士は頷いた。


「深山さんの声、届いてるといいですね」


「そ、そうだね……!」


 富士が純粋なのか、騙されたフリをしてくれているのか。いずれにせよ、朱美との邂逅を直接口外することは避けられた。日奈は安堵に胸を撫で下ろす。


 久しぶりに会った朱美を見て、日奈は驚きを隠せなかった。最後に彼女を見た時から、さらに呪いが広がっていたからだ。首元の桜が可愛く思えてしまうくらい、朱美の体を蝕む呪いはおどろおどろしく映った。


「これから万屋ですか?」


「うん、社長たちに情報共有しとかないとだから」


「蛇の魔女から情報……本当に確かなものなんでしょうか」


 富士の眼鏡が、感情を映し出すように曇る。囚われの身の蛇の魔女が、どうして日奈に力を貸しているのか。わざわざ、秘密の共有という形を取ったのか。そのどれもが今も謎のままだ。

 しかし、日奈が信じると言った以上、大人たちはそれに反論することはなかった。

 信じるか、疑うか。その天秤を持つ資格があるのは、蛇の魔女と対面し続けた日奈だけだと全員が理解していたからだ。


 それでも、こうして不安が漏れてしまうこともある。そういう時は、都度日奈が鼓舞するのだ。


「大丈夫だって! アタシの折り紙付きなんだから!」


 日奈は、診療所を出た足で万屋に向かった。

 社長室には、市原と天城以外人はいない。情報を他に流すのは、ここで擦り合わせを終えてからということだろう。


「日奈君、よく来たね」


「お待たせしちゃった感じ?」


 日奈が聞くと、市原は首を横に振る。それからテーブル脇のテレビに目を向けた。


「日奈君の健康が最優先だ。おかげでテレビ休憩ができたよ。こういう時間でもないと、天城君が仕事を次から次へと持ってきてしまうからね」


「お言葉ですが社長。そうしなければ、締め切り直前になってからまとめて判を押そうとするでしょう?」


「締め切りを守っているんだから文句はないだろう?」


「提出できるものは、早ければ早いほどいいのです。人から人へ渡る書類であれば尚更、滞ってからでは遅いと思いませんか?」


 天城の視線が、次は日奈に向けられる。ここで矛先が向くとは。日奈も日奈で、学校の提出物は遅らせてばかりいる。そんな日奈からすれば、締め切りを守っている分、市原の方が偉かった。


「あははー……気を付けようね……お互い」


 八の字に眉を曲げ、日奈は乾いた声で言う。

 ちょうどその時、テレビから吉野の声が聞こえてきた。市長ともなれば、メディアへの露出も多いのだろう。テレビっ子ではない日奈にはピンとこなかったが、内容は聞き覚えのあるものだった。


「二十七年前のことになりますね……痛ましい事故でした。ちょうどヤエザクラがそびえるあの場所に――」


 この間のコーナーの再放送だ。前と違うのは、吉野が最後まで話し切れなかったこと。市原がリモコンを操作し、ぶつ切りに電源を落としたのだ。その所作は、いつもの温厚な彼からは想像ができないほどに荒々しいものに感じられた。


 一瞬で空気が強張り、日奈はどう声をかけたものかと思案する。口火を切ったのは、市原だった。


「驚かせてしまってすまないね。ほら、今から大事な話をするだろう? 雑音はなるべくなくしておくべきだと思ったんだ」


 市原の瞳は、深淵のようで真意が辿れない。探ろうと思ったら最後、深い闇の飲み込まれてしまいそうな錯覚。日奈は気を取り直して、当初の目的を果たそうと話を始めた。


「――で、ロケットを持つ魔女について飾の魔女に聞いてみたの。そしたら彼女、すごい驚いたんだ」


「魔女からすれば、かなりの機密情報だったのかもしれないね」


「初歩的な質問で申し訳ないのですが、ロケットというのは写真を入れるあのロケットで間違いありませんか?」


 天城にしては珍しく、おずおずと挙手をして質問する。

 ロケットと聞いて、宇宙に行く方を想像したのだろうか。そう思うと、途端に天城が可愛く見えてくるものだ。


「もしかして天城さん、あっちのロケットだと思ってた?」


「い、いえ……そんなことは。確認です、確認」


 この佇まいで、そのお茶目さは卑怯だ。怜と出会っていなかったら、求婚するところだった。それくらいには、天城の一面が日奈の心を刺激していた。


「ロケットは、優れた魔女の証。蛇の魔女はそう言っていたんだね?」


「うん。確認してみたけど、蛇さんはロケット持ってないみたい」


「持っていれば、確保した時に見つかっただろうからね。それに関しては真実だと思うよ」


 果たしてロケットがどういう形状をしているのか。そこまでは蛇の魔女から聞くことはできていなかった。これからは気紛れと言っていたが、元から教えることは絞っていたような印象だ。

 適度な情報で、ギリギリ日奈が敵の影を追えるような。蛇の魔女が腹の内に何を抱えているのかは、話していても日奈には掴めなかった。


「貴重な話をありがとう。日奈君、次蛇の魔女から話を聞ける機会があったら、ロケットを手にする条件について聞いてみてくれ」


「おっけー。本当は今すぐ聞いちゃいたいけど、ここは押してダメなら引いてみろ作戦だから!」


 その作戦名に、市原と天城は首を傾げる。どうやら、二人には伝わっていないらしい。


「蛇さんって寂しがり屋だからさ。しばらく会いにいかなければ、人肌恋しさに教えてくれると思うんだよね。だから、しばらくはお預けってわけ!」

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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