Case02.星の魔女#10
「それにしても、中々強敵だったみたいだな。一人だったのか?」
「ううん、圭太が――……あ……」
朱美からの問いが、日奈が忘れ去っていたもう一人の人物を思い出させる。
怜と違い、こちらはさらに長時間放置してしまっている。冷静になったはずの日奈に、焦りの色が見え始める。
「圭太がどうしたんだ?」
「やっば! 忘れてた!!」
日奈は通信機を操作して、圭太と接続する。
「圭太、聞こえる?」
星の魔女を討伐してようやく落ち着けるかと思ったら、想像以上に慌ただしい。
言い訳が許されるのなら、むしろ今まで圭太からの連絡がなかったことの方が驚きだ。危険な目に遭わなかったのなら良かったが、あまりにも接敵しないことを不思議がってもおかしくはなかった。
圭太の本心は分からないが、自分の作戦、発言がこんなにも信用されているとなると、結構罪悪感が湧いてくる。なぜなら、それを裏切って一人で星の魔女と戦っていたのだから。
やがて、ぶっきらぼうな声が返ってくる。
「なんだ? こっちは全く進展ないぞ。っていうか、こんだけ歩いて何もないとなると、戻って作戦を練り直した方が――」
「あー……そのことなんだけど……」
「ん? ……もしかして、戦闘中か!」
時間差で警戒心を高めた圭太に、日奈は心の中で合掌する。ここまで素直な反応だと、益々悪いことをしたと実感してくる。
(今度ご飯奢ってあげるか。ポンドCでだけど)
「いやー……戦ってるというか……もう戦ったというか……」
「…………」
二人の間に気まずい空気が流れる。対面での会話に比べて表情や仕草が見えない分、無言の圧力はどんどんとのしかかってくる。
耐えかねた日奈は、開き直って全てを暴露することにした。もちろん、できる範囲でだが。
「魔女は倒したから、今回の作戦は終わり! 出発地点の駅集合で!」
「あ、おい! 待て――」
日奈は一方的に通信を切る。文句なら、今ではなく後で聞く。直接なら、少なくともさっきみたいな空気にはならないはずだ。
「ふぅ……」
「良かったのか? そんな雑な報告で」
「いいのいいの! それに、これから社長にも連絡しないとだし!」
と、連絡を入れる前に日奈には確認しておきたいことがあった。
「朱美さんに助けてもらったことって、社長に話しても大丈夫?」
何せ、今日まで一切行方が掴めなかったのだ。助太刀に入ったことの方がイレギュラーで、朱美の本意ではなかったのかもしれない。
日奈としては、再会できた嬉しさを共有したかった。しかし、それは叶わない。朱美は伏し目がちに言った。
「黙っておいてくれ。もういつ死ぬか分からない体だしな。ほら、猫は死ぬ時に消えるっていうだろ?」
茶化したような言い振りだが、死に際を把握させまいという朱美なりの気遣いだったのだろう。生死が不明ならば、生きているかもしれないと希望を抱くことができる。
またこうして、ふらっと助けにきてくれるかもしれない。だから日奈は頷き、この再会を自分の中で大事にしようと誓った。
「もしもし社長? アタシアタシ! 異能者を襲撃してた魔女、倒したよ! うん、死体は任せちゃっていいんだよね? うん、うん、はーい。んじゃ、またね!」
「ご苦労さん。じゃあ、私はそろそろ行くよ」
日奈が報告を終えたのを見計らって、朱美は別れを告げる。
「もう行っちゃうの? せめて圭太には会ったらいいのに」
「あいつはダメだ。なんかの拍子に絶対漏らす」
「そっかー……でも、たまには顔見せてよ! みんな心配してるんだから!」
それに沈黙を返し、朱美は日奈に背を向けて歩き出してしまう。その背中が見えなくなる前、顔の高さまで上げた左手を前向きな返事だと受け取った。
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