表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case02.星の魔女
24/73

Case02.星の魔女#9

 朱美の発言に、星の魔女は鼻を鳴らす。そうして薄ら笑いを浮かべた後、「分かってるのカ?」と続ける。


「こうして私はまだ立っていル。お前の予知ハ、妄言にすぎないということダ」


 満身創痍の日奈は後回しにして、まずは朱美からとでも言いたげに、星の魔女は踏み出す。

 死への目盛りを進めるように、朱美に一歩、また一歩と迫る。


「その魔女は異能で未来が見えるの! 朱美さん、気を付けて……!」


 星の魔女がその気になれば、朱美の体に拳を打ち込むまでに片時の猶予もないだろう。それでも、固く乾いた音を立て一歩ずつ近づいていくのは、相手に畏怖を抱かせるのが目的にも思える。

 未来を知る自分を愚弄した痴れ者に、鉄槌を下すと言わんばかりに。


「へぇ、未来が……。じゃあさ――」


 不意に、朱美が地面を指差す。


「そこ、何があるか分かる?」


 星の魔女の足が止まる。そこはちょうど、星の魔女が次の一歩で足を乗せるはずの場所だった。


「……なんダ?」


 朱美の問いは、星の魔女には通じなかったようだ。困惑を露わにするだけで、質問の真意には辿り着けていない。


「あんたが次に踏み出す一歩。そこで何が起こるか、未来を見られる異能とやらでは分からないのか?」


「……なんだト?」


 今度の疑問には、星の魔女の刺々しい声音が強調されていた。一度ならず二度までも、先の出来事を朱美は語った。独り舞台を我が物顔で闊歩され、星の魔女は怒りを見せたのだ。

 だが、それはあくまで静かな闘志。決して、魔女特有の激情ではない。


「いいだろウ。お前の下らない予知ごっこが偽りだト、証明してやル」


「いいね、そうこなくっちゃ」


 朱美は上着のポケットに手を入れたまま、不敵な笑みを浮かべる。

 日奈には結末が分かっていた。未来を知ることができなくても、経験が物語っている。そして、この一連のやり取りにおいて、その経験こそが星の魔女に不足していたものだった。

 相手の使う異能がどのようなものであるか。それを星の魔女は知っておくべきだった。


 なんの警戒もなしに、星の魔女は足を持ち上げる。それから、一歩を踏み出す。下半身に伴って上半身も件の地点に移動していく。それを見届けた朱美は、短く呟いた。


「――”悪戯(トリック)”」


「がはっ……」


 次の瞬間、星の魔女が片膝をついて屈する。地面に泉を作るのは、おびただしい量の血液。当然、それは星の魔女自身のものだ。


「がふっ…………な、何をしタ……」


 内から溢れる赤い水分に溺れながら、星の魔女は朱美を見上げる。

 答え合わせと称して、朱美はポケットから出した左手を見せびらかすように掲げる。その手中には、手の平サイズの拳銃が握られていた。


「早撃ち、カ……? それなラ、どうして弾道が予測できなイ……!」


「だってこれ、弾入ってないし」


 その言葉の通り、首をもたげた銃に弾は入っていなかった。


「それに、体のどこにも穴なんて開いてないだろ?」


 自分の体に目を落とし、星の魔女は驚きの声を上げる。自分がいかにして致命傷を負ったのか。それを解明する情報が明らかに不足していた。


「なゼ! なぜダ!」


 星の魔女は血を撒き散らして、朱美に食ってかかる。未来という果てしない答えを知れるというのに、目の前の状況、相手の手札すら今は知ることができなかった。そのあまりにも皮肉めいた状況に、日奈は一種の哀れみを覚えていた。


「敵に説明するほど、私も親切じゃないのさ。一つ言えるのは、未来ばかり見ていると過去に足元を掬われるってことだ」


「過去……だト……」


 返す言葉は途切れかけ、頭もゆらゆらと揺れ始めていた。放っておいても、直に星の魔女は死ぬだろう。

 苦しむ時間は短い方がいい。せめてもの情けだと、日奈は彼女を背後から貫いた。


 朱美がいる時点で、ロケットに関する魔女の話は聞けない。であれば、脅威の排除が最優先だ。


「朱美さん、ありがとう」


「困ったときはお互い様だ。日奈こそ、結構お疲れじゃないか?」


「そうだね……」


 最後の一発を撃って、日奈に残されたネイルチップはあと一枚。ここで敵の増援が来たりすれば、さすがの日奈も仲間を呼ばなければならない。

 ――そういえば。


「怜!」


 戦いの途中から一切応答がなかった。というよりも、日奈自身聞く余裕があったのかも怪しい。


「怜?」


「友だち友だち! ちょっと連絡取りたいから、朱美さんはそこで待ってて!」


 日奈はその場から離れ、物陰に隠れる。朱美相手であっても、怜の存在を口外するのは憚られた。

 深呼吸をして気持ちを落ち着けた後、声が上擦らないよう注意を払って口を開く。


「……怜?」


「……良かった」


「え?」


「無事で、良かった……」


 顔が見えないから、たしかなことは分からない。けれど、震える声は怜の思いを如実に表していた。

 これまでで一番心配をかけた。日奈の人生の中でトップ3に入る危うさだった。帰ったら力強く抱擁しようと、日奈は心に決めた。


「今夜は寝かさないよ」


「ふふっ、何それ」


「人生で一回は言ってみたかったんだよね。アハハッ、夢叶っちゃった」


 あの時、朱美が助けに入ってこなかったら、自分は勝つことができたのだろうか。そんな仮定に意味はないと日奈は知っている。振り返ってもギリギリの戦いだったが、結果的に勝ったのだから。

 最後に笑えるのは、勝者にだけ許された特権だ。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ