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ガン・アンド・ロジック  作者: 大豆の神
Case02.星の魔女
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Case02.星の魔女#4

 怜と圭太の親睦会兼、(星の)魔女に対する一応の決起集会と称して、日奈は二人を連れてポンドCに向かっていた。

 日奈と暮らしている以上、魔女に関して無知というのも逆に怪しいので、設定上怜は魔女を異形の化け物と認識していることになっている。


 そして、圭太には怜が異能を持っていることは隠しておきたかった。しかし、家の中ではいつ油断してしまうかも分からない。それに何を目撃されるか気が気ではない。ということで、家ではない場所に行くことにしたのだ。


 そうなれば、日奈が行きつけのこの店を選択するのは当然の帰結といえる。それには怜も納得していたが、やっぱり不安は残っているようで。


「日奈、テンション上がって口滑らせたりしないでよね」


「うえっ!? アタシ、そんなに信用されてない感じ?」


「こういうことに関しては、全く信用してない」


「そんなー!」


 賑やかしい二人(主に日奈)の背後、三歩ほど後ろを圭太は歩いていた。この程度の距離であれば、会話の内容は丸聞こえだし、それをあえて指摘するほど圭太も愚かではない。

 ただなんとなく、日奈と怜には他人が割って入れないような結束があると感じるだけだった。それが目の前で話されている秘密に起因するものなのかまでは、圭太に察することはできなかった。


 視覚的にも騒がしい歓楽街の一角に、ポンドCという妖艶な光が見えてくる。ピンクの明かりに照らされた圭太の顔が青ざめているのに気付き、怜は思わず声をかける。


「佐野君、体調でも悪いの?」


「いや、大丈夫。悪いのは深山だ」


 諸悪の根源――日奈はニヤニヤと口元を緩めながら、とぼけた声を出す。


「えー? なんのことかなー? アタシ、分かんないや」


「こいつ……!」


 早々に開戦しそうな空気に、怜は置いていかれていた。日奈と圭太には、自分の知らない繋がりがあるのだ。それを理解した怜の胸中には、仄暗い感情が渦巻く。


「圭太の剣の師匠がみゆきちゃんで、ここのオーナーだからって何も関係ないでしょ?」


「俺があの人のこと苦手だって、お前も知ってるだろ」


 二人が応酬している声も、どこか遠くから聞こえてくるようだ。怜にとっては日奈しかいなくても、日奈には怜以外の拠り所があるのだろう。それが、怜には堪らなく苦しい事実だった。


「……怜? どうしたの?」


 俯く怜に、日奈が声をかける。この優しさが他の人に向けられているとしても、怜は日奈を心配させたくはなかった。だから、この黒い思いは自分だけで抱えると決めた。


「ううん、ちょっと肌寒かっただけ。早く中入ろ」


「そだね。圭太も覚悟が決まったら入ってくるんだよー!」


「……遅れて入った方が何言われるか分かったもんじゃない。俺も行く」


 そうして三人は、一度のベルの音で入店した。

 幸はちょうど、常連客の前で熱唱しているところだった。日奈たち若人には聞き覚えのない演歌を、クセの強いこぶしで歌い上げている。カラオケブースの賑わいを見るに、幸のパフォーマンスは大好評のようだ。


 盛り上がりに水を差すわけにはいかず、日奈たちは入口で待機していた。少しして、顔を火照らせた幸が一行を発見する。


「日奈チャン怜チャン、それに圭太も! 声かけてくれたら良かったのに」


「だってみゆきちゃん、すごい気持ち良さそうに歌ってたからさ。邪魔したら悪いかなって」


 日奈がそう言うと、怜と圭太もこくりと頷く。少年少女の気遣いに幸は心を和ませた後、改めて三人の顔を見直した。それから頬に手を当てた。


「それにしても珍しい顔ぶれね、両手に花なんてやるじゃない」


 幸は、ソワソワした様子の圭太を肘で小突く。


「別に、そういうわけじゃ……」


「なーに? 声が小さくて聞こえないわよ?」


「あんたの声がデカいんだって……」


 圭太はすっかり参ってしまっている。入口前の話をまともに聞いていなかった怜でも、圭太は幸が苦手であるとすぐに分かった。

 いつも通り二階席に通され、注文を終える。火鍋は売り切れていたので、今日は通常メニューだ。


「お待たせー、かつ丼定食よ。……みんな同じメニューだけど、良かったの?」


「いいのいいの! ってか、これじゃなきゃダメだから!」


「……そう? 何かあったら呼んでちょうだい」


 不可解そうに首を傾げた幸は、階下に下りていく。

 それを確認した怜が、日奈に尋ねる。


「ねぇ日奈、かつ丼頼んだのってもしかしなくても――」


「魔女に勝つため、に決まってるっしょ! いつ襲われるか分からないから、そん時のためにゲン担ぎしとくってわけ!」


 一ミリも疑うことなく言う日奈に、圭太は「下らねぇ……」と一言零す。

 だが、同時に圭太の腹の虫が情けない音を鳴らした。


「アハハッ、冷めたら勿体ないし食べちゃおっか」


「そうだね」


「……ああ」


 同じメニューを前にして、それぞれの感情を胸に手を合わせる。

 続く言葉は、綺麗に重なった。


「いただきます」

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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