Case02.星の魔女#7
ユニーク150PV、ありがとうございます。
「お待たせ! 待ったかな、ごめんね」
「…………」
魔女は何も答えない。日奈も、言葉に反して真剣な面持ちを崩さなかった。
ここは戦場だ。どちらかの命が散るまで終結はこないだろう。
もちろん、観衆はいない。人目がないことは、魔女にとってもそうだが日奈にとっても好都合だった。だって、血なまぐさい戦闘なんて全然可愛くないから。
ダウンのポケットに入れた右手は、すでに銃を象っている。命の奪い合いに、開戦の合図はいらなかった。
「”ひとりあそび”!」
指先が即座に魔女に向けられ、爆ぜ、軌跡を描いて思いが撃ち出される。
だが、それは魔女の背中と平行を辿った。日奈が構えたのと同時、腰を低くして駆け出した魔女が弾とすれ違う。
弾速が遅かったということはない。それでも魔女は、発射された弾が当たらないギリギリまで体勢を落すことで回避したのだ。必要最低限のモーション、見てからの回避は不可能な距離感のはずだった。
となれば、この魔女の異能は――
(未来を見る力……! 蛇さんの言う通り、星の魔女だ!)
結論に至ったのも束の間、迫る影は日奈の懐に入り込んでいた。
力強く踏みしめた足元をひしゃげさせ、星の魔女は日奈の顎目がけて拳を振るう。
「やばっ……!」
慌てて顔を上方に逸らす。が、素早い突き上げに反応が間に合わず、額を手の甲が削り取る。追撃はさせまいと、日奈は後ろに跳ね一気に距離を取る。
軽やかな身のこなし、迷いない一挙手一投足。飾の魔女とは違い、明らかに戦うことに慣れていた。
加えて、日奈の異能は相手の十八番である超接近戦とは相性が悪い。そして、相手の異能は未来予知。いくら早撃ちに自信があっても、軌道を読まれていては豆鉄砲と変わらない。
日奈は、対決するうえでこれ以上ないハンデを背負わされていた。
「……怜、アレお願いしてもいいかな?」
「もう少し待ってほしい。あと五分……いや三分で解析する」
「ちょーっとキツそうだから、なるはやで頼むよ……」
鼻筋を、温かい感触が伝う。軽く当たっただけだが、思っていたよりも傷を負っていたようだ。袖で血を拭い、星の魔女を両目で捉える。少しでも目を離せば、すぐにお陀仏だろう。
こうして向かい合っているだけで時間が経てば、どれだけ楽か。しかし、それを待つほど相手に温情はなかった。
星の魔女は、攻撃がないのをいいことに、つま先に十分な力を溜め、先ほどよりも速度を上げて日奈に飛びかかる。
「”ひとり――がはっ……!」
咄嗟の迎撃も間に合わず、腹部に拳が打ち込まれる。腰の捻りで勢いを増した拳面が、肺の空気を余すことなく押し出す。
体が折れ、浮いた顔に星の魔女が狙いを澄ませる。この距離で食らえば、昏倒は間違いなかった。
「日奈……!」
怜が声を上げた時のことだった。何かを察知した星の魔女が、日奈から離れていく。
星の魔女が引いたところには、指先ほどの大きさの穴が煙を立てている。絶体絶命の状況でも、日奈は諦めることなく立ち向かっていた。
「いったー……。これ、世界チャンピオン狙えるでしょ……」
顔を歪め、腹を撫でる日奈。彼女の左手の爪が砕ける。
「日奈、大丈夫なの!?」
「……アタシは大丈夫だからさ、怜は自分の仕事に集中して」
「うん……分かった」
言いたいことは山ほどあったのだろう。けれど、怜はそれを飲み込んでくれた。全部あとで言えばいい。二人で勝てば、また話せるのだから。
腹部への一撃は相手の芯を打ち抜いた。であれば、手を緩めず目の前の敵を圧倒する。星の魔女の考えには、日奈も同意だ。
空けた距離を再び詰めようと、星の魔女は動き出した。
「……できた。そっちに送る」
「ありがとね」
日奈はポケットからサングラスを取り出す。今まででの攻防でこれが壊れていたら危なかった。
夜にサングラスをかけては視界が悪くなってしまう。そんな心配は無用だ。
日奈の視界には、星の魔女の姿が鮮明に映し出されている。これまでと違うのは――
「……!」
星の魔女から、初めて感情と思しき空気が伝わってくる。
それもそうだろう。日奈が攻撃を避けたのだ。それも、自分と同じく先を読んだかのように。
「うん、今日も精度はバッチリだね」
「本気出したんだから、当たり前」
そうは言うが、怜もひと安心のようだった。
今、日奈には星の魔女の攻撃の軌道が見えている。”孤独な論理”がもたらす、人の限界を超えた情報処理能力によって、高精度の行動予測が実現したのだ。
日奈の継戦能力ありきではあるが、対処の難しい魔女に対してはこの手段が最も有効だった。
とはいえ、自分と相手が共に先読みで行動をしたらどうなるか、日奈には見当もつかなかった。相手が避けることを先読みしたうえで放った攻撃も、それ自体を読まれて避けられてしまうかもしれない。
(そういえば、さっきまでの攻撃ってなんで避けられたんだろ?)
先読み同士がぶつかった直前のやり取りではなく、出会ってすぐのことだ。もし、一方的に未来を知れるのであれば、避けた先に追撃を入れることもできたはずだ。果たして、”しない”のか”できない”のか。それ次第では、星の魔女の未来予知には付け入る隙が存在するということだ。
日奈は右手を構える。”ひとりあそび”はまだ撃たない。それを察したのか、星の魔女は肘を突き出してくる。そこからの動きは分かっていた。
一歩引くことで初撃を躱し、続く回し蹴りを頭を下げて回避。右、左と振られる鋭い拳を避けつつ、距離が空けば”ひとりあそび”で応戦する。
十数分前と比べて、星の魔女の動きに対応できるようになっていた。
「……ちっ」
寡黙と思われた星の魔女にも、苛立ちが滲み始める。
ここまでの戦いで、星の魔女の予知は精度が高くないことが分かった。その証拠に、日奈の放った数発の弾が、体を覆う布を切り裂いていた。
未来を知る異能というのは、この程度なのだろうか。たしかに、星の魔女の体術と合わされば相当な脅威だ。しかし、コンピューターの予測の前に無力だった。本当に未来を見られる異能であれば、これにも対策できると思っていたのだが。
思考に占有されそうになった頭を、日奈は振ることでリセットする。
疑問の解消は、追い詰めてからだ。さすがに圭太も何かおかしいと勘付くかもしれない。時間はあまり残されていなかった。
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