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灰被りの聖女  作者: 彩峰舞人
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異界人①

 謁見の間の大扉がゆっくりと開かれていく。


 憂いを帯びたユアの瞳が真っ先に捉えたのは、壇上のすぐ左脇、聖輪騎士団を従える形で立ち並ぶアルフォンスの姿だった。


(アルフォンス!)


 ユアは叫びたくなる気持ちを辛うじて心の内に留めながら、思いがけずに再会した恋人の姿をひたすら見つめていると、


「なにをボケっと突っ立っている。さっさと前に進め」


 側に立つ近衛兵の苛立った言葉で我に返ったユアは、高鳴る心臓の鼓動を感じながらレガード王がいる壇上に向かって歩を進めていく。


 ユアはアルフォンスの視線を感じつつ指示された場所で足を止めると、一拍の間を置いてこの場を取り仕切る宰相から言葉が発せられた。


「ブリュンガルデ王国の偉大なる王にして北大陸の覇者たるレガード・エシンバラ・レスター王の言葉である。心して拝聴せよ」


 レガード王に一礼し、礼式通り片膝を床に落とすユア。

 謁見の間に集まった上級貴族に近衛兵、そして聖輪騎士団がユアに向ける目は恐ろしいまでに冷たかった。

 

「灰被りの聖女ユアよ。話は聞いている。日々与えられた職務を全うしているようで何より」


 言葉自体はユアを労うそれだが、そこに感情は一切込められていないことがわかる。それでもユアは胸に左手を押し当てながら深く顎を引くことで感謝の意を伝えた。


「うむうむ。ところで近頃はそなたの力が大分衰えたとの報告を受けている。これに相違ないか?」


 ユアは一瞬のためらいののち自分でもわかるくらいのぎこちなさで顎を引くと、レガード王は豊かなあごひげを撫でつけて言った。


「特異な癒しの力を持ってはいてもやはり奇形種はどこまでいっても奇形種ということか。では今よりをもって聖女の任を解くとする」


「──ッ!? お待ちください! たしかに力は衰えていますがまだまだやれます!」


 咄嗟に顔を上げたユアがそう叫ぶと、目を吊り上げながら近づいてきた宰相が、ユアの左頬に思い切り平手打ちを見舞った。


「誰が口を開いてよいと言ったッ! 卑しい身分である貴様がこの神聖なる謁見の間で口を開くことを許可した覚えはないぞッ! ましてやレガード王がお決めになられたことに対して意を唱えるなど言語道断ッ!」


 視界がチカチカ光る中で右に傾いた体を元の位置へとなんとか戻し、ユアは額を床に擦りつけるように平伏した。


 耳鳴りが次第に引いていくのと同時に、方々から嘲笑うような声が聞こえてくる。


「宰相、余の話はまだ終わってはいない。それくらいにしておけ」


「はっ。失礼いたしました」


 宰相は忌々しいとばかりにユアを今一度睨みつけると、小さな舌打ちを一つ落として元の位置へと戻った。


 混乱の途にあるユアに、レガード王が笑顔で言葉を続けていく。


「後のことはなにも心配要らぬぞ。この度異界人(いかいびと)召喚によって我がブリュンガルデ王国は新たなる聖女を迎え入れることになった」


「──ッ!?」


 異界人召喚と聞き、ユアは開きかけた口を閉じることに腐心する。今しがた叱責(しっせき)を受けたばかりなのに、また同じ過ちを繰り返すところだった。

 

 異界人召喚とはその名の通り、こことは異なる世界の人間を呼び出す究極の召喚術である。


 記録によれば過去召喚された異界人は、この世界の人間には決して見ることのない黒い髪と黒い瞳を持ち、その身に強大な力を宿していたという。


 最初に異界人召喚を行ったのは、今は滅んでしまったアステリアという国で、いざ戦争時には常識では考えられない力を異界人は示し、勝利に大きく貢献したという。


 程なくして常識外れの力を持つ異界人のことは、すぐに各国が知るところとなる。

 時は各国が覇権をかけて熾烈な争いを繰り広げていた戦国の時代。

 各国はこぞって異界人召喚を始めるが、数年の時を経て異界人召喚は禁忌(きんき)とされてしまう。


 異界召喚が禁忌となった理由のひとつに召喚に大量の生贄が必要なことが挙げられるが、戦争には犠牲がつきものとの共通認識があったため結局は建前に過ぎなかった。

 ではなぜ異界人召喚を禁忌にしたのか。その最大の理由は異界人召喚を実行した国々は一つの例外もなく召喚した異界人によって滅ぼされかけたためである。


 異界人が総じてそのような行為に走るのかは所説あるが、生贄となった人間の怨念が異界人に取り憑いて頭をおかしくしてしまうというのが今ではもっとも有力な説だと、ユアは以前手に取った本で読んだことがある。


 〝黒の災厄〟と言われ恐怖の象徴であった異界人最期の一人が死に絶えてからすでに五百年が経過している。レガード王の話が事実ならば五百年の時を経て再び禁忌を犯したということで、それはすなわち王の名において大量虐殺が行われたということに他ならない。


(どうかタチの悪い冗談であってほしい)


 心の底からそう願うユアであったが、レガード王の言葉が真実であることを間もなく知ることとなる。


「では紹介しよう」


 嬉々としたレガート王の声に呼応する形で背後の扉が厳かに開かれていく。

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